「溺愛」「婚約破棄」「ざまあ」短編集

克全

第13話

「どこに行くつもりですか、パオラ」

見つかってしまいました。
黙って出ていくつもりでしたが、やはりみつかってしまいました。

「貴女に近づいた者は既に捕らえています。
正直に言って下さい。
何故に相談もせずに出ていこうとしたのですか?
私はそんなに頼りになりませんか?」

「違います!
エドアルド殿下の事は心から信頼しています。
ですが相手は魔王です。
信心深いこの国の貴族すら籠絡するような相手です。
私がエドアルド殿下に相談した事が魔王に知られてしまうと、レベッカがどのような目にあわされるか分かりません!」

そうなのです。
信心深く、神様の護りがあるはずのこの国の貴族が、エドアルド殿下を裏切って私を王宮外に誘いだそうとしたのです。
普通なの脅しなら、私も乗ぜられるようなことはありません。
ですが、命の恩人であるレベッカを捕えていると伝えられたら、レベッカを見捨てる事などできません。

そもそもレベッカが命懸けで送ってくれなければ、生きて国を逃げ出す事はできませんでした。
エドアルド殿下と出会う事も出来ませんでした。
今の幸せなど夢のまた夢でした。
そんな今の幸せの大本であるレベッカを見捨てて、身の安全をはかるような人間は、神様の加護を受ける資格などないと思うのです。
そう切々と真剣に御話しました。

「パオラの言いたい事は分かりました。
その気持ちは理解できます。
ですが、だからと言って、パオラを無防備に王宮から出すわけにはいきません。
家臣から裏切り者が出るのは想定していましたが、私や陛下の命を狙う事を優先すると思っていました。
パオラには、魔王が私や陛下以上に恐れる何かがあるのでしょう」

エドアルド殿下の仰ることは真実でしょう。
でもそれは私の事ではないと思います。
私に宿ったエドアルド殿下の御子だと思うのです。
魔王が動きだしたのも、エドアルド殿下と私が結婚すると決まってからです。

宿った御子を優先しなければいけないのは分かっているのです。
分かってはいても、やってはいけないのです。
それではエドアルド殿下の正妃に相応しくありません。
母としての本能がない訳ではありません。
レベッカを見捨ててでも御子を護りたという思いも、心底湧き上がっています。
その母性を無理やり抑え込んで、王太子妃に相応しくあろうと努力しています。
その千々に乱れた想いを、支離滅裂な想いを、身勝手にエドアルド殿下に叩きつけてしまいました。

「分かりました。
パオラの苦しい想いはよく分かりました。
ですがこのまま王宮から出すわけにはいきません。
私に考えがあります。
任せてください」

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