「ざまぁ」「婚約破棄」短編集

克全

第1話

今日の舞踏会も屈辱の時間が続きます。
公爵家の令嬢として、王太子の婚約者として、これほど理不尽な扱いを受ける謂れなど一切のないというのに。

「みなよく聞くがいい。
貴族が貴族たりえるのは、高貴な血を引き継いでいるからだ。
卑しい血が流れた者に、貴族を名乗る資格などないのだ」

好き勝手言っている王太子は、お気に入りの令嬢を側に侍らせています。
本来なら、そこは私がいるべき場所です。
ですが王太子は心底私を忌み嫌っています。
私が王太子より強いから。
私の母が卑しい身分だから。

「確かに貴族であろうと、剣はたしなまなければならない。
だがそれはあくまで貴族としての剣だ。
貴族の剣は優美でなければならない。
強くなるためだと、粗野になってはならないのだ」

確かに私は嫋やかな貴族家令嬢とは一線を画しています。
全身が鍛えられた筋肉に覆われ、動きは騎士のようにキビキビしています。
いえ、私は騎士だったのです。
王女様を御守りする、選び抜かれた姫騎士だったのです。

普通なら王女様を御守りするの侍女です。
侍女では頼りないと考えられる時は、戦闘訓練を積んだ戦闘侍女が配されます。
ですが、戦闘侍女では高貴な集まりまでついて行くことができません。
王宮に貴族を招く時は大丈夫なのですが、有力貴族に招待された時に、ついて行けない場合があるのです。

特に問題なのが、他国の王家に嫁がれた場合です。
当然王女様御一人で嫁がれるわけではありません。
選び抜かれた侍女や騎士が、嫁ぎ先の情報を母国に送るべく配されます。
ハッキリ言えばスパイです。
同時にいかなる場所にもついて行ける女性騎士が、守護役として選ばれます。
私がそうだったのです。

「片親から高貴な血を受け継いでいようとも、もう一方の親から卑しい血を受けついていては、貴族とはいえないのだ。
みなもそうであろう。
父母がそろって高貴な生まれだから、跡継ぎとして遇されているのだ。
卑しい血の混じった庶子は、家を継ぐことはあるまい」

王太子は私を揶揄しているのです。
私は名門公爵家の長女ではありますが、母親は正室ではありません。
正室どころか、母は旅芸人だったのです。
類稀なる美貌と妖艶な踊りで、大陸中に名を轟かせた踊り子でした。
そんな母が、ログレス公爵領で踊りを披露していた時に父上に見初められ、無理矢理手籠めにされた時に出来たのが私です。

「もっとも高貴なる血が流れる王家の後継者たる余には、同じく高貴な血を受け継ぐ令嬢こそが婚約者に相応しいのだ。
だから余はここに宣言する。
母親から踊り子という卑しい血を受け継いだレティシアとの婚約は破棄する!」

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