「溺愛」「婚約破棄」「ざまあ」短編集4

克全

第8話神獣視点

聖女も無理無体を言う。
余のような長く生き続け、知識の塊のような神獣だからできるが、普通の精霊なら得意不得意があるのだ。
水精霊や風精霊にいくら頼んでも、火を熾すのは不可能なのだ。
この聖女はそんな事をわかっているのか?
わかっていないだろうな。

この聖女に余の偉大さを思い知らせてくれよう。
聖女が望むのなら、どれほどの珍味佳肴でも再現してやれる。
小型の亜種ならば、人間では絶対に狩れない竜であろうと、簡単に狩ってやる。
人間が好む牛馬や魚介など直ぐに狩り集めてやる。
だが聖女はそんな事は望んでいないだろう。

だから肉の実を使って料理を作ってやった。
とは言っても簡単なモノだ。
肉の実で人間が食べられる部分を食べやすい大きさに切り、オリーブオイルをしいた鍋に入れて炒めるだけだ。
味付けも岩塩だけだ。
聖女が来ると分かっていれば、デミグラスソースやチーズソースを作っておいてやったのだが、直ぐには用意できん。

いや、聖女なのだから、生き物を殺して材料にするデミグラスソースは嫌がるかも知れないな。
今から野菜だけで創り出す、時間のかかるソースは作っていてやろう。
幾十種類もの果実と野菜に、香辛料や塩や砂糖を加えて煮詰めた濃厚ソースとウスターソースは喜ぶかもしれん。
今は、直ぐに完成するトマトソースとキウイソースで満足してもらおう。

「まあ!
なんて美味しいのかしら。
こんな料理が作れるなんて、ハクちゃんは天才ね!
心から尊敬するわ」

ふむ!
そこまでほめるのなら、これからも作ってやるのも、やぶさかではないぞ。
ふむ、誰か精霊を使いにやって、チーズや牛乳を買いにいかせよう。
チーズや牛乳なら、生物を殺して食材にするわけではないからな。
聖女も嫌がったりしないであろう。

ふむ、そうだ。
精霊ならば時間と場所をとわず現れることができるから、別の大陸にも買い物に行かすことができる。
醤油やポン酢を買ってこさせよう。
どうせあの大陸にまで行かせるのなら、みりんも買ってこさせよう。
いや、みりんを買ってこさせるのなら、色んな酒を買ってこさせようではないか。
料理に酒を使ったら、幅広い味が創り出せるぞ!

「ねえ、ハクちゃん。
今作ってくれているのはスープなのかしら?
とても美味しそうな臭いがするわね」

ふむ、勘違いしておるのだな。
あれらはスープではなくソースじゃ。
料理を美味しく、いや、肉の実を美味しく食べるためのソースじゃ。

「わん。
わん、わんわん!」

え~い、言葉が通じないのはまどろっこしいのぉ!
しかたないのぉ。
そんなに期待しているのなら、スープも作ってやろうではないか!

コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品