「溺愛」「婚約破棄」「ざまあ」短編集

克全

第1話

「ジョエル王太子殿下、こいつです。
こいつが殿下の大切な宝石を盗んだのです!」

「なんだと?!
セイラではないか?
私の婚約者が何故私の宝石を盗む?」

「お恥ずかしながら、我が妹の母親は平民なのでございます。
父上の高貴な血ではなく、母の卑しい血が濃く出たのでございましょう。
屋敷でも私や妹の物をよく盗むのでございます。
殿下が宝石をなくされたと聞いて、もしやと思い、ここにいる妹、アメリアにセイラの部屋を調べさせたのでございます。
情けなく哀しい事ながら、これが出てまいりました」

私は急な話についていけず、呆然としてしまいました。
しかし、嫌らしく笑うアメリアの顔を見て、全てを理解しました。
私は罠に嵌められたのです。
兄アロンと妹アメリアに陥れられたのです。

正室の腹から生まれたマクリンナット公爵家の嫡男と娘が、妾の子の私を断罪するのですから、普通なら冤罪を疑うでしょう。
ですが、王太子にそのような正常な判断を期待してはいけません。
王太子は有名な愚者なのです。

「おのれ、セイラ!
よくも今日まで騙してくれたな!
平民の血が半分流れた身で、王太子の私の妃になろうなど、不遜極まりない!
この場でお前との婚約は解消する。
いや、そもそも平民との婚約など無効だ!」

「殿下、王太子殿下!
そのような事を口にしてはなりません!
父親が王侯貴族ならば、母親の身分は関係ありません。
そのような事口になさったら、廃嫡されてしまいますぞ」

「ええええい、黙れ黙れ黙れ!
そのような事はお前に言われなくても分かっている。
だが、父親だけが王侯貴族よりは、両親共に貴族である方が高貴なのだ。
セイラは侯爵家の令嬢ではあるが、母が平民では、アメリアに劣るではないか。
アメリアこそ私の婚約者に相応しいのではないか?」

王太子の暴言を、侍従の一人が止めました。
それも当然です。
国王陛下のもうけられた王子王女の中には、母親が平民の方もおられるのです。
今王国の政務に携わっておられる王弟の中にも、母親が平民の方がおられます。
貴族家の現役当主の中にも、母親が平民の方がおられます。
王太子の暴言は、その方々に不信と不安を与えてしまうのです。

ですが侍従の諌言は王太子には届きません。
そんな知性があれば、私が婚約者にさせられることなどありませんでした。
理想はともかく、現実は王太子の言ったことがまかり通っています。
側室や妾が先に子供を生んだとしても、その誕生は正室が男の子を生むまで隠されるのが普通です。

後から生まれた正室の子の年齢を水増しして0歳児を三歳四歳として届けるのか、先に生まれた側室の子を、三歳なのに翌年0歳で届けるかは貴族家しだいですが、正室の子を跡継ぎにするために画策するのです。
もしかしたら、王太子にも弟とされている庶兄がいるかもしれません。

「バカ者どもが!
貴様らの言動は陛下の耳にも届いておるぞ!
直ぐに御前に参れ!」

父上が激怒されています。


          

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