「溺愛」「婚約破棄」「ざまあ」短編集

克全

第26話29日目の出来事

(みんな美味しそうに食べているね。
よかったね、龍ちゃん)

(そうだね、本当によかったね)

シャロンは本当に心から喜んでいた。
神龍が助け集めてきてくれた人達が、心底安心して食事している姿に、涙がでそうになるくらい喜びを感じていた。
自分が不幸に育ったので、人に対する優しさが心に育っていた。
不幸な生い立ちで他人を恨み憎むのではなく、優しく接しようとする心根に育ったのは、持って生まれた魂の美しさだったのかもしれない。
そんなシャロンの魂に、龍神はどうしようもなく魅かれているのかもしれない。

だが人間に対する神龍の考えだけは、シャロンとは違った。
人間など滅べばいいと思っていた。
でもシャロンの幸せそうな表情を見るのは好きだ。
シャロンが全身で表す喜びを感じるのは、神龍無上の喜びだ。
だがらシャロンの望み通り、王国中から不幸な民を集めてきた。
先に救って神龍鱗兵に護らせている民は放置したが、国内を彷徨う難民や、いつか開かれるかもしれないと、国境周辺に臨時の村を築く民を、シャロンと神龍の楽園に招くしかなかった。

神龍の本心は人間など滅べばいいという気持ちだったが、シャロンの優しい想いを踏み躙るわけにはいかなかった。
人間を放置したことが、あとでシャロンに伝わるのが怖かった。
シャロンに伝わる可能性を考えると、自身の力で人間を滅ぼすことなど絶対にできなかった。
だから(可哀想な人達を助けてここに連れてきてあげて、お願い龍ちゃん)と言われたら、断る事などできなかった。

だが神龍にも絶対に譲れない一線がある。
シャロンとの楽園を人間になど邪魔されたくなかった。
だから人間を隔離して幸せにする場所を考えた。
シャロンが納得する場所を探すことにした。
そして直ぐにその場をお思いついた。

王都だった。
ロナンデル王国の王都に、人間達を隔離すればいいと思いついたのだ。
激減した人間、特に神龍が助けてシャロンの前に出していいと思える人間は、ほとんど残っていない。
王都だけで十分収容できる。
いや、元の王都人口の一割くらいしかいない。

(シャロン、ここでは住むところが、家がないんだ。
だから王都に連れて行こうと思うんだ)

(でも王都には魔がいて危険じゃないの?)

(大丈夫、結界を張り直して、神龍鱗兵に魔を討伐させるから)

(食べる物はあるの?)

(それも大丈夫。
僕が狩った魚や獣を分けてあげるし、ここで収穫した穀物を分けてあげるから。
足らなくなる前に、神龍鱗兵に運ばせるから)

(そっか、それなら大丈夫だね。
でも少し寂しいな。
幸せそうに暮らす人達を見るのが好きだったから)

(それは大丈夫だよ。
定期的に王都の人間が幸せにしているか見に行けばいいから)

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