「ざまぁ」「婚約破棄」短編集

克全

第6話

聖女マリアの小屋の前は人で一杯だった。
人々は幸せそうに満足そうに笑顔を浮かべていた。
誰もが滅多に食べられない肉に舌鼓を打っていた。
普段の生活がギリギリだからこそ、一瞬のわずかな幸せを精一杯愉しむ。
多くの人々が集まっているので、くず肉と内臓だけでは、全員がお腹一杯にはならない。
だがその分、大麦粥とライ麦粥がたっぷりと煮られ、ライ麦パンも焼かれている。

「皆さんに聞いてもらいたいことがあります。
私はずっとここにいたいのですが、変な噂が立つと、貴族や神殿に囲い込まれてしまいますから、私の事は絶対に秘密にしてくださいね。
ですが、それでも、どこから話が伝わるか分かりません。
だから、将来のために、弟子をとろうと思います。
幸いといってはいけませんが、十三人の孤児がケガをしました。
彼らを弟子として薬師の技を伝えますから、そのつもりでいてください」

「「「「「オオオオオ!」」」」」

人々は大きくどよめいた。
彼らも聖女マリア様がいずれいなくなると覚悟していた。
だから後継者が育つことは喜ばしい事だった。

「ただ彼らを育てるためには、食料や薪などが必要になります。
私が猟師の技を使えることは、今日の事で分かってくれたと思います。
猟師をされている方々には悪いですが、森に入らせてくださいね」

「「「「「はい!」」」」」

猟師達は何も考えずに、直ぐに返事をしてしまっていた。
よく考えればわかる事だが、自分達の獲物が減ってしまうのだ。
だがそんな事を考える前に、聖女マリア様が必要なら狩りをするのは当然だと、そう思ってしまうくらい、貧民街の人達は聖女に心酔していた。

「ただ全く何もお礼できないのは心苦しいので、猟師の方々にもお礼はしたいです。
私が狩った獲物でお金に変えられる物は、その日手伝ってくださった猟師に半分差し上げますので、手の空いている日には手伝ってくださいね」

全ての猟師が聖女マリア様の技を思い出していた。
わずかな時間で、五人の猟師が三度も肉屋に往復した投擲術だ。
半分の料金でも凄い金額になる。
当然普段は今日ほどの狩りをしない事は分かっている。
そんな事をすれば、森の動物を直ぐに狩りつくしてしまう。
だから普通は狩る頭数を制限する。
禁猟しなければいけなくなると、猟師が食べていけなくなるので、普段から狩る種類と頭数を制限する事はよくある事だった。

「「「「「はい!」」」」」
「私が手伝わせていただきます」
「いや、俺が手伝うんだ」
「まて、まて、まて。
聖女マリア様に見苦しい所をお見せするんじゃない。
普通に順番を決めればいい」

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