「ざまぁ」「婚約破棄」短編集

克全

第1話プロローグ

大変なことになってしまいました。
これでは守護神に祈ることができません。
守護神との約束を破ったら、この国など簡単に滅んでしまいます。
その事は、過去に滅んだ国の事例を見れば明白です。
なにの、国王も重臣達も王太子の妄言を信じてしまいました。
もうこの国は腐っているのかもしれません。

そもそもチャールズ第一王子を王太子に選んだことが間違いです。
王太子の色情狂は社交界では有名な話なのです。
特に禁じられた関係を犯すのが大好きです。
一時は貴族達の夫人を誘い、不義密通を愉しんでいました。
時には、婚前交渉が厳しく禁じられている貴族令嬢まで誘惑しました。
そして最大の罪は、先代先々代の聖女を犯した事です。

守護神とラステ王家の契約では、穢れのない乙女が聖地で心を込めた祈りを捧げるという事になっているのです。
そもそも王城は、聖地を護るために、この地に築城されたのです。
王家に仇名す者が、聖女の祈りを邪魔することがないように、聖地である一角に守護神殿を建造し、守護神殿を護る城壁や塔、濠が造られているのです。

それなのに、抵抗する聖女を暴力で犯し、守護神との契約を危うくしたのです。
そのようなチャールズを立太子するなど、狂気の沙汰です。
まあ、だからこそ、私が守護神の聖女の選ばれたともいえます。
護身の術を心得、度重なるチャールズの誘いを跳ね除けてきた私が、チャールズの婚約者であった私が、守護神の聖女に選ばれたのです。

なのに、それなのに、国王も重臣達も、私の言葉を信じずに、チャールズの妄言を信じました。
私が公爵家出入りの庭師と不義密通を重ね、乙女でないのに聖女になっていると訴えを信じて、私を塔に幽閉させてしまいました。

これで王家が滅んでも、国王と重臣達の責任で、自業自得です。
ですが、巻き込まれて殺された庭師には可哀想な事をしました。
チャールズとカミラの陰謀に巻き込まれて、無残にも庭師は惨殺され、証言ができないようにされたのです。
そう、本当の悪人はカミラといえるでしょう。

国王と重臣達が妄言を信じたのは、私の実の妹であるカミラが、私を訴えたという事があります。
貴族家の常識からいっても、一族の恥になる事を表ざたにする事はないですから、妄言を信じてしまった事も、全く理解できないわけではありません。
ですが、もう少しちゃんと調べれば、カミラが嘘をついている事は、直ぐに分かるはずなのです。

リドス公爵家の恥にならないように、不義密通を黙っていたのは私の方です。
事もあろうにカミラは、私の婚約者チャールズと不義密通を重ねているのです。
姉の婚約者を寝取っているのです。
カミラの性格を考えれば、あわよくば王妃になりたいと画策していたのでしょう。
そんな事をしなくても、あんな色情狂いつでもくれてやりました。
王妃という重責も、他人に押し付けられるのなら押し付けたかったです。

ですが、この国の現状を考えれば、逃げるわけにはいきませんでした。
色情狂のチャールズが国王になり、聖女を襲う暴挙を止める者がいなくなったら、この国は滅びてしまいます。
国を失った民は大陸を流浪することになり、奴隷にされたり邪神の生贄にされたりしてしまいます。
カミラのような欲深で性悪な女と、色情狂のチャールズがこの国を支配したら、一日で守護神から見捨てられてしまいます。
国王や重臣は私に代わる聖女を手配してくれたのでしょうか。
とても心配です。

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