転生武田義信

克全

第234話亡国の王女

1576年6月:バサイム要塞都市謁見の間・武田義近と側近衆:木下小一郎視点

「アミール・ビント・ヌーラ・アル=ミスナド殿」
ベラール王国で生き残った王族女性だが、とんでもなく魅力的だな。
不味い。
また殿下の悪い癖が出た。
しかし、前回失敗して痛い目を見ているんだから、今度は堪えてくれよ。
ああ、駄目だ。
目が釘付けになっている。
「殿下。どうか殿下の御力で、ベラール王国の再興を御願い致します」
「あい……」
不味い。
「あいや待たれよ。そのような大事は、本国の諸国王陛下でなければ決められん」
「何故だ、小一郎。余は全権を任された総大将ではないのか」
「確かに殿下は、全軍を統率する総大将ではございますが、それはあくまでも軍権だけでございます。討伐した王国の再興までは許されておりません」
「しかし、合戦においては、敵との交渉で、家名や領地を残す権限があるではないか」
「確かに必要であれば、そのような事もございますが、既に滅んだ国を再興するのはいささかやりすぎでございます」
「だが小一郎。合戦において、滅んだ家の再興を約束して、味方に加えることがあるではないか」
「その件は、奥で御話させていただきます。今日の謁見は中止だ。アミール殿には帰って頂け」
「おい。勝手な事をするな。総大将は余だぞ」
「確かに殿下は総大将ではございますが、私は教育係でございます。殿下が間違えられたら、諫める責任がございます」
「余が何を間違えたと言うか」
「側近衆と影衆以外は下がれ」
「なんだ。大袈裟ではないか」
「大袈裟ではございませんぞ」
「何だ。何を怒っておるのだ」
「前回の遠征で、女で大失敗をしておいて、また同じ轍を踏む御心算か」
「……何を言っておる。前回失敗したからこそ、今回は女の願いを聞き入れるのだ」
嘘だ。
幼き頃より御仕えしてきた我には、殿下の嘘など直ぐに分かる。
側近衆や影衆も、殿下が誤魔化そうとしているのに気が付いている。
問題は、殿下は情熱的過ぎて、奥の序列に従った御渡りが出来ない事だ。
今の殿下だと、女に眼が眩んで、奉天伯への配慮など出来ない。
奉天伯の御息女を蔑ろにしたら、武田諸王国が割れてしまう。
前回政治的に配慮して、デーヴィー・スヒター王女を正室に迎えていれば、今回も正室に迎えることが出来ただろうが、今の状況では絶対駄目だ。
「殿下は、陛下が太宰殿を斬首にしたことを御忘れか」
「……何を言っている。余は謀叛など起こしておらんぞ。陛下に御叱りを受ける覚えなどない」
「殿下がアミール殿に執心し、奉天伯の御息女を蔑ろにされるような事があれば、武田王家が割れると何故分からないのですか。そのような事になる前に、陛下が殿下を誅するとは思われるのですか」
今回は、腹を切ってでも御止めせねばならん。

「転生武田義信」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「歴史」の人気作品

コメント

コメントを書く