「溺愛」「婚約破棄」「ざまあ」短編集4

克全

第6話

「火事だぁぁあ!
火事だぞぉぉぉぉお!
起きろぉぉぉぉお!
起きて火をけせぇぇぇぇえ!」

最低最悪です!
ここまで卑怯下劣な手段を使ってくるなんて!
もちろん放火の可能性も想定していました。
だからこそ、宿泊場所は王領地や弱小貴族領をを避けて、ある程度力のある貴族領を選んできたのです。

王太子でも、さすがに有力貴族領で放火まではさせないと考えたのです。
まして、エイヴァとライリーはそんな危険は犯さないと考えたのです。
ですが、放火という悪逆非道な手段を使ってきました。
もし、エイヴァとライリーが黒幕だったら、レネオス公爵家が他領の放火に加担していると露見したら、レネオス公爵家の立場は著しく悪化してしまいます。

これは、私も決断しなければなりません。
今までは争いを大きくしないように考えていました。
ライリーに似て馬鹿で下劣で性悪でも、エイヴァも孫の一人です。
殺そうとまでは思っていませんでした。
ですが、レネオス公爵家を危険にさらすのなら、貴族家の隠居として、先代当主夫人として、貴族らしい非情の決断をしなければいけません。

「おばあ様!
貴族の責任として、私たちも消火を手伝うべきではないのですか?
ここで街から逃げ出すのは、卑怯ではありませんか?
せめて救助活動を手伝うべきだと思います!」

ああ、なんて立派に育ったのでしょう。
私の教育の賜物と考えるの手前みそ過ぎますね。
持って生まれた慈愛の心が発露したのでしょう。
私の貴族教育が表に出たのなら、ここは何をおいても逃げ出そうとしますね。
私の貴族教育は、貴族らしくはありますが、冷徹過ぎるところがありますから。

「カチュアの考え方も貴族として正しい判断です。
ですが間違いでもあります」

(この襲撃はカチュアを狙ったものです。
これ以上ここにカチュアが残ることは、民を刺客の襲撃に巻き込む可能性があるので、ここは街の外に出るのが正しいのです)

私は民に聞かれないように、カチュアにだけ聞こえる小声で話しました。
カチュアはハッとして哀しそうな顔をしました。
自分のせいで民が家を焼かれ、死傷した者までいるかもしれない事に、とても責任を感じているのでしょう。
その心を少しでも軽くしてやらないといけません。
ですが何よりも、カチュアを護ることが優先です。
同時にレネオス公爵家も護らなければなりません。

「アレクサンダー!
盗賊が襲撃のために火を放った可能性があります!
我々は門の前に陣取り盗賊の襲撃に備えます!」

「はっ!
騎士隊戦闘準備!
盗賊の襲撃に備えて門の前で臨戦待機!」

アレクサンダーが私の意をくんで、民に聞こえるように大声で命令をくだし、今回の襲撃がカチュア暗殺のためではなく、盗賊が街を狙ったものだと民に刷り込んでくれています。
これでカチュアとレネオス公爵家の両方を護れればいいのですが……


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