「溺愛」「婚約破棄」「ざまあ」短編集

克全

第5話

「バルフォア子爵、ここにあるのが賠償金だ。
屋敷に持って帰るかね?
それとも王家か王国の基金に預けて利息を受け取るかね?
好きにするがいい」

リアム王太子殿下の合図で、侍従たちが金貨の入った袋を持ってきます。
その量の多さに腰が抜けそうになります。
父上が目を白黒させています。
もう平常心を失っています。
これからどうなってしまうのでしょうか?

「ええ、と。
その、どうしたした方がよろしいのでしょうか?」

「なんだ、アルテイシア嬢だけでなく、バルフォア子爵も何も分かっていないのか。
分かった、分かった。
私に任せておけ。
そうだな、リスク分散した方がよいであろう。
王家と王国の基金に四分の一ずつ預ける。
残りの二分の一は、王家が資産運営を任せてる七つの商家に預けよう」

「はい、はい、はい。
全てお任せいたします」

ダメです。
私もダメダメですが、父上は私以上にダメダメになっています。
我が家は明日の食事に事欠くほど借金があるのです。
来年の年貢が納入されるまでの生活費が必要なのです。

「恐れながら王太子殿下!
我が家は今日食べる物にも事欠く有様なのです。
借金返済のために、売れるモノは全て売り払ってしまっているのです。
どうか、一袋持ち帰らせてください!」

「ブッフ!
ワッハッハァ。
アッハッハッハ!
よい、よい、よい。
好きにするがよい。
いくらでも持ち帰るがよい」

殿下に大笑いされてしまいましたが、私には笑い事ではないのです。
朝から水以外なにも口に入れていないのです。
恥ずかしならが、いつお腹が鳴るか分からない状態なのです。

グゥゥゥゥウ!

恥ずかしい!
穴があったら入りたいです。
私ではありませんよ!
父上です!
父上のお腹が大きくなったのです。

「ブッフ!
ワッハッハァ。
アッハッハッハ!
そうか、そうか、そうか。
今日食べる物にも事欠くのなら、朝からなにも食べていないのだな。
おい、なんでもよい、食べる物を持ってきてやれ。
この状態では落ち着いて話もできぬ。
おお、そうだ。
このような堅苦しい謁見の間では腹を割った話ができん。
茶話室に行くぞ。
ついてまいれ」

ああ、ああ、ああ。
もう帰りたいのに!
早く家に帰って、肩の力を抜いてパンが食べたいよ~。
母上が焼いてくださったパンが食べたいよ~。
もう王太子殿下と話すなんて怖くていやだよ~。

「ああ、そうだ。
昨日申し付けていた、今回の件でバルフォア子爵を陥れた商人どもは、処刑がまだのようだな。
バルフォア子爵から奪い取ったものは、全部返却しておけとも言っておいたな?
バルフォア子爵家の者たちが、今日の食事にも事欠いているというのなら、何もできておらんという事だな。
私の言う事など無視しておけばいいと思っておるのか?
私との茶話会が終わるまでに、全てを終えるのだぞ。
できていなければ、その首が胴から離れると思え!」

父上と私を蔑むように見ていた、殿下の侍従たちが真っ青になっています。

「「溺愛」「婚約破棄」「ざまあ」短編集」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「恋愛」の人気作品

コメント

コメントを書く