「溺愛」「婚約破棄」「ざまあ」短編集

克全

第19話

クリスティアンは皇帝アリアンナの行幸を断行した。
裏では自分が使い魔や紙兵を操ることで完璧な防御を固めつつ、表は新規で側仕えや親衛騎士に任命した者達に護らせる形をとった。
宮城の護りと政治は、ファインズ太上皇が公爵時代からの信頼できる家臣とガッチリと固めているので、何の心配もなかった。

皇帝アリアンナとクリスティアンは、各地の領主や皇帝直属将兵の報告を鵜呑みにせず、使い魔や紙兵を使って地方の真実を調べ把握していた。
その情報を駆使して、食糧に余裕のある所から行幸を実行し、勅命でその地方が混乱しない程度の量を買い取った。

莫大な食糧を皇国軍に輸送させつつ、食糧の不足する地方に運び、餓死する人間がでないようにした。
もちろん将兵を遊ばせていたわけではない。
行幸先の地方で訓練と称して狩りを行い、獣肉を確保すると同時に、農作物を荒らす害獣を間引いた。

もちろん将兵の数は多ければいいというわけではない。
余裕のある食糧の量と不足している食糧の量による調整が必要だったが、その点は使い魔と紙兵の情報を綿密に計算して行われた。
クリスティアンの負担は大きかったが、とてもやりがいも感じていた。
エマヌエーレ皇帝時代とは全く違っていた。
クリスティアンはますますアリアンナに魅かれていった。

アリアンナも、自分の理想をかなえてくれるクリスティアンを、ますます頼もしく思った。
互いの距離が大きく近づいていった。
最側近の姫騎士や、新たに信頼を得た女官たちが、クリスティアンはアリアンナの寝所に自由に出入りすることに何の疑問も感じていなかったのも大きかった。

何より二人の関係を近づけたのは、毎日周囲の風景が変わることだった。
食糧の輸送と狩りだけでなく、運河の新設に街道の整備、河川水路の浚渫と、行幸にかこつけて貧民を動員して国内整備が行われたのだ。
税の一つである労役で動員すると同時に、労役日数以上に動員することで、貧民に食糧を支給し日当を与える政策をとった。

当然だが新規で農地の開拓開墾も行われた。
クリスティアンが細心の注意を払い、民を苦しませるのではなく、豊かにするために労役を使ったので、皇国は一気に変わった。

皇帝アリアンナとクリスティアンの仲は五年の行幸期間で夫婦となった。
行幸の途上で皇太子となる長男が生まれ、第一皇女、第二皇子も生まれた。
皇国は万全の体制が築かれた。
皇帝アリアンナとクリスティアンの時代はもちろん、子供達の時代も孫達の時代も、皇族も民も幸背に暮らした。

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