転生武田義信

克全

第205話デーヴィー・スヒター王女

1574年12月:ジャカルタ攻略艦隊:デーヴィー・スヒター王女と乳母:第三者視点

「婆や。私はそんなに魅力がないの」
「そんな事はありません。姫様ほど魅力的な女性は、どこを探してもいません」
「ですが、決死の想いで身を捧げる覚悟をしたのに、完全に無視されてしまいました」
「かの国の男は、女性を見る目がないか、玉無しの腑抜けなのです。姫様に魅力がない訳ではありません」
「まあ。婆やったら」
「向こうの傅役は、我が国と縁を結ぶ事に利を認めています。姫様の覚悟が変わらないのであれば、必ず子種を得ることが出来ます」
「変わらないわ。故国を取り返す為ならば、この身を汚すだけでなく、命を捧げる覚悟もしています」
「天晴な御覚悟でございます」

マラッカ王国の末裔であるデーヴィー・スヒター王女は、亡命王国の生末を案じていた。
同じマラッカ王国の末裔が建国したジョホール王国は、ある程度繁栄しているものの、王族内での権力争いがあり、ポルトガルからマラッカを奪還出来る状況ではなかった。
王女の出身であるペラク王国に至っては、臣下や民が集まらず、王国が霧散しそうな状態であった。
これには、マラッカ王国を奪ったポルトガルの圧力と、マラッカ王国を裏切り、ポルトガルを手引きした華僑の影響が大きかった。
憎い華僑皆殺しにし、ポルトガルから故国を奪還するには、武田諸王国の協力が必要不可欠だったのだ。

「婆や。かの国の王族は、あの者しかいないのですか」
「いいえ、他にも王族はおります。あの者は、副将筆頭ですが、総大将も、他の二人の副将も、王族だと聞いています」
「では、他の王族に狙いを変えては駄目なのですか」
「あの男の傅役が乗り気でございますが、姫様があの男が好みでないと仰られるのでしたら、王家に出入りしているかの国の商人を通じて、他の王族に接触したしましょう」
「好みの問題ではありません。故国を奪還する為に、最も適した相手かどうかです」
「その点も、今回の話をもちかけてきた、かの国の商人に確かめてみます」
「頼みましたよ」

ペラク王国に入り込んでいた商人とは、影衆の商人の事だった。
アユタヤ王国を始めとする、南方の多くの国や諸侯の領地には、十年近く前から影衆商人が入り込んでいた。
いや、義信が南方と交易を始めた頃から、影衆商人が関係を結んでいた。
ただ、台湾やフィリピンを占領すると決めた時から、本格的に多くの影衆を派遣して、各王家や諸侯の情報を集めるとともに、人脈も築いていたのだ。
そして影衆は、影衆と所縁のある王孫に、南方で王国を建国させるべく、色々な根回しをしていたのだった。

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