「溺愛」「婚約破棄」「ざまあ」短編集

克全

第33話201日目の出来事

「そうだよ、シャロン。
ちゃんとできているよ。
あの形の魔獣は、頭を吹き飛ばすんだ。
向こうにいる形の魔獣は、胸を貫くんだ。
そうすれば食べられる部分も素材にできる部分もたくさん残るよ。
イメージ的には、魔力を弓矢にして放つ感じだよ。
それと、魔獣の弱点を知りたければ、さっき教えた弱点探知の魔法を使えばいいから、一度練習で使ってみよう」

「うん、龍ちゃん」

神龍もシャロンもご機嫌だった。
神龍はシャロンを独占し続けられている。
手取り足取り魔法や戦い方を教えてあげられる。
自分の得意な事を大好きな子に教えてあげられて、しかも教えてもらえたことを大好きな子が心から喜んでくれるのだ。
これほどの喜びは、神龍の長い神生の中でも初めての事だった。

一方シャロンもとても幸せだった。
自分が新しく楽しいことを知ることができる。
新しく楽しい技を会得することができる。
相手が人型だと狩る事に罪悪感を感じてしまうが、獣型なら胸も痛まない。
しかも狩った魔獣は、民に食糧として分け与えることができる。
これほどの幸せはなかなかない。

だがシャロンが幸せを感じたのは、それだけではなかった。
シャロンが一番幸せを感じたのは、神龍の喜んでくれる姿だった。
新しい魔法を一つ覚えるたびに、神龍は手放しで喜んでくれた。
魔獣を一頭斃すたびに、惜しみない喝采を送ってくれて、心から喜んでくれる。
不幸な生い立ちのシャロンは、大切にされた事など一度もなかった。
自分の行いを、心から喜んでももらえた事など一度もなかったのだ。

そんなシャロンにとって、神龍が与えてくれる心からの賛美と喝采は、癖になるくらいの喜びなのだ。
シャロンは夢中になった。
夢中になって魔獣を狩った。
神龍はシャロンに危険が及ばないように、だけど狩る魔獣が不足しないように、細心の注意を払って結界を調整した。

シャロンに危険が及ばないように、神龍が強力な魔力防御と物理防御の魔法をかけたが、同時にシャロンにも魔力防御と物理防御の魔法を教えた。
攻撃魔法一辺倒ではなく、防御魔法も治癒魔法も生活魔法も教えた。
神龍は教えることが楽しく、シャロンは教わる事が楽しかった。
戦いに不用な生活魔法など知らなかった神龍は、戦いの女神セクメトに頭を下げることになっても、新しい魔法を貪欲に習得した。

シャロンの事が一番大切で心配な神龍は、シャロンの魔法袋の収容力が増えるたびに、自分の鱗や牙や爪を分け与えた。
神龍鱗兵や神龍牙兵を、シャロンが使役できるようにだった。
もちろんすでに神龍指揮下の神龍鱗兵や神龍牙兵がシャロンを護ってはいるが、それでも新たな護りを与えずにはいられなかった。

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