「溺愛」「婚約破棄」「ざまあ」短編集4

克全

第18話

「黙れ、黙れ、黙れ!
魔女の分際で聖女を騙るなど不遜の極み!
国王陛下と神に代わって成敗してくれる!」

敵の総大将がわめいています。
私の説得は聞いてもらえませんでした。
私を貶める事で、自分たちの正義を主張したいのです。
でも、本当は自覚しているのです。
自分たちこそ邪悪な存在だという事を。
知ったうえで、さらなる欲望を満たすために、私を魔女に仕立てたいのです。
夢のお告げ通りに自分を鍛えたことで、多くの力を得た私には、そういう事が分かってしまうのです。

「ならば仕方ない。
戦うのみだ!」

私の話を聞いたカデンも、戦うと言っています。
敵将は私を殺そうとしましたが、今の私を殺す事は不可能です。
今の私の力なら、敵将どころか敵全軍を殲滅するのも簡単です。
そうすれば、カデンたちが戦う必要はないのです。
誰一人死傷することはありません。
ですが、嫌なのです。
人を傷つけ殺すなんてできません!

「一人も死ぬんじゃないぞ。
死んじまったらもう二度とあの旨い飯が食えなくなるぞ。
極上のエールもワインも飲めなくなるんだぞ。
前進の合図と撤退の合図は間違えるなよ!」

「「「「「おう!」」」」」

自由戦士の一人が、配下を上手く使って敵軍に大損害を与えています。
自由戦士の一人が、縦横無尽に暴れまわって、敵の貴族をなで斬りにしています。
全く危なげなく戦っています。
負傷する者がいたら助けようと思っていましたが、そんな必要はありません。

「死にたくない者は武器を捨てて地に伏せろ!
罪を犯していない者は許してやる。
罪を犯した者には相応の罰をあたえる」

敵大将を討ち取ったカデンが降伏を勧めています。
ですが、なぜ全員を許すと言わないのでしょうか?
罪を犯した者とは、どういう者の事なのでしょうか?
いったいどんな罪を犯したというのでしょうか?

「お前!
村の娘を嬲り殺しにしたな!」

「ヒィィィィ!
許してくれ、許してくれ、許してくれ!
たかが平民娘を犯しただけじゃないか!
殺したわけじゃない。
勝手に死んだんだ!
俺だけじゃない!
こいつらも一緒にやったんだ!」

「まて、待ってくれ!
俺たち貴族だけがやったんじゃない。
平民の兵士どもも我らの後で犯したぞ!
それに実際に殺したのは平民兵だ。
我らは犯しただけだ!」

「ヒィィィィ!
お許しください、お許しください!
しかたなかったんです。
我々は貴族様に命じられて仕方なくやったのです!
やりたくてやったわけではありません!」

醜い!
醜すぎます!
嘘つきです!
全員嘘つきです!
全員自分たちの獣欲を満たすために、村娘を犯したのです。
嬲り殺しにしたのです!
こんな能力があるから、聞きたくない、見たくないことを見聞きしてしまいます!

「嘘をついても分かるぞ!
死にさらせ、腐れ外道ども!」

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