「ざまぁ」「婚約破棄」短編集4巻

克全

第6話

「騎士様、ご夫人様。
どうか、どうか、どうお慈悲でございます。
我ら家族を奴隷にしてください。
どのようなご命令にも従います。
誠心誠意お仕えさせていただきます。
ですから家族が離れ離れにならないですむように、そろって奴隷にしてください。
お願いいたします」

困りました。
私達が山賊退治で結構な金額を手に入れたと知って、貧民が集まってきました。
幾ばくかの金を恵んで欲しいのだと言われれば、簡単な話でした。
貧民に施しを与えるのは貴族の嗜みです。
もう貴族ではありませんが、幸せな私達が、幸せのおすそ分けをするのは当然なので、余裕のある分を施すのは構いません。

ですが、奴隷として養ってくれと言われれば、直ぐに返事はできません。
冷酷非情な人間なら、奴隷の命も道具として扱えるでしょう。
ですが私には無理です。
奴隷とはいえ命です。
支払った金額相当の道具として扱う事などできません。

「人間としては扱わないぞ。
金で売り買いできる奴隷として扱うぞ。
金を払わないで奴隷とするから、望み通り家族は必ず一緒にいさせてやる。
だが必要ならば、その中の一人に死ぬかもしれない任務を与える事もある。
それでもいいのか?」

「構いません。
騎士様の奴隷になるのでございます。
命懸けの任務を拝命できるのなら、むしろ本望でございます。
その代わりと言うのは申し訳ありませんがその時は家族の面倒をお願い致します」

「分かった。
その覚悟確かに見た。
奴隷として抱えてやろう」

私が何も返事できないうちに、ケヴィンが全てを仕切ってくれました。
頼もしい旦那様です。
八虎騎士として幾多の戦場を生き残った勇猛果敢な騎士です。
人間の命の軽さと大切さを、私などとは違って、魂から知っている旦那様です。
ケヴィンに任せるれば全てを上手くまとめてくださるでしょう。

一家を奴隷として召し抱えると約束したら、その場で数人に貧民が同じように奴隷になる事を志願しましたが、ケヴィンに槍を突き付けられて、這う這うの体で逃げ出してしまいました。
ケヴィンから見て覚悟が足らないか、邪心があってのでしょう。
残った者達に幾ばくかの小銭を与えて、山賊に襲われた場所に戻りました。

殺した山賊の武具や衣服など、捨てて行くつもりだったのですが、奴隷一家を抱えるのなら回収しなければいけません。
社交の世界しか知らない貴族士族には考えられない事でしょうが、幾多の戦場を生き残ったケヴィンには、戦場の死体を漁る戦場荒らしは普通の事なのだそうです。
死体から血塗れの武具や衣服を剥ぎ取り、故買屋に売ったり自分達で利用することは、貧民の常識なのだそうです。
現実、召し抱えた奴隷家族は、嬉々として遺体から剥ぎ取っていました。


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