転生武田義信

克全

第204話亡命の姫君

1574年12月:ジャカルタ攻略艦隊:武田義近と側近衆:武田義近視点

「若、この方が、マラッカ王国のデーヴィー・スヒター王女殿下でございます」
「御初に御目にかかる。武田諸王国の王孫、義近と申す」

色々と働きかけて、ようやく上陸が認められたと思ったら、戦う前に要人に会えと言われてしまった。
占領後の統治を容易にするには、絶対必要な事だと理解していたが、それでもこれは不意討ち過ぎる。

「殿下は私達の言葉を理解されるのですね」
「我が王家では、占領地の言葉を使う仕来りなのです」
「征服者として、自分達の言葉を押し付けないのですか」
「そんな事をすれば、民の心を失ってしまいます。それに、征服者ならば、元の民より優秀でなければなりません」
「その一つが、自国と占領国の言葉を操る事なのですね」
「はい。マラッカ王国の言葉が覚えられない者は、マラッカの統治者にはなれません。雑兵としてなら、遠征軍に加わる事は出来ますが、領地を得たいのなら、マラッカ王国の言葉を覚える必要があります」
「軍率が厳しいのですね」

とても魅力的な方だ。
日に焼けた浅黒い肌も、油を塗ったように艶やかだ。
いや、この辺の風習には、香油を塗ると言うモノがあった。
実際に香油を塗っているのかもしれない。
鼻孔を通って、脳髄をガツンと殴られたような、衝撃的な香りが本能を刺激する。
二重で切れ長の目が、妖しく誘うように光っている。
濡れた唇が、衝動的に欲望を高ぶらせてくる。

「あぁ、はん。茶だ、茶を持って来い」
「喉が渇かれたのですか。でも、ここに人と呼ぶのは無粋ではありませんか」

スヒター王女は、俺よりはるかに幼いはずだ。
ここで誘いに乗せられて、不利な条件を押し付けられるわけにはいかない。
武田諸王国の方が、圧倒的に有利なのだ。
女一人の為に、余の劣情の為に、不利な条約など結ぶわけにはいかない。
マラッカ王国は、ポルトガルに故地を奪われ、未開の地に小国を建国した、弱小国家でしかない。
余に王女を押し付けて、武田家に内紛を起こさせる心算なのかもしれない。
据え膳食わぬは男の恥ともいうが、そんな下種な真似は出来ん。

「それは違いますぞ。互いに故国を背負った立場である以上、守らねばならない規範と言うモノがあります」
「それは、私にやり方が下劣だと言いたいのですか」
「スヒター王女殿下がどういう御心算かは分かりませんが、私には私の正義があります」
「分かりました。今日はこれで失礼いたします」

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