「溺愛」「婚約破棄」「ざまあ」短編集

克全

第8話

解術に成功した王子の容姿は、私が想像似ていた三倍は美男子です。
さぞ社交界で騒がれていたことでしょう。
女冒険者が全員恋する女の眼になっています。
女冒険者だけでなく、男冒険者も感心した眼をしています。
でもその眼が、王子の激を聞いて戦う者の眼になりました。
それは王子に許された、宰相に仕えていた騎士や徒士も同じです。

まあ、これが天与のカリスマというモノなのでしょう。
激の内容など大して関係ないと思います。
同じ内容の演説をしても、カリスマのない者なら見向きもされないでしょう。
それが現実というモノです。

ですがこの激が、この国の運命を大きく変えました。
冒険者、騎士、徒士が王子のもとに一致団結し、宰相府を急襲したのです。
完全な奇襲になりました。
元は宰相に味方していた騎士と徒士が加わっているので、要塞化されていた宰相府であろうと、なんの問題はありません。

罠の場所も種類も分かっています。
宰相に味方する騎士や徒士に発動してはいけないからです。
影武者の人数もどこにいるのかもわかっていました。
宰相本人がいる場所もです。

この奇襲では、宰相府を護っている騎士や徒士を許す余裕はありませんでした。
宰相を逃がさないために、できるだけ短時間に追い詰める必要があったからです。
たった半時間でした。
宰相府の城門を襲ってから宰相の首を取るまで半時間しかかかりませんでした。
大勝利でした。

ですがこれで終わったわけではありません。
王子の弟、ノア第二王子の首を取る必要がありました。
一瞬リアム王子が許してしまうのではないかと心配になりました。
ですがそんな心配は杞憂でした。
リアム王子は断じて行動されました。
王宮を奇襲し、ノア王子の首を刎ね飛ばしたのです。

この国を安寧に導くにはどうしても必要な事です。
禍根は絶たなければならないのです。
冷酷非情に徹しなければいけない事なのです。
ですが私は見てしまいました。
ノア王子を討つと宣言された時も、誰に任せることもなくご自身の手でノア王子の首を刎ね飛ばされた時も、一瞬苦悶の表情を浮かべられていたのを。

「エマ聖堂騎士殿、どうしても頼みたいことがある」

「なんです、リアム王子?」

「ずっと私の側にいて、私が道を外さないように見守って欲しい。
見守ってくれるのなら、エマ殿の望むモノは全て与えよう。
どうであろうか?」

国王陛下や王妃殿下もいる前です。
いえ、王国に仕える全貴族と騎士が一堂に会した論功行賞の場です。
とんでもない白紙委任状です。
全員が王子の私へのプロポーズだと思っています。
ですが私には違う意味に聞こえます。

教会を改革して欲しい。
社交界を改革する手伝いをして欲しい
王国を変えていくのに協力して欲しい。
討ち取った宰相が影武者で、本人が逃げていた場合に備えて欲しい。
なによりも、自分が神のご意思を見失わないように手助けして欲しいと!

魂の慟哭に聞こえてしまいました。
国、いえ、国民を背負う重圧に苦しむ姿に映ったのです。
仕方ありませんね。

「分かりました。
お受けいたしましょう」

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