「溺愛」「婚約破棄」「ざまあ」短編集

克全

第10話6日目の出来事

「ウギャァァアァァァア!
痛い、痛いわ!
なにをしているに!
直ぐに医者を連れてきなさい」

モドイド公爵家の次女ジェスナ嬢が、激烈な痛みに床をのたうち回っていた。
信じられないくらいの痛みで、とてもじっと耐えられる痛みではなかった。
劇薬で顔を焼かれるような痛みの時もあれば、赤く焼けて鉄棒を顔に押し付けられるような痛みの時もある。
時には針を束にして突き刺されるような痛みの時もあった。

「どうしたのジェスナ?!」

母親のイザベルが慌ててジェスナの部屋にやってきた。
先妻のロージーを毒殺し、ロージーの娘シャロンを虐め抜き、陰で極悪夫人と呼ばれるイザベルは、自分の娘は溺愛していた。
だからジェスナが痛みで苦しんでいいると聞いて、急いでやってきた。
だが娘ジェスナは、いや、ジェスナの部屋も、信じられない惨状になっていた。

「なによこれは!
侍女のくせに今迄なにをしていたの?!
直ぐに窓を開けて空気を入れ替えなさい!」

娘ジェスナの部屋に入ったイザベルは、そのあまりの悪臭に吐きそうになった。
だがモドイド公爵夫人である誇りが、侍女の前で吐く事をこらえさせた。
口まで込み上げたモノを、無理矢理飲み込んだ。
飲み込んだ屈辱と怒りが、侍女達を激しく罵る事に繋がった。

普通ならイザベルの命令には絶対服従の侍女達が、ジェスナの部屋に入る事に二の足を踏んだ。
それほど強烈な悪臭だったが、半狂乱で怒り狂い、その場で侍女達を皆殺しにしかねないイザベルの怒りに触れて、仕方なく部屋に入って換気と掃除を始めた。
その姿にわずかに満足を覚えたイザベルだが、痛みにのたうち回るジェスナの事が最優先で、強烈な悪臭を我慢して助け起こそうとした。

「キャアアアアアああ!
どうしたのジェスナ?!
なんなのその顔わ!」

イザベルが驚くのも当然だった。
痛みにのたうち回るジェスナを抱きしめ、暴れるのを止めようとしたのだが、目に入ったのは無残な顔だった。
顔の所々が腐り、ジクジクと膿を垂れ流していた。
その膿が、強烈な悪臭を放っており、部屋の悪臭の原因が、腐っていくジェスナの顔である事が分かった。

あまりの驚きに冷静さを失い、現状を認識しきれていなかったイザベルの眼に、膿の中で蠢くモノが映った。
蛆虫だった。
ジェスナの顔に蛆虫がわいていたのだ。
顔が腐る痛みに加えて、蛆虫に喰われる痛みまであったのだ。

「医者を連れてきなさい!
いえ、治癒術師も連れてくるのです。
衛兵!
剣で脅してでも医者と治癒術師を連れてきなさい!」

イザベルの絶叫が、モドイド公爵家王都屋敷中にこだました。


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