転生武田義信
第187話後始末と再挑戦
1567年10月:中国東北部・吉林郊外・ウラ城近郊・武田軍本陣:武田左馬助信豊・遠藤喜右衛門直経:遠藤直経視点
「これが戦の真実でございます」
「止めさせることは出来ないのだな」
「これは武田家が家臣に認めた事でございます。主君が家臣に約束した褒美を反故にするなど許される事ではありません」
「無残なモノだな」
「これが諸王太子殿下が覇権を握られる前の合戦でございます。特に武田家は国が貧しかったんで、略奪と奴隷の扱いが惨うございました」
「余は、何も知らなかった。これからは、このような戦をせねばならぬのか」
「はい。ですが左馬助殿の本当の役目はこの後にございます」
「余の本当の役目だと」
「時間をかけて、略奪のない戦に変えていくのでございます」
「余に女真を変えろと申すのか」
「それが殿下と兵部卿の願いでございます」
「余に全ての女真を心服させ、生き方を変えさせる事など出来るであろうか」
「全ての女真ではございません。左馬助殿が封じられる領地内だけでよいのです」
「そうか。全てではないのだな。だがそれでも難しい事には変わりあるまい」
「諸王太子殿下が既になされたことで、道は出来ております」
「そうか、殿下が御作りになられた道を歩くだけでよいのだな。だが具体的にどうすればよいのだ。余は殿下がなされたことを知らぬのだ」
「兵部卿が左馬助殿に付けられた老臣共が心得ておりますが、まずは私がお手伝いいたします」
「そうか頼む」
「ではまず味方の女真が手に入れた奴隷を買い取りましょう」
「奴隷を買いとるのか。そうか。殿下が明国や南方から買い取った奴隷を家臣領民として働かせ、功名によって平民に解放している方法だな」
「はい。女真の地に褒美で与えた武田の銭を広げ、その銭で珍しい南方や日ノ本の品々を買えるようにいたします」
「女真の地から明の銭を駆逐し、武田の銭を広め、武だけではなく銭でも女真の地を支配するのだな」
「左様でございます」
「買い取った奴隷は日ノ本に送るのか」
「いえ、蝦夷に送ります。武田の国となった蝦夷の地に、京を超える豊かで華やかな都を築きます」
「おお、それが殿下の目標であったか」
「はい。左馬助殿はその国造りの尖兵でございます」
「そうか。ならばこれまで以上に奮起せねばならぬな」
「はい」
1567年10月:1567年9月:薩摩一宇治城・本丸義信私室:鷹司義信・鷹司左近衛中将信鷹・信鷹の傅役(斎影)・織田上総介信長・真田弾正忠幸隆・黒影・闇影・影衆:鷹司義信視点
やれやれ、まるで刑場のに引き出された罪人だな。
馬鹿な言動をした近習達が役を解かれ、後方で厳しい訓練を課せられているのだから、当然と言えば当然だな。
俺がもう少し厳しく愛してやればよかったのだが、優しく愛し過ぎたのかもしれない。
いや、合戦暮らしで側にいてやる時間がなかったのか。
もう少し弟達に注いだ時間を信鷹に向けていれば、このようなことにならなかったかもしれない。
全ては過ぎてしまったこと。
やり直しなど出来ない。
子育ては難しい。
俺が同じ年齢だった時よりも、利を求めて群がってくる者も多く、可哀想な立場だと思う。
父として優しく愛してやりたい気持ちもあるが、諸王太子の立場では厳しく愛してやるほかない。
「よく来たな」
「殿下の御期待に応えらず、申し訳ございません」
そうだな、期待通りとは言えないが、能力と資質に応じた役割を与えてやれなかった俺の失敗でもあるし、時期を待たずに幼い御前に初陣を許した失敗でもあるのだ。
だが許してくれとは言わんし、許されることでもない。
諸王太子の立場では失敗を認める訳にはいかん。
「そうだな。余の反対を押し切り、強く初陣を望んで合戦に赴いたにもかかわらず、佞臣の言葉に踊らされ、味方を窮地に追い込むような言動、武田の嫡流に相応しくない」
「はい。恥じ入るばかりでございます」
そうだな、俺も恥じているよ。
俺も御前も自分がしでかした事だから、恥をかくのは仕方がない。
ただ、九条には申し訳ない事をした。
「殿下、それは我が息子や一族の者が至らなかったことでございます」
違うぞ弾正忠。
吉富と清鏡が常に信鷹を諫めてくれていた事は影衆から聞いておる。
「それは違います。吉富と清鏡は常に他の近習達を諫めてくれていましたし、余にも美辞巧言令色に惑わされないように諫言してくれていました。それに耳を貸さなかったのは私の誤りです」
よくぞ申した。
それが理解できたのなら、誰憚ることなく名誉挽回の機会を与える事が出来る。
「それが理解できるようになったのだな」
「はい」
「ならば今一度機会をやろう」
「本当でございますか」
「ああ、だがその前に幾つか聞いておかねばならん事がある」
「何でございますか」
「その方が一番に信じるべき相手は誰だ」
「父上様でございます」
「そう言ってくれるのは嬉しいが、余がどれほど信鷹を愛していても、天下の為に処罰せねばならぬこともある。左中将が天下を想って出処進退を決める時は余を信じてくれればいいが、己一人のことを考える場合は、誰を信じるべきだと思うか」
「母上様でございます」
「そうか。それが分かっているのならそれでよい」
「殿下」
「なんだ」
「あの、左中将とはいったいどう言う事でございますか」
「うむ。諸王陛下におかれては、武田諸王国の位階を整えられる事を決められたのだ。それでその方が左近衛権中将に任じられることになったのだ」
「有難き幸せでございます」
「それでな、武田諸王国の左中将として、改めて女真との戦いに赴いてもう」
「名誉挽回の機会をお与え下さり、心から感謝いたします」
「うむ。合戦と政の両方をこなさねばならない厳し戦いになるであろうが、左中将を補佐する者を付ける故、その者の言葉によく耳を傾け、同じ失敗を繰り返さないようにいたせ」
「はい」
「殿下、宜しいでしょうか」
「なんだ、弾正忠」
「吉富と清鏡をそのまま左中将様に御仕えさせて良いのでしょうか」
「構わぬよ」
「ですが二人とも左中将様を御諫めすることが出来ませんでした」
「まあ待たれよ、弾正忠殿。もし諫言していた吉富殿と清鏡殿を処分するとなれば、諫言すらしていなかった近習衆を全員処分せねばならん」
「それは上総介殿の言う通りだが、左中将様の側に仕える者の責任は明らかにせねばならんのではないか」
「確かにその通りではあるが、そうすると同じように諫言していた飯富家の虎重殿と寅計殿は勿論、諫言をしていなかった勝沼信定殿はもっと厳しい処分をせねばならなくなる。何より殿下の逆鱗に触れ側近の任を解かれた、小山田信茂殿と穴山信嘉殿にもっと厳しい処分をせねばならなくなるぞ」
「それは、色々と問題があるな」
「殿下の御政道を批判するような言葉を吐いた小山田信茂殿と穴山信嘉殿には、本来なら死罪を賜るほどの罪だったのを、両家とも譜代家老の家柄と親族衆に数えられていたから解任程度で済んだのだ」
「そうであったな」
「それを今更吉富殿と清鏡殿を処分するとなれば、小山田信茂殿と穴山信嘉殿も更に処分せねばならんぞ」
「う~む」
「それにもし吉富殿と清鏡殿が自ら役目を返上したとしても、それはそれで大きな問題になるのは理解されておられるだろう」
「確かにそんな事をすれば、飯富家の虎重殿と寅計殿も役目を返上せねばならず、勝沼信定殿以下の近習衆に至っては、腹を切らればならなくなるかもしれんな」
「結果小山田信茂殿と穴山信嘉殿も腹を切られば収まらなくなり、小山田家と穴山家は二度も面目を失う事になる」
「う~む」
ここは俺が話を収めねばならんな。
「弾正忠」
「は!」
「吉富と清鏡には左中将が名誉を挽回するのを助けてもらう。それをもって近習としての任を全うしてもらう」
「は!」
「左中将」
「はい」
「御前の言動一つで、忠臣の命ばかりか名誉まで失う事になる。心せよ」
「はい。胆に銘じます」
「左中将には新たに信頼できる軍師を側に置くから、その者からいろいろ学ぶとよい」
「はい。心を改にして学びまする」
「これが戦の真実でございます」
「止めさせることは出来ないのだな」
「これは武田家が家臣に認めた事でございます。主君が家臣に約束した褒美を反故にするなど許される事ではありません」
「無残なモノだな」
「これが諸王太子殿下が覇権を握られる前の合戦でございます。特に武田家は国が貧しかったんで、略奪と奴隷の扱いが惨うございました」
「余は、何も知らなかった。これからは、このような戦をせねばならぬのか」
「はい。ですが左馬助殿の本当の役目はこの後にございます」
「余の本当の役目だと」
「時間をかけて、略奪のない戦に変えていくのでございます」
「余に女真を変えろと申すのか」
「それが殿下と兵部卿の願いでございます」
「余に全ての女真を心服させ、生き方を変えさせる事など出来るであろうか」
「全ての女真ではございません。左馬助殿が封じられる領地内だけでよいのです」
「そうか。全てではないのだな。だがそれでも難しい事には変わりあるまい」
「諸王太子殿下が既になされたことで、道は出来ております」
「そうか、殿下が御作りになられた道を歩くだけでよいのだな。だが具体的にどうすればよいのだ。余は殿下がなされたことを知らぬのだ」
「兵部卿が左馬助殿に付けられた老臣共が心得ておりますが、まずは私がお手伝いいたします」
「そうか頼む」
「ではまず味方の女真が手に入れた奴隷を買い取りましょう」
「奴隷を買いとるのか。そうか。殿下が明国や南方から買い取った奴隷を家臣領民として働かせ、功名によって平民に解放している方法だな」
「はい。女真の地に褒美で与えた武田の銭を広げ、その銭で珍しい南方や日ノ本の品々を買えるようにいたします」
「女真の地から明の銭を駆逐し、武田の銭を広め、武だけではなく銭でも女真の地を支配するのだな」
「左様でございます」
「買い取った奴隷は日ノ本に送るのか」
「いえ、蝦夷に送ります。武田の国となった蝦夷の地に、京を超える豊かで華やかな都を築きます」
「おお、それが殿下の目標であったか」
「はい。左馬助殿はその国造りの尖兵でございます」
「そうか。ならばこれまで以上に奮起せねばならぬな」
「はい」
1567年10月:1567年9月:薩摩一宇治城・本丸義信私室:鷹司義信・鷹司左近衛中将信鷹・信鷹の傅役(斎影)・織田上総介信長・真田弾正忠幸隆・黒影・闇影・影衆:鷹司義信視点
やれやれ、まるで刑場のに引き出された罪人だな。
馬鹿な言動をした近習達が役を解かれ、後方で厳しい訓練を課せられているのだから、当然と言えば当然だな。
俺がもう少し厳しく愛してやればよかったのだが、優しく愛し過ぎたのかもしれない。
いや、合戦暮らしで側にいてやる時間がなかったのか。
もう少し弟達に注いだ時間を信鷹に向けていれば、このようなことにならなかったかもしれない。
全ては過ぎてしまったこと。
やり直しなど出来ない。
子育ては難しい。
俺が同じ年齢だった時よりも、利を求めて群がってくる者も多く、可哀想な立場だと思う。
父として優しく愛してやりたい気持ちもあるが、諸王太子の立場では厳しく愛してやるほかない。
「よく来たな」
「殿下の御期待に応えらず、申し訳ございません」
そうだな、期待通りとは言えないが、能力と資質に応じた役割を与えてやれなかった俺の失敗でもあるし、時期を待たずに幼い御前に初陣を許した失敗でもあるのだ。
だが許してくれとは言わんし、許されることでもない。
諸王太子の立場では失敗を認める訳にはいかん。
「そうだな。余の反対を押し切り、強く初陣を望んで合戦に赴いたにもかかわらず、佞臣の言葉に踊らされ、味方を窮地に追い込むような言動、武田の嫡流に相応しくない」
「はい。恥じ入るばかりでございます」
そうだな、俺も恥じているよ。
俺も御前も自分がしでかした事だから、恥をかくのは仕方がない。
ただ、九条には申し訳ない事をした。
「殿下、それは我が息子や一族の者が至らなかったことでございます」
違うぞ弾正忠。
吉富と清鏡が常に信鷹を諫めてくれていた事は影衆から聞いておる。
「それは違います。吉富と清鏡は常に他の近習達を諫めてくれていましたし、余にも美辞巧言令色に惑わされないように諫言してくれていました。それに耳を貸さなかったのは私の誤りです」
よくぞ申した。
それが理解できたのなら、誰憚ることなく名誉挽回の機会を与える事が出来る。
「それが理解できるようになったのだな」
「はい」
「ならば今一度機会をやろう」
「本当でございますか」
「ああ、だがその前に幾つか聞いておかねばならん事がある」
「何でございますか」
「その方が一番に信じるべき相手は誰だ」
「父上様でございます」
「そう言ってくれるのは嬉しいが、余がどれほど信鷹を愛していても、天下の為に処罰せねばならぬこともある。左中将が天下を想って出処進退を決める時は余を信じてくれればいいが、己一人のことを考える場合は、誰を信じるべきだと思うか」
「母上様でございます」
「そうか。それが分かっているのならそれでよい」
「殿下」
「なんだ」
「あの、左中将とはいったいどう言う事でございますか」
「うむ。諸王陛下におかれては、武田諸王国の位階を整えられる事を決められたのだ。それでその方が左近衛権中将に任じられることになったのだ」
「有難き幸せでございます」
「それでな、武田諸王国の左中将として、改めて女真との戦いに赴いてもう」
「名誉挽回の機会をお与え下さり、心から感謝いたします」
「うむ。合戦と政の両方をこなさねばならない厳し戦いになるであろうが、左中将を補佐する者を付ける故、その者の言葉によく耳を傾け、同じ失敗を繰り返さないようにいたせ」
「はい」
「殿下、宜しいでしょうか」
「なんだ、弾正忠」
「吉富と清鏡をそのまま左中将様に御仕えさせて良いのでしょうか」
「構わぬよ」
「ですが二人とも左中将様を御諫めすることが出来ませんでした」
「まあ待たれよ、弾正忠殿。もし諫言していた吉富殿と清鏡殿を処分するとなれば、諫言すらしていなかった近習衆を全員処分せねばならん」
「それは上総介殿の言う通りだが、左中将様の側に仕える者の責任は明らかにせねばならんのではないか」
「確かにその通りではあるが、そうすると同じように諫言していた飯富家の虎重殿と寅計殿は勿論、諫言をしていなかった勝沼信定殿はもっと厳しい処分をせねばならなくなる。何より殿下の逆鱗に触れ側近の任を解かれた、小山田信茂殿と穴山信嘉殿にもっと厳しい処分をせねばならなくなるぞ」
「それは、色々と問題があるな」
「殿下の御政道を批判するような言葉を吐いた小山田信茂殿と穴山信嘉殿には、本来なら死罪を賜るほどの罪だったのを、両家とも譜代家老の家柄と親族衆に数えられていたから解任程度で済んだのだ」
「そうであったな」
「それを今更吉富殿と清鏡殿を処分するとなれば、小山田信茂殿と穴山信嘉殿も更に処分せねばならんぞ」
「う~む」
「それにもし吉富殿と清鏡殿が自ら役目を返上したとしても、それはそれで大きな問題になるのは理解されておられるだろう」
「確かにそんな事をすれば、飯富家の虎重殿と寅計殿も役目を返上せねばならず、勝沼信定殿以下の近習衆に至っては、腹を切らればならなくなるかもしれんな」
「結果小山田信茂殿と穴山信嘉殿も腹を切られば収まらなくなり、小山田家と穴山家は二度も面目を失う事になる」
「う~む」
ここは俺が話を収めねばならんな。
「弾正忠」
「は!」
「吉富と清鏡には左中将が名誉を挽回するのを助けてもらう。それをもって近習としての任を全うしてもらう」
「は!」
「左中将」
「はい」
「御前の言動一つで、忠臣の命ばかりか名誉まで失う事になる。心せよ」
「はい。胆に銘じます」
「左中将には新たに信頼できる軍師を側に置くから、その者からいろいろ学ぶとよい」
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