「ざまぁ」「婚約破棄」短編集4巻

克全

第8話

「そんな事をすれば、王家と完全に敵対することになる。
それは不忠であろう」

「私とルシア。
姉妹二人がここまで恥をかかされて、それでもまだ忠誠を尽くすのですか?
君臣の契りは双務です。
主君は家臣を守り、働きには正当な褒美を与える。
家臣は、主君に守ってもらっている分、忠誠を尽くして働く。
どちらかがその役割を果たさなかったら主従の縁を切るものではありませんか!」

「うむむむむ。
確かにその通りではあるが……
王家に滅ぼされては何の意味がないぞ」

「そのような事にはさせません。
父上にはお話ししておきましょう。
私には古き神の加護があります。
聖女に選ばれているのです。
万能の力を無限に使えるわけではありませんが、それでも今回の場合は有効です。
今ならば王家に勝って独立できます。
決断してください、父上!」

「分かった。
カルラがそこまで言うのなら認めよう。
だが今少し待て。
今のままでは領内の体制が整っていない。
王国軍や諸侯軍が攻め込んできたら、領民を守り切れない」

とても腹立たしい事ですが、父上に申されることはもっともです。
ウォード公爵家の当主として、家臣領民を守る義務が父上にはあります。
王家は大混乱していますから、王家直属の王国軍は動けないでしょう。
ですが、ウォード公爵家と領地を接する貴族は別です。
王家の命令や許可があれば、豊かなウォード公爵領に攻め込んでくるでしょう。

ですが、それでは、ルシアを守り切れないかもしれません。
エリーニュス神様の神力が通用しないほどの敵です。
そうです、明らかな敵なのです。
その敵の居城の中に、ルシアがただ一人閉じ込められているのです。
心配で心配でしかたがありません。

「では私がルシアの代わりに塔に入ります。
私なら古き神の加護がありますから、少々の事は平気です」

「それでは、カルラに何かあった時に、ウォード公爵家が滅んでしまうぞ。
分かっているのか、カルラ。
ウォード公爵家が滅ぶ時には、どれほど多くの家臣領民が戦に巻き込まれ、死傷し奴隷に落とされるか分かっていて、それでも王家と戦え、ルシアと入れ替わると口にしているのか?」

私は、直ぐに反論できませんでした。
確かに父上の申される通りです。
ルシアを大切に思うあまり、巻き込まれて死傷する人たちの事を、全く考えていませんでした。

ですが、それでも、身勝手と言われようとも、ルシアが大切なのです。
法も論もありません。
ルシアが大好きで、ルシアを助けるためなら、誰を不幸にしてもかまわないと思ってしまうのです。
それではいけないのでしょうね……

「ひと言よろしいですか、ウォード公爵閣下、カルラ様」


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