「ざまぁ」「婚約破棄」短編集

克全

第4話

「待て、オリビア!
行ってはならん!
行けば王家のためにならんぞ!」

バカが何か言っています。
誰が待つというのです。
さっさと父に命令を伝えるだけです。

「待てと言っているだろうが!」

グドターナー侯爵が背後から迫っているようです。
チラリとジョージ王太子殿下の顔をうかがうと、殺せと言われています。
そう言っていただけるなら、全力でやれます。
グドターナー侯爵の気配を確かめながら、振り向きざま平手打ちをかまします!
いっさいの手加減をせず、全力の平手打ちです。
父以外には初めて振るう全力攻撃です!

私は、本当にバケモノかもしれません。
男に生まれていればよかったのに……
それなら軍人として評価してもらえたのに……
父の後継者になれたのに……
グドターナー侯爵の首から上が粉砕されました。
飛び散って原形をとどめていません。
壁に向かって肉片と液体になって飛んでいます。
思わず平手打ちに使った自分の右手を見てしまいました。

「おお、見事である、オリビア嬢!
レディに対する無礼に平手打ちは正当な行為であると、王太子として認める。
死んだのはグドターナー侯爵の不覚悟である。
民を護るべき貴族は常に己を鍛えておかねばならん。
それを怠ったグドターナー侯爵には怠惰の罪があったのだ。
それが裁かれた事、まことに重畳である。
では貴君らに再び問う。
本当は陰謀に加担していたのだな!」

「「「「「……」」」」」

王太子殿下はまた口調を変えられました。
丁寧な口調ですが、氷のように冷たいです。
皆に怒りが伝わるように、わざと冷たくしているのがわかります。
これは、貴族たちに対する条件が厳しくなったのかもしれません。

「許してやろうではないか。
賠償をするのなら許してやろうではないか。
ただし、賠償は領地の二割だ。
領地の二割をオリビア嬢に割譲するのなら、八割の領地は安堵してやる。
それともアラン男爵に攻め滅ぼされる方がいいか?」

え?
私ですか?
また私を中心に話をすすめるのですか?
もう勘弁してください!
胸もお腹も一杯です!

ですが、私の願いなどかなうはずもありません。
全ては王太子殿下の思惑通りに進みました。
全ての貴族が領地の二割賠償を認めました。
オリバーとグドターナー侯爵が私に殺される様を見て、抵抗する意思を奪われたのだと、後に父から聞かされました。
娘の私でさえあれだけに強さがあるのだから、父に逆らっても勝てるはずがないと、前大戦の現場にいなかった貴族たちも心の底から思い知ったのだそうです。
まともな思考力がある者は……

ですが中には、領地に戻ってから籠城するバカや、他国に援軍を求めるバカ、割譲する領地を誤魔化そうとするバカがいたそうです。
その全てが父に攻め滅ぼされました。

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