「溺愛」「婚約破棄」「ざまあ」短編集

克全

第4話自由戦士カミーユ視点

「おい、やる気があるのか?
なければ俺が始末をつけてやる。
怖気づいたのならとっとと逃げろや!
その代わり王太子からもらった礼金はおいていけ。
俺が代わりに殺してやるんだから当然だろうが。
ほんと、役に立たない奴だ!」

殺した。
怒りに任せて首を刎ね飛ばしてやった。
飛んでいく顔は驚愕の表情を浮かべていたが、いい気味だ。
痛みは感じていないかもしれないが、殺された自覚はあるだろう。
どうせろくな人生を送ってこなかったはずだ。
罪を反省しながら死ぬがいい。
いや、後悔も反省もしないだろうな。

王太子がつけた御者だから、私が裏切らないか監視する役目を与えられているのは分かっていたが、裏切った時のための刺客だったようだ。
一般的な刺客の中では一流の腕だろうが、私の敵ではない。
相手が王家の刺客から選び抜かれた精鋭で、しかも複数だったら簡単に殺す事はできなかったが、暗殺者ギルドの一流が一人なら、自由戦士ギルドで汚れ役を務める私にはかなわない。

これで完全に王太子を敵に回してしまった。
この国全体を敵に回したかどうかは分からないが、アジュナ嬢が追放に処せられている以上、主流派は敵に回しただろう。
しかも自由戦士ギルドも敵に回るかもしれない。
私を裏切者に認定して、表の精鋭を追っ手に出すだろう。

だが簡単に諦めるわけにはいかない。
自分の命だけなら、捨て鉢になってあきらめたかもしれない。
だが、本物の聖女を殺させるわけにはいかない。
無様であろうと、足搔くしかない。
万が一の場合に備えて、色々手を打ってきたが、実際に使うことになるとは思ってもいなかった。

「亭主。
不可触民を呼んで汚れ仕事をさせたいのだが、宿として問題はないか?」

「困ったな。
いったい何があったんですか?
街の規則じゃ汚れ仕事でも貧民にやらせることになっているんですよ」

「御者のバカが、お嬢様を襲おうとしたんだ。
家の都合で修道院に修行にいかれるが、お嬢様はお嬢様だ。
絶対に許されんことだから殺した。
その死体の始末があるのだ」

「あぁあぁあぁ。
それじゃ仕方ありませんね。
死体の始末じゃ不可触民のやらせるしかありません。
おい、エバンス。
不可触民を呼んで来い」

「はい、だんな様」

さて、不可触民の独自ルートを使って逃げれば、王太子も追跡は困難だろう。
同時に伝令を頼んで、自由戦士ギルドの良識派に今回の裏を伝える。
良識派が現実派の連中を抑えてくれれば、追っ手はかからないだろう。
自由戦士ギルドが敵に回らなければ、王家の追っ手だけなら、私一人だけでもアジュナ嬢を守り切れる可能性はある。


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