転生武田義信
第182話長対陣
1567年7月:中国東北部・吉林郊外・ウラ城近郊・武田軍本陣:武田信繁・鷹司信鷹・両者の重臣・影衆達(遠藤喜右衛門直経他):遠藤直経視点
「さて、女真との対陣が長引き、女真のアムールや斉斉哈爾への侵攻も激しくなっておる。忌憚のない献策をしてもらいたい」
信繁公は余裕を持った笑みを浮かべておられるが、内心は可也焦っておられるのだろう。
一時は信繁公の大軍を警戒して西方に引いていた元の七旗ハルハが、多くの援軍を集めて、虎視眈々と豊かな武田家を狙っている。
少しでも隙を見せれば、大興安嶺を超えて斉斉哈爾を狙うか、もっと大きく迂回して、ゼーヤを狙うだろう。
ある程度の集団ならば対応の取りようもあるのだが、3万もの騎馬軍団に侵攻されてしまうと、駐屯軍だけではひとたまりもない。
更に言えば、10騎程度の盗賊団に五月雨式に襲われてしまうと、駐屯軍の城砦は大丈夫でも、村々を守り切ることは不可能だろう。
現に撃退には成功しているものの、多くの村々が被害を受けており、武田家の対する信頼が地に落ちている。
「兵部卿、鉄砲隊を前面に押し出して、決戦を挑んではいかがでしょうか」
「そうです。最初の戦の感じでは、敵の馬は我が鉄砲隊の斉射を恐れて暴れてしまい、女真は上手く御せないように見受けられます。敵が対応策を講じる前に、利点を生かして攻勢に出るべきではありませんか」
信鷹殿下の重臣達の意見も一理あるが、確実とは言い切れない。
武田家の為、慎重に負けない戦を行われる兵部卿が採用されるとは思われん。
「それも一つの策である。満州方面軍だけを考えれば検討の余地はあるが、武田軍全体を考えれば、他の策の方が望ましい」
「どう言う事でございますか」
信鷹殿下はまだ幼いな。
献策をするのを重臣達だけに任せておけば、自分の評判に影響が出ることもないのに、自分で質問してしまえば、良くも悪くも評価されてしまう。
「それは殿下、諸王太子殿下の戦略に係わるからでございます」
「父上様の戦略でございますか」
「はい殿下。諸王太子殿下は、南蛮との決戦を考え、大琉球と小琉球の侵攻に加え、南方諸国まで攻め込む御心算でございます」
「それは知っております」
「それ故、万が一にも負ける可能性のある戦はできないのでございます。百戦不敗の体制を築いた上で、余力を持って南方に攻め込まねばなりません。今満州奥深くに攻め込めば、元の騎馬軍団に背後を突かれる恐れがございます」
「なんですと。それは本当の事ですか」
「はい。先程影衆が知らせてくれました」
「爺。聞いておらぬぞ」
「このひと月、何度も何度もアムールと斉斉哈爾に元の襲撃があると、殿下に申し上げたはずでございますぞ」
「それは盗賊団の事であろう」
「なぜ盗賊団と決め付けられました」
「それは、多くても百を超える程度の騎馬隊と申しておったではないか」
「何故大物見が繰り返し様子を探りに来ていると、考えられなかったのでございますか」
「それは」
「御自身で初陣を望まれた以上、甘えは許されませんぞ」
爺は厳しいな。
ずっと諸王太子殿下と共に戦って来た影衆の出身だから、諸王太子殿下の足を引っ張るなら、たとえ嫡流の実子であろうと手心など加えぬのだな。
「分かった。余の不明であった」
「そこの影衆、詳し状況を伝えよ」
やれやれ、兵部卿直々の御下問とあれば、不興を買おうと言うべき事は言わなばならんな。
まあ兵部卿は、俺の出自も役割も御承知のはずだから、軍師の才のない重臣や血気盛んな若武者の鼻っ柱を折って置く心算なのだろう。
「前提を話さねばなりませんので、些か迂遠な話になりますが、それでも宜しいでしょうか」
「構わぬ。状況を知らずして策など立てられぬ。状況も調べもせず献策するなど、愚者としか言いようがない」
「は」
やれやれ、先程兵部卿に献策した信鷹殿下の重臣が睨んでやがる。
あいつは減知して左遷だな。
民に害をなすと問題だから、諸王太子殿下の近衛軍に送って鍛え直すように進言しよう。
槍働きは優秀かもしれないから、先駆けだけに専念させるのもいいだろうが、優秀な指揮官の下に送り込まないと、全軍を壊滅させてしまうような我攻めを指揮官に献策しかねない。
「まずは女真族の現状でございますが、戦国乱世の様相でございます」
「戦国乱世だと」
「左様でございます。殿下」
「では、国が乱れておるのか」
「はい。女真の国々は、明国との朝貢を巡って血で血を洗う内乱状態でございます」
「それ程朝貢が大切なのか」
「はい。だからこそこれほど簡単に、武田家がここまで早く侵攻できたのでございます」
「よく理解出来ぬのだが」
「まずは女真の戦国乱世に導いた起源から御話いたしましょう」
「それは必要な事なのか」
「とても大切でございます」
「では頼む」
「そもそも女真族は、今我らが支配下に置いているアムールや斉斉哈爾周辺に住んでおりましたが、元が攻め込んできたため、仕方なく南に移動したのでございます」
「うむ」
「ですが生きる為に女真が南に移動したことで、明国や朝鮮に攻め込むことになりました」
「そうか。領地を失って逃げたので、略奪でもせねば生きていけなかったのだな」
「それに対して明は、馬市を開いて女真が略奪せずとも生きていけるようにしました」
「なるほど」
「ですが馬市による女真との朝貢は、明の財政に大きな負担となりました」
「うむ」
「その為に明は、馬市に制限を設け、海西女真に1000、建州女真500と数を限った、朝貢許可の勅書を発行したのでございます」
「なるほど」
「ですがその為に、勅書を巡って女真同士が血で血を洗う戦いを始めたのでございます。今迄王であったものが滅び、賤民であった者が王に上るような下克上が始まったのでございます」
「うむ」
「さて、そこで年に数が限られた馬市の為、馬市の会場に近い土地を支配している者や、馬市までの街道を支配している者が著しく力を持ち、明国のような城砦まで築くほどの者が現れ、王を名乗り国を建てたのでございます」
「う~む」
「中には明国や朝鮮から逃げてきた流民を、奴僕として抱える者まで現れました」
「なるほど。味方に加えた野人女真の中に、朝鮮人がいたのはその為なのだな」
「はい。ですがこの制度は、馬市から遠い女真族が取り残され、台頭してきた新興の者共に奴僕にされてしまう状況も創り出してしまいました」
「なるほど。それで馬市から遠く離れていた、アムールの諸部族や野人女真が我らに従ったのだな」
「はい。更に申せば、明国の政が腐敗しており、屯田兵の上官が不正を働き、配下の屯田兵から不当な税を徴収したり、私役して私領地を開墾したりしており、屯田兵の逃亡が相次ぎ、遂に兵の定数が維持できなくなっております。いえ、数の減った屯田兵の大半は、力を蓄えた土豪役人の奴僕になってしまっております」
「さて殿下、ここまで聞いて何か策は思いつかれましたかな」
「家臣に策を聞いて宜しいでしょうか、大叔父上」
「構いませんよ」
「爺はどうすればいいと思うか」
何も考えずに爺に策を聞くことをよしとすべきかどうか、少々悩む所だな。
だが何の考えもせず、家臣の意見に耳を傾ける事もなく、その場で思い付きの策を口にするよりはずっとましだ。
主君が最初に考えを言ってしまうと、どうしてもそれにおもねるような下劣な奴が出てきてしまう。
そんな奴を見分けるためにわざと最初に自分の考えを話す手もあるが、幼い殿下にその様な手は使えないだろう。
「調略でございます。今の支配者に従っている女真族の中には、隙あらば自分が王に立とうと考えている者もいれば、戦いに敗れ仕方なく配下に加わっている者もおりましょう。自由な馬市を約束して、配下に加えるのでございます」
「だが明国は馬市の負担で財政が傾いたのではないのか」
「それは無理な値で買い取ったからでございます。今迄兵部卿がなされていたように、適正な値で買い取れば問題ございません。それと女真が手に入れた財貨を喜んで手放すような、魅力的な品々を馬市に並べれば武田家の財政が傾くこと等ございません。何よりこれから大遠征を行う武田家には、馬はいくらでも必要になります」
「なるほど。よく分かった。大叔父上、さらなる調略をすべきと考えます」
「具体的にはどうするのですか、殿下」
「爺」
「先程状況を教えてくれた影衆に御聞きなされませ」
「うむ。その方名は何と申すか」
「喜右衛門と申します」
「そうか。では喜右衛門、余はどうするべきだ」
「では申させて頂きます。この地は今女真族で1番力を持つ烏拉国の本城を牽制する絶好に位置にございます。ここに本格的な城を築き、敵を釘付けにしたします。さすれば遊牧を生業にする女真の諸部族は苦境に陥り、烏拉国の声望は地に落ちます」
「うむ」
「しかしながらそれだけでは、女真や元が迂回攻撃をしかけるかもしれません。城には歩兵だけを残し、騎兵をアムールや斉斉哈爾に向かわせます。女真の主力がここに釘付けならば、元の七旗ハルハが相手でも負ける恐れはありません」
「そうなのか」
「七旗ハルハが全軍押し寄せても精々6万騎、ですが恐らくは左翼の3万が精一杯でしょう。諸王太子殿下が近江で使われた戦法を使えば、勝ちは間違いありません」
「そうか。ではその戦法を教えてくれ」
「それは傅役の方に御聞き下さい。それに頭では分かっていても、実際の戦の駆け引きには、戦機を見る経験と我慢する胆力が必要でございます」
「なに。貴様は殿下に胆力がないと申すか」
「残念ながらございません」
「下賤な影衆の分際で殿下に不遜な口を利きおって、そこに直れ、手討ちにしてくれる」
「影衆が下賤と言うなら、私も下賤だと言うのだな」
「あ、いえ、それは」
「しかも殿下は、諸王太子殿下が努力された身分差別を見過ごしななされた。諸王太子殿下の嫡流ならば、その者が影衆を見下した時点で手討ちにしなければなりません」
「それは、余の不明であった。許せ」
「許せません。殿下はどのようは処分を下されますか」
「どうか許してやってくれ。この者には余が言って利かす」
「殿下。残念ながら不合格でございます。その者は軍紀違反で牢に送ります。殿下は今直ぐ日ノ本に御帰り下さい」
「大叔父上」
「諸王太子殿下から、信鷹殿下が武田家を滅亡に導くような言動をした場合は、その場で役目を解き日ノ本に送り返すように指図されておりました。今の言動は武田家の屋台骨を揺るがす一大事でございます」
「大叔父上」
「近しい佞臣を庇い、命懸けで奉公してくれる微禄の忠臣を蔑ろにするような愚か者に、鷹司や武田を名乗る資格はございません。日ノ本に帰られ今一度鍛錬なされよ」
「大叔父上、どうか今一度機会を御与え下さい」
「殿下。戦に二度はございませんぞ」
「爺・・・・・」
信鷹殿下その場に崩れ落ちてしまわれた。
矢張り初陣が早すぎたのだ。
しかし諸王太子殿下は厳しい。
方信諸王太孫殿下ならばやり直しが許されることでも、佞臣に操られて謀叛の恐れのある直流の弟君達は許されず、特に厳しく言動を鍛錬させられる。
傅役殿も辛かろう。
「殿下。今なら戦ではないのでやり直しが利きます。爺が今一度鍛え直して差し上げますから、ここは兵部卿に御任せして日ノ本に戻りましょう。喜右衛門殿、後は頼みましたぞ」
「御任せ下さい」
「さて、女真との対陣が長引き、女真のアムールや斉斉哈爾への侵攻も激しくなっておる。忌憚のない献策をしてもらいたい」
信繁公は余裕を持った笑みを浮かべておられるが、内心は可也焦っておられるのだろう。
一時は信繁公の大軍を警戒して西方に引いていた元の七旗ハルハが、多くの援軍を集めて、虎視眈々と豊かな武田家を狙っている。
少しでも隙を見せれば、大興安嶺を超えて斉斉哈爾を狙うか、もっと大きく迂回して、ゼーヤを狙うだろう。
ある程度の集団ならば対応の取りようもあるのだが、3万もの騎馬軍団に侵攻されてしまうと、駐屯軍だけではひとたまりもない。
更に言えば、10騎程度の盗賊団に五月雨式に襲われてしまうと、駐屯軍の城砦は大丈夫でも、村々を守り切ることは不可能だろう。
現に撃退には成功しているものの、多くの村々が被害を受けており、武田家の対する信頼が地に落ちている。
「兵部卿、鉄砲隊を前面に押し出して、決戦を挑んではいかがでしょうか」
「そうです。最初の戦の感じでは、敵の馬は我が鉄砲隊の斉射を恐れて暴れてしまい、女真は上手く御せないように見受けられます。敵が対応策を講じる前に、利点を生かして攻勢に出るべきではありませんか」
信鷹殿下の重臣達の意見も一理あるが、確実とは言い切れない。
武田家の為、慎重に負けない戦を行われる兵部卿が採用されるとは思われん。
「それも一つの策である。満州方面軍だけを考えれば検討の余地はあるが、武田軍全体を考えれば、他の策の方が望ましい」
「どう言う事でございますか」
信鷹殿下はまだ幼いな。
献策をするのを重臣達だけに任せておけば、自分の評判に影響が出ることもないのに、自分で質問してしまえば、良くも悪くも評価されてしまう。
「それは殿下、諸王太子殿下の戦略に係わるからでございます」
「父上様の戦略でございますか」
「はい殿下。諸王太子殿下は、南蛮との決戦を考え、大琉球と小琉球の侵攻に加え、南方諸国まで攻め込む御心算でございます」
「それは知っております」
「それ故、万が一にも負ける可能性のある戦はできないのでございます。百戦不敗の体制を築いた上で、余力を持って南方に攻め込まねばなりません。今満州奥深くに攻め込めば、元の騎馬軍団に背後を突かれる恐れがございます」
「なんですと。それは本当の事ですか」
「はい。先程影衆が知らせてくれました」
「爺。聞いておらぬぞ」
「このひと月、何度も何度もアムールと斉斉哈爾に元の襲撃があると、殿下に申し上げたはずでございますぞ」
「それは盗賊団の事であろう」
「なぜ盗賊団と決め付けられました」
「それは、多くても百を超える程度の騎馬隊と申しておったではないか」
「何故大物見が繰り返し様子を探りに来ていると、考えられなかったのでございますか」
「それは」
「御自身で初陣を望まれた以上、甘えは許されませんぞ」
爺は厳しいな。
ずっと諸王太子殿下と共に戦って来た影衆の出身だから、諸王太子殿下の足を引っ張るなら、たとえ嫡流の実子であろうと手心など加えぬのだな。
「分かった。余の不明であった」
「そこの影衆、詳し状況を伝えよ」
やれやれ、兵部卿直々の御下問とあれば、不興を買おうと言うべき事は言わなばならんな。
まあ兵部卿は、俺の出自も役割も御承知のはずだから、軍師の才のない重臣や血気盛んな若武者の鼻っ柱を折って置く心算なのだろう。
「前提を話さねばなりませんので、些か迂遠な話になりますが、それでも宜しいでしょうか」
「構わぬ。状況を知らずして策など立てられぬ。状況も調べもせず献策するなど、愚者としか言いようがない」
「は」
やれやれ、先程兵部卿に献策した信鷹殿下の重臣が睨んでやがる。
あいつは減知して左遷だな。
民に害をなすと問題だから、諸王太子殿下の近衛軍に送って鍛え直すように進言しよう。
槍働きは優秀かもしれないから、先駆けだけに専念させるのもいいだろうが、優秀な指揮官の下に送り込まないと、全軍を壊滅させてしまうような我攻めを指揮官に献策しかねない。
「まずは女真族の現状でございますが、戦国乱世の様相でございます」
「戦国乱世だと」
「左様でございます。殿下」
「では、国が乱れておるのか」
「はい。女真の国々は、明国との朝貢を巡って血で血を洗う内乱状態でございます」
「それ程朝貢が大切なのか」
「はい。だからこそこれほど簡単に、武田家がここまで早く侵攻できたのでございます」
「よく理解出来ぬのだが」
「まずは女真の戦国乱世に導いた起源から御話いたしましょう」
「それは必要な事なのか」
「とても大切でございます」
「では頼む」
「そもそも女真族は、今我らが支配下に置いているアムールや斉斉哈爾周辺に住んでおりましたが、元が攻め込んできたため、仕方なく南に移動したのでございます」
「うむ」
「ですが生きる為に女真が南に移動したことで、明国や朝鮮に攻め込むことになりました」
「そうか。領地を失って逃げたので、略奪でもせねば生きていけなかったのだな」
「それに対して明は、馬市を開いて女真が略奪せずとも生きていけるようにしました」
「なるほど」
「ですが馬市による女真との朝貢は、明の財政に大きな負担となりました」
「うむ」
「その為に明は、馬市に制限を設け、海西女真に1000、建州女真500と数を限った、朝貢許可の勅書を発行したのでございます」
「なるほど」
「ですがその為に、勅書を巡って女真同士が血で血を洗う戦いを始めたのでございます。今迄王であったものが滅び、賤民であった者が王に上るような下克上が始まったのでございます」
「うむ」
「さて、そこで年に数が限られた馬市の為、馬市の会場に近い土地を支配している者や、馬市までの街道を支配している者が著しく力を持ち、明国のような城砦まで築くほどの者が現れ、王を名乗り国を建てたのでございます」
「う~む」
「中には明国や朝鮮から逃げてきた流民を、奴僕として抱える者まで現れました」
「なるほど。味方に加えた野人女真の中に、朝鮮人がいたのはその為なのだな」
「はい。ですがこの制度は、馬市から遠い女真族が取り残され、台頭してきた新興の者共に奴僕にされてしまう状況も創り出してしまいました」
「なるほど。それで馬市から遠く離れていた、アムールの諸部族や野人女真が我らに従ったのだな」
「はい。更に申せば、明国の政が腐敗しており、屯田兵の上官が不正を働き、配下の屯田兵から不当な税を徴収したり、私役して私領地を開墾したりしており、屯田兵の逃亡が相次ぎ、遂に兵の定数が維持できなくなっております。いえ、数の減った屯田兵の大半は、力を蓄えた土豪役人の奴僕になってしまっております」
「さて殿下、ここまで聞いて何か策は思いつかれましたかな」
「家臣に策を聞いて宜しいでしょうか、大叔父上」
「構いませんよ」
「爺はどうすればいいと思うか」
何も考えずに爺に策を聞くことをよしとすべきかどうか、少々悩む所だな。
だが何の考えもせず、家臣の意見に耳を傾ける事もなく、その場で思い付きの策を口にするよりはずっとましだ。
主君が最初に考えを言ってしまうと、どうしてもそれにおもねるような下劣な奴が出てきてしまう。
そんな奴を見分けるためにわざと最初に自分の考えを話す手もあるが、幼い殿下にその様な手は使えないだろう。
「調略でございます。今の支配者に従っている女真族の中には、隙あらば自分が王に立とうと考えている者もいれば、戦いに敗れ仕方なく配下に加わっている者もおりましょう。自由な馬市を約束して、配下に加えるのでございます」
「だが明国は馬市の負担で財政が傾いたのではないのか」
「それは無理な値で買い取ったからでございます。今迄兵部卿がなされていたように、適正な値で買い取れば問題ございません。それと女真が手に入れた財貨を喜んで手放すような、魅力的な品々を馬市に並べれば武田家の財政が傾くこと等ございません。何よりこれから大遠征を行う武田家には、馬はいくらでも必要になります」
「なるほど。よく分かった。大叔父上、さらなる調略をすべきと考えます」
「具体的にはどうするのですか、殿下」
「爺」
「先程状況を教えてくれた影衆に御聞きなされませ」
「うむ。その方名は何と申すか」
「喜右衛門と申します」
「そうか。では喜右衛門、余はどうするべきだ」
「では申させて頂きます。この地は今女真族で1番力を持つ烏拉国の本城を牽制する絶好に位置にございます。ここに本格的な城を築き、敵を釘付けにしたします。さすれば遊牧を生業にする女真の諸部族は苦境に陥り、烏拉国の声望は地に落ちます」
「うむ」
「しかしながらそれだけでは、女真や元が迂回攻撃をしかけるかもしれません。城には歩兵だけを残し、騎兵をアムールや斉斉哈爾に向かわせます。女真の主力がここに釘付けならば、元の七旗ハルハが相手でも負ける恐れはありません」
「そうなのか」
「七旗ハルハが全軍押し寄せても精々6万騎、ですが恐らくは左翼の3万が精一杯でしょう。諸王太子殿下が近江で使われた戦法を使えば、勝ちは間違いありません」
「そうか。ではその戦法を教えてくれ」
「それは傅役の方に御聞き下さい。それに頭では分かっていても、実際の戦の駆け引きには、戦機を見る経験と我慢する胆力が必要でございます」
「なに。貴様は殿下に胆力がないと申すか」
「残念ながらございません」
「下賤な影衆の分際で殿下に不遜な口を利きおって、そこに直れ、手討ちにしてくれる」
「影衆が下賤と言うなら、私も下賤だと言うのだな」
「あ、いえ、それは」
「しかも殿下は、諸王太子殿下が努力された身分差別を見過ごしななされた。諸王太子殿下の嫡流ならば、その者が影衆を見下した時点で手討ちにしなければなりません」
「それは、余の不明であった。許せ」
「許せません。殿下はどのようは処分を下されますか」
「どうか許してやってくれ。この者には余が言って利かす」
「殿下。残念ながら不合格でございます。その者は軍紀違反で牢に送ります。殿下は今直ぐ日ノ本に御帰り下さい」
「大叔父上」
「諸王太子殿下から、信鷹殿下が武田家を滅亡に導くような言動をした場合は、その場で役目を解き日ノ本に送り返すように指図されておりました。今の言動は武田家の屋台骨を揺るがす一大事でございます」
「大叔父上」
「近しい佞臣を庇い、命懸けで奉公してくれる微禄の忠臣を蔑ろにするような愚か者に、鷹司や武田を名乗る資格はございません。日ノ本に帰られ今一度鍛錬なされよ」
「大叔父上、どうか今一度機会を御与え下さい」
「殿下。戦に二度はございませんぞ」
「爺・・・・・」
信鷹殿下その場に崩れ落ちてしまわれた。
矢張り初陣が早すぎたのだ。
しかし諸王太子殿下は厳しい。
方信諸王太孫殿下ならばやり直しが許されることでも、佞臣に操られて謀叛の恐れのある直流の弟君達は許されず、特に厳しく言動を鍛錬させられる。
傅役殿も辛かろう。
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