第1話

「ふぇふぇふぇふぇ。
もう逃げられないぞ、ファティマ嬢。
たっぷりと可愛がってやるよ」

「ずっと狙っていたんだよ。
ようやく嬲り者にできるぜ」

「怖がらなくてもいいぜ。
俺たちはフセイン殿と違って優しいからな」

悔しい！
まんまと騙されてしまった！
政略結婚なのは分かっていたけれど、私を人身御供にするなんて！
父上の後妻におさまったエイリンに計られてしまった。
自分が生んだヌライをモントローズ公爵家の跡継ぎにしたくて、私が邪魔だったのですね。

分かっていました。
分かってはいましたが、少しは人間らしい心があると思ったいたのです。
いえ、思いたかっただけなのですね……
私は願望にすがってしまって、このような危地に陥ってしまいました。
でも、いったいどこの誰がこんな状況を想像すると言うのです。
新婚初夜に、夫が自分の妻を複数の取り巻きに襲わせるなんて！

スコット伯爵家の次男ユースフ。
グラハム伯爵家の三男ウマル。
アソル子爵家の長男モハッメド。
三人とも私の夫となるはずだったハミルトン公爵家令息フセインの取り巻きです。
スコットたちは、社交界でも最悪の評判を受けている下劣な者たちです。
こんな男たちに嬲り者にされるくらいなら、死んだほうがましです。

モントローズ公爵家令嬢として、名誉を護るために自害する覚悟はあります。
ありますが、一矢報いる事もなく死ぬのは嫌です。
特にあの者たち、私を売り渡した見届人と戦闘侍女！
あの者たちだけは絶対に許しません！

ですが、なぜ裏切ったのでしょうか？
人質をとられてと考えるのはお人好しすぎますね。
金をもらって裏切ったのでしょう。
ですが、長らく私に仕えていたのです。
私には、こんな時に自害する覚悟がある事くらい分かっているでしょう。
そうなれば、事は隠蔽できず、父上から処罰されます。

まさか？！
今回の件はエイリンの独断ではなく、父上まで加わっているのですか？
父上まで私を売ったのですか？！
怒りに、あまりの怒りに、我を忘れてしまいそうです！
母上に誓った、人を傷つけないという約束を破ってしまいそうです。

「ふぇふぇふぇふぇ。
まさか自害すれば名誉を守れるなんて考えていないよな？」

「そう、そう、そう。
ユースフの言う通り、自害しても無駄だぜ。
俺たちは死体を抱くのも大好きなんだぜ」

「ふ、ふ、ふ、ふ。
ウマルの言う通りなんだよ、ファティマ嬢。
俺たちは、屈辱で苦悶の表情を浮かべている女を抱くのが一番好きなんだが、名誉を守ろうとして死んだ女を、死んだ後で辱め汚すのも大好きなんだよ」

「「「ファッファッファッファッ！」」」

ブチ！

怒りのあまり、封印が切れる音が心の中に響きました。