「ざまぁ」「婚約破棄」短編集4巻

克全

第3話

ケヴィンの話に結構衝撃を受けてしまいました。
イェルク王太子が腐りきった外道なのは知っていましたが、軍までが腐っていたとは思いもしませんでした。
それでは、ある意味命の恩人であるコバーン男爵が、処刑されてしまうかもしれません。

「ケヴィン、それならば……」

ケヴィンを助けるためにリンド王国に戻りましょうと言いかけて、お腹の子供の事を想い、続きを口にできなくなってしまいました。
身勝手な考え方ですが、お腹の子供が何よりも大切です。
恩人のコバーン男爵を見殺しにする事になっても、お腹の子の安全を優先したいと思ってしまうのです。

「分かっていますよ。
なにも言わないでいいですよ。
コバーン男爵の言った事を思い出して下さい。
お腹の子供を護るために王太子を見殺しにしたと口にしましたね。
それなのに、お腹の子を危険に晒して、コバーン男爵が喜ぶと思いますか?
思いませんよね。
むしろ自分の想いを無にしたと怒りますよ。
ここは彼の漢気に甘えて逃げることこそ、彼の漢気に報いることになるのです」

私はケヴィンの言葉に救われて、安心して逃げる準備をしました。
本当は最初からなにをすればいいのか分かっていたのです。
ですが、まだ捨てきれない貴族の見栄と誇りが、コバーン男爵を助けたいと口にさせそうになります。
早く本当の庶民になって、見栄や誇りを捨てなければいけません。

私達は、いえ、身重の私はあまり動きません。
私のお腹の子を心配するケヴィンが動く事を許してくれません。
逃亡準備のほとんど全てを、ケヴィンが一人でやってくれます。
我が家唯一の財産。
と言っても銅貨一枚持たずに追放された私の財産ではなく、ケヴィンの財産なのですが、軍馬三頭と調教中の若駒四頭に鞍と荷車をとり付けます。

再度の襲撃を恐れたのでしょう。
家財の持ち出し準備をする前に、ケヴィンは完全武装します。
久し振りに見るケヴィンの騎士姿です。
真銀と魔獣の素材を上手く組み合わせた、戦闘美の極致とも言える騎士装備に、こんな時なのに見惚れてしまいます。
やはり私の旦那様は美丈夫です!

ケヴィンは私を護るために、国も地位も家族も捨ててくれましたが、騎士として必要な物、自分の力で手に入れた物は持って、私について来てくれました。
その最大のモノは三頭の軍馬なのかも知れません。
完全装備の騎士を乗せることができて、戦場で主人と一緒に戦えるまでに調教された軍馬は、莫大な金額で売買されるのです。

この三年間は、調教の時以外は荷車を引いてくれていました。
近所の人達に有料で貸し出したり、薬の素材となる薬草などを運んでくれました。
そして毎年仔馬を生んでくれて、我が家の財産を増やしてくれています。
仔馬達は何時か売らなければいけないと思っていたのですが、今は夜逃げに役立ってくれています。
ブケパロス:牡馬軍馬
バビエカ :牝馬軍馬
タトゥス :牝馬軍馬
ラディン :一歳牝馬
バイアリ :一歳牡馬
ハーゲン :当歳牡馬
マレンゴ :当歳牝馬

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