「ざまぁ」「婚約破棄」短編集

克全

第3話

「森に行きます。
手の空いている者はついてきてください」

マリアはエイル神の聖女としての力を使う覚悟を決めた。
子供達は最低限の治癒術で治した。
これならば聖女の噂が広まっても、高位治癒術師だとはバレない。
だが、完治させていないので、孤児達は食べ物を採りに行けない。
十三人もの孤児達を食べさせる余力など貧民街にはないのだ。

だから、マリアは薬草を採集し動物を狩る決断をした。
高位治癒術が使える事が知られるよりは、薬草の知識があり、狩りができる事がバレた方がマシだった。
エイル神の神性の中には薬草神の力もあった。
ワルキューレの一柱として、戦闘力もあるのだ。

最初に孤児達の事を知らせてくれた男を含めて、五人の男がついてきた。
男達はいつも城外に出て森で狩りをしていた。
だからそれなりに身軽で力もある。
そんな狩人達が、聖女マリアが普段とあまりに違う事に驚いた。
治療の時以外は清楚で物静かな聖女マリアが、修道女着のまま崩れた城壁をものともせずに駆け上り、一気に城外に出ていったのだ。

慌てて追いかけ追いついた猟師達が見たのは、いつの間にか手に持っていた、小石大の崩れた城壁を投石にして、次々と鳥を狩る聖女マリアだった。
聖女マリアが小石で落とした鳥は、スズメとヒヨドリとムクドリといった小さな鳥、ハトとカラスといった中型の鳥だった。

「聖女マリア様!
これはいったい……」

「人々から謝礼を頂かずに治療をするには、自分で狩りくらいできなければいけないのですよ。
孤児達の食糧も必要です。
肉ばかりでは生きていけません。
貴方達は猟師として鳥を売ることができるでしょ?
私が狩った事は内緒にして、これを売って玄米かライ麦を買ってきてください。
いいですね」

「「「「「はい!」」」」」

聖女マリア様から厳しい視線を向けられて、断れる猟師はいなかった。
急いで聖女マリアが落とした鳥を集めて、手一杯になった男が王都内に戻ろうとした時、聖女マリアが追い打ちの言葉をかけた。

「ここに戻る時には背負い籠を持って来てください。
どうせなら皆に肉を振舞ってあげましょう。
そうそう、ちょうどいい大きさの小石も忘れずに持って来てください」

「「「「「はい!」」」」」

五人の猟師が次々と王都内の戻った後、人目がなくなったのを確認した聖女マリアは、聖女の力を惜しみなく使った。
エイル神は愛と結婚と豊穣の女神フリッグの召使だった事がある。
だからわずかながら豊穣の神性があるのだ。
聖女マリアはその力を使って薬草を大きく育て採集した。



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