「ざまぁ」「婚約破棄」短編集

克全

第6話

私は、有頂天になってしまっていたのです。
地に足がついていなかったのです。
でも仕方がないではありませんか。
こんな醜い私を愛してくださる方がいたのです。

レオナルド様から、夫婦神の女神の仮面を贈られた時。
期待と不安を抱えて参加した舞踏会で、レオナルド様が夫婦神の男神の仮面をつけてくださった時。
それ以降は、毎回同じ仮面をつけて欲しいと言ってくださった時。
レオナルド様も夫婦神の仮面しかつけられなくなって、それでも不安で。
でも、皆のいる舞踏会で、堂々とプロポーズしていただいて。

「人の魅力は顔形ではないよ。
人の魅力は心のありようだよ。
貴族士族の中で、君ほど心の奇麗な人間はいないよ。
だから、婚約してくれないか」

こんな事を言われて、心惹かれない女などいません。
まして相手は大恩人のレオナルド様なのです。
今なら分かります。
私は有頂天になり、視野が狭くなっていたのです。

コナー伯父さんが急な病で亡くなられ、従兄が跡を継いだのですが、伯父さんほどの親密さはなくなりました。
露骨に避けられたりしたわけではなく、普通に親戚付き合いしていましたが、今考えれば、私は最大の支援者を失っていたのです。
この頃からレオナルド様と私への謀略は始まっていたのです。

互いの事に夢中になっていたレオナルド様と私は、気がついていなかった……
取り返しのつかない大失態です。
でも言い訳させてください。
レオナルド様も私も、本当に忙しかったのです。

将来の王と王妃として恥ずかしくないように、とても厳しい文武の鍛錬をしていたのです。
僅から時間も、社交の練習に忙しかったのです。
その時にしか、互いの愛を確かめる機会がなかったのです。
……本当に、情けない言い訳ですね。

「死になさい!」

私は、一瞬のすきをついて、拘束を外して監視を殺しました。
何の躊躇いもありませんでした。
義母に顔を焼かれて以降、私に殺人の禁忌などありません。
私を人間的にふるまわせていたのは、レオナルド様の愛と、今は亡きコナー伯父さんへの恩義だけです。

また誰かに裏切られ傷つけられることを恐れ、誰にも知られることのない、切り札となる武術を独学で覚えてきたのです。
大陸に残されたわずかな魔道具を買い集めていたのです
どうせ何もしなければ、アイラに殺されるだけです。
ウィンターレン公爵家の体面を傷つけないように、病死という形で暗殺されます。
私は今回の謀略の裏に、アイラがいると確信しています。
レオナルド様の顔に焼印を押すような残虐な所業が、私の顔を焼いたアイラの影を強く感じさせます。

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