「溺愛」「婚約破棄」「ざまあ」短編集

克全

第30話101日目の出来事

「そんなの簡単じゃない。
神龍が人型になればいいのよ」

「誰もお前の話など聞いていない、そもそもお前など呼んでいない。
なに勝手に我の縄張りに入ってきている。
そんなに我と戦いたいのか?!」

神龍はかなり怒っていた。
また戦いの女神セクメトが勝手にやってきたのだ。
しかもどうやって知ったのか、神龍の心配事を知っていた。
知っているだけでなく、それを言葉にして解決策まで口にする。
神龍が聞いてもいないのにだ!

神龍にとってはその場で暴れたくなる現実だった。
知られた事も、お節介される事も、逆鱗に触れるほどではなかったが、怒髪、天を衝く直前だった。
これ以上ひと言でも女神セクメトが何か言えば、この場で神々の戦いが勃発しかねない、危機一髪の状況であった。

「ここで戦いを始めたら、巻き込まれたシャロンが死んじゃうよ」

ひと言だった。
神龍の怒りが、そのひと言で、一瞬で凍り付いて砕けた。
シャロンを神々の戦いに巻き込んで死なせるなど、絶対にあってはいけない事だ。
だから怒りは凍り付いたものの、苛立ちは募る一方だった。
だからその苛立ちを言葉にして女神セクメトに叩きつけた。

「やかましいわ!
誰がシャロンを神々の巻き揉むというのだ!
そんな事は絶対にせんわ!
だが覚えていろよ!
シャロンが天寿を全うしたら、お前の護る国を滅ぼしてくれる!」

「残念だけど、私は人間と契約していないの。
だから私には護る国などないの。
でもおかしいわね。
神龍はシャロンに天寿を全うさせて平気なんだ。
私なら眷属に加えて、永遠に一緒にいるけどね」

「え?
眷属?!
なんだそれは?!」

「ああ、そうか。
神龍は一人が好きだから、眷属を創ったことがないのか。
眷属というのはね、自分の持つ魔力を分け与えて人間を自分達と同じ神にする事。
シャロンなら元々神龍と親和性が強くて、守護龍の間に入れるくらいだから、魔力だけでなく徐々に血も与えて、かなり強い眷属神にできるんじゃないの」

「……そんな事はやったことがない。
やり方が分からん」

「残念ねぇ。
それができたら、永遠の神の時間を一緒に暮らせたのにね。
二人の間に子供を作る事もできるのに。
同じ人間と一緒にいられないシャロンの寂しさも慰められるし、他の人間を近づけたくない神龍の嫉妬心もなだめられるのに」

「やかましいわ!
我は嫉妬などしておらん!
我はそんな心の狭い神ではない!
今の言葉を取り消せ!」

「取り消すのはいいけど、眷属神の話はどうするの?
知りたいの知りたくないの?
知りたくないなら私はこれで帰るけど、今度来るのは百年後かも知れないわよ。
その時には、たぶんシャロンは死んでいるんじゃないかな?


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