転生武田義信

克全

第232話決断

1575年10月:ゴア要塞都市外城・土岐信龍と今川信智:第三者視点

「右衛門大夫の兄者、どうするよ」
「左衛門大夫はどうする心算なのだ」
「俺が兄者に聞いておるのだ」
「儂は戦うだけだ」
「戦うと言っても、勝てるのかよ」
「勝てるも勝てないもない。儂はともかく、嫡男まで廃嫡と言う事は、家を潰されると言う事だぞ」
「いや、義信殿の御子が養子に入るのなら、むしろ大加増になるのではないか」
「俺達の血は途切れることになる」
「そんな事はあるまい。娘か孫娘の誰かが、いずれ正室に迎えられるだろう」
「それはない」
「だが、今迄の義信殿のやり方は、養子を押し込むにしても、女系の血は大切にされて来たぞ」
「そうだ。旧主の女系の血を大切にして、武田の臭いを誤魔化してきた」
「そうだろう」
「だから今度も、我々の血筋よりも、土岐と今川の血を優先する。武田の血は、義信殿の御子で十分であろう」
「……確かに、その通りだ」
「だから、ここは一か八か、この城を拠点として、ポルトガルとムスリムと手を組んで、陛下と義信に戦いを挑む」
「だが兄者。それでは土岐と今川の旧臣が、武田に寝返るのではないか」
「だから、奴らには義信の子が養子に来ることは黙って、監軍と合戦に持ち込む」
「内通する前に、戦いを始めてしまう訳だな」
「そうだ。そして監軍の囲みを突破して、ポルトガルとムスリムに使者を送る」
「だが兄者。それでは切り取る土地がなくなるではないか」
「ポルトガルとムスリムの国が、全て我らと手を組むわけではない」
「そうだな。ムスリム同士が諍いを起こしているな」
「我々と手を組むと言ってきた国と同盟を結び、拒んだ国を取りを切り取る」
「だが大丈夫か。義近の本隊が、ポルトガルとムスリムを既に滅ぼしている事はないか」
「義近の軍は強力だが、我らの軍の方が精強だ」
「確かに、義近の軍には良い大将が揃っているが、兵は明の奴隷上りが多いな」
「義信は義近に四万の大軍を預けたが、大和守と弾正が付けられているから、バサイムを無理攻めして兵を無駄死にさせたりはせん」
「だが、義近の軍だけ、大量の大砲を付けているかもしれんぞ」
「なるほど。しくじった義近に功名をあげさせるために、我らには大砲を与えず、義近にだけ与えた可能性はあるな」
「だろう。我らが使える大砲は、海軍に無理矢理運ばせた小型の物だけだ」
「だとしたら、既にバサイムが落城していて、ポルトガルの拠点ががゴアだけという事もあるな」
「どうする。やっぱり陛下と義信殿に恭順するか」
「馬鹿を言え。日ノ本から遠く離れて、陛下の眼も義信の手も届かぬ場所にいるのだぞ。この好機を逃してどうするのだ」
「確かに、そうとも言えるな」
「義信の事だから、城だけではなく、領地も切り取っているだろうが、天竺は広大だ」
「ああ、恐ろしく広大だな」
「明を避けた義信が、義近可愛さに天竺には攻め込んだ。天竺は乱世になる。これは好機なのだ」
「分かった。俺も腹を括ろう」

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