第206話叱責

１５７４年１２月：ジャカルタ攻略艦隊：武田義近と側近衆：武田義近視点

「若。若は、御父上様と御正室様が汚いと言われるのですか」
「何を怒っているのだ。爺」
「何をではありません。今日の若の態度は、許されるモノではありません」
「おい、おい、おい。見返りを前提に、身を任せるのは汚いのではないか」
「愚か者」
「爺・・・・・」
「御父上様と御正室様は、明らかな政略結婚でございますぞ。それを汚いとは、愚かにも程がございますぞ」
「いや、それは正室であって」
「諸王陛下はどうでございますか」
「御爺様は・・・・・」
「多くの側室の方は、武田の威勢を恐れた大名や国衆が、家を保つ為に差し出してきた姫でございますぞ」
「それは・・・・・そうだが」
「大叔父様や叔父様方の全てが、政略結婚であることを御忘れか」
「すまぬ。余が愚かであった」
「では、政略結婚を御認めになられるのですか」
「認める」
「ですが、認めるだけでは駄目でございますぞ」
「どう言う事だ」
「政略結婚であろうとも、縁を結ぶからには、生涯相手を尊重し、愛し抜かねばなりませんぞ」
「それは・・・・・厳しいのではないか」
「一族一門の方々は、政略結婚だからこそ、家と家を結びつけるために、互いを尊重して愛し合っておられます。戦を起こさないように、家臣領民を護るために、夫婦の契りを深くする努力を重ねておられますぞ。その事を、何も学んでこられなかったのですか」
「すまぬ。家と家の契りなど、何も考えてこなかった」
「今回のデーヴィー・スヒター王女殿下との話は、多くの影衆が、若の事を想い、長い年月をかけて段取りした縁談でございます」
「すまぬ。本当に済まぬ」
「内々ではございますが、諸王太子殿下と御正室様はもちろん、諸王陛下と正妃殿下にも、話を通しております」
「分かった。余が悪かった。だから許してくれ」
「若がどうしても嫌だと申されるのでしたら、義正様か義剛様に代わって頂きますぞ」
「そうか。そうだな。そうしてもらえるか」
「なっあ。本気でございますか」
「本気だ」
「今まで何を聞いておられたのですか」
「全てだ。全てを聞いたうえで、弟達の誰かに代わってもらえるなら、それが有難い」
「今迄の話の意味を、理解されておられるのですか」
「爺の言いたいことは分かっている」
「それでも、この縁談を断られると申されるのですか」
「ああ。この縁談を受けたら、マラッカ王国の後継王国を建国し、余とスヒター王女が統治することになるのであろう」
「それを分かっていて、この縁談を断られると申されるのですか」
「そうだ」
「理由を教えていただきたい」