第223話攻防

１５７５年４月：ゴア要塞都市・ドン・アントニオ・ダ・ガマと側近：ドン・アントニオ・ダ・ガマ視点

「閣下。東門が突破されました」
「何だと。西門どころか、北門も南門も囮だったと言うのか」
「恐らくは」
「おのれ、余を謀りおったか」
「閣下。どうなされますか」
「押し返せ。城内から叩き出すのだ」
「しかしながら、蛮族共は精強で、我が軍では太刀打ちできません」
「何だと。我が国の精鋭が歯が立たんと言うのか」
「残念ながら、騎士の方々も、将兵も圧倒されています」
「何たることだ。ここで手柄を立てれば、バルトロメウを追い落として、インド総督の地位が手に入るのだぞ」
「閣下。どこに敵の耳があるか分かりませんぞ」
「うむ。城内の一角は捨てる。城内の迷路に誘い込んで、要所要所で迎え撃て」
「御意」
ヴァスコ・ダ・ガマの次男の嫡男、ドン・アントニオ・ダ・ガマは、次のインド総督の地位を狙っていた。
ガマ家の家督は、伯父のドン・フランシスコ・ダ・ガマが引き継ぎ、ヴィディゲイラ伯爵を名乗っている。
だが、父のエステヴァン・ダ・ガマの方が、伯父より先にインド総督と副王の地位につき、子爵に叙せられている。
伯父も父の後でインド総督と副王に任命されたが、先に任命されたのは次男である父であった。
それが、私の代では、本家のバルトロメウが先にインド総督と副王を地位を得ている。
次は何としても余が任命されなければならない。
万が一クレメンテが先に任命されてしまうようなら、我が家のインド総督と副王の優先順位が三番目になってしまう。
それどころか、デニウソンにまで後れを取るかもしれない。
そんな事になったら、ヴィディゲイラ伯爵を追い落として、我が家がインド総督と副王を独占する野望が露と消えてしまう。
「閣下。北門も突破されてしまいました」
「何だと。兵達は何をしているのだ」
「戦ってはいるのですが、蛮族共の大砲の威力が強力で、城門を破壊されてしまいました」
「城内で迎え撃てばいいではないか」
「しかしながら、蛮族共が命知らずに突撃してくるので、鉄砲の装填が間に合わず、奥深くまで侵攻を許してしまっています」
「まさか、中城まで入り込まれているのではないだろうな」
「今はまだ大丈夫でございますが、外城の東区は大半が占拠されてしまいました」
「外城の東区は放棄して、守備兵を中城に集めろ。何が何でも中城は護り抜くのだ」
「御意」
何という失態だ。
このままでは、余の汚点になってしまうではないか。
せめて敵の大将を討ち取れれば、余の手柄になるのだが。
誰か余の身代わりになる者はおらんか。