「溺愛」「婚約破棄」「ざまあ」短編集

克全

第18話

「殿下。
この魔術が詠唱しても発動しないのですが、何がおかしいのですか?」

「ああ、これは音階と間隔が大切なのだよ。
独特の高低と節回しが大切になるんだ。
手本を見せるから、真似してくれ」

「はい、ありがとうございます、殿下」

私は常にアレキサンダー皇太子殿下の側にいました。
多くの貴族士族が、嫌でも私の事を見ることになります。
その時の表情と態度で、心底を確認するのです。
そして場合のよれば、殿下操って排除しなければいけません。
まるで悪女ですが、私だって殺されるのは嫌なのです。

それに、皇后の地位は私が望んだわけではありません。
アレキサンダー皇太子殿下が無理矢理つけようとしているだけです。
でも拒否などできません。
もしやれば、確実に幽閉されます。
まったく自由のない将来がやってきます。

自由を得るには、アレキサンダー皇太子殿下を超える力を得るしかありません。
いえ、それだけでは駄目ですね。
アレキサンダー皇太子殿下の単独魔力だけでなく、セントウィンルストン皇国の国力軍事力を結集した力を、単独で討ち破らなければなりません。
そんな事は絶対に不可能です。

到達不可能な事に時間と力を費やすほど、私は愚かではありません。
制限された自由を確保した方が現実的です。
その自由を、できる限り拡大する努力することの方が大切です。
アレキサンダー皇太子殿下の愛情、妄執と表現する方が的確ですが、殿下自身は愛情だと思っているのでしょう。

その愛情を徹底的に利用します。
躊躇も遠慮もしません。
そもそもセントウィンルストン皇国の皇族や貴族が、アレキサンダー皇太子殿下の孤独を癒していれば、私がこんな目に会う事もなかったのです。
自分達の無能と怠惰が招いた結果です。
私に文句を言ったり恨んだりするのは筋違いです。

「凄い!
凄いです、殿下!
魔術が発動しました」

「そうだろ。
この魔術にはコツがあるのだよ。
私はこの魔術が使えるようになるまでに、多くの試行錯誤をしたのだよ。
他にもコツが必要な魔術が沢山あるのだよ。
まだたくさん、発動できていない魔術があるのだよ」

「そうなのですね。
私は殿下のお陰で苦労せずに魔法が覚えられて幸せ者です」

「そうか、そうか。
じゃあ次はこれを教えてやろう」

殿下は褒めると色々と教えてくれます。
まずは殿下が会得されている魔術を全て身につける事です。
その後で、殿下がまだ手をつけていない魔術の解明と発現に挑戦するのです。
そうすれば、殿下を超える魔術師になれます。
殿下の愛情を利用しつつ、実力も養うのです。
それが後宮で生き残るには必要な事でしょう。



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