「溺愛」「婚約破棄」「ざまあ」短編集

克全

第36話3年後の出来事

「だぁ、だぁ、だぁ」

「まぁ、まぁ、まぁ。
ゲイツはパパが大好きなのね。
抱いてあげて龍ちゃん」

「ああ、こっちにおいで、ゲイツ」

シャロンと神龍の間には子供が生まれていた。
丸々と太った、元気な男の子だった。
神龍の性格を引き継いでいたら、人間嫌いで孤独好きになってただろう。
そもそも龍の習性自体が、産みっぱなしの捨て育てが普通なのだ。
だがゲイツはシャロンに似たのか人懐っこい性格だった。

神龍は心底困っていた。
子供、ゲイツの事など全く愛していなかった。
だが、シャロンの事は未だに溺愛していた。
繁殖する時だけ異性を愛する龍族では異例な事だった。
どういう理由でシャロンを愛し続けるのか誰にもわからず、神々の間でも噂になっていた。

だが理由はともかく、シャロンを溺愛しているので、シャロンが望んでいる家族像、親子仲睦まじい姿を演じていた。
多少に我慢はしているモノの、それをはるかに上回る喜びがあった。
シャロンが心から幸福にしている姿だ。
その姿を見続けられるのなら、演技も我慢も全く苦にならなかった。

家庭に恵まれず、幼い頃から虐待され続けたシャロンには、仲のいい家族、愛し合う家族以上に大切なモノはなかった。
同時に女王としての施政で、人々が幸せに暮らせていた。
親兄弟が助け合い、仲良く暮らす国になっていた。
食糧の配給を適切に行う事で、飢えることがないと同時に、堕落しないように調整していた。

神龍鱗兵が巡回するという、多少恐怖政治の面はあるが、一度地獄を見て滅びかけた旧ロナンデル王国の民も、差別と襲撃で苦労していた流民も、国法を守る限り護り治安を維持してくれる神龍鱗兵を恐れたり嫌ったりはしなかった。

シャロンを女王としていただくシャロンランド王国は、荒廃していた農地を再び農地として使えるようにした。
魔獣素材を加工して付加価値をつけて売れる職人が多くいる国になっていた。
流民時代に襲撃者を撃退していた自警団が、国軍の兵士となっていた。

何よりも大きかったのが、シャロンが神龍の眷属神ではなく、独自に神になったという事だった。
神龍の神力を分け与えてもらって眷属神になれば、神龍の力が落ちることになるのがだ、シャロンが神龍の血を飲み魔族魔獣を斃すことで身体強化され、二柱の神が守護してくれるという、強力な護りのある国になった。
いや、ゲイツが生まれたことで、三柱の神に護られる国になったのだ。
アリスランド王国に続いて、神が王族を兼ねるという、とても強力な国がまた建国され、大陸の歴史の転換点となった。

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