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転生武田義信

克全

第177話琉球始末

1565年8月:薩摩一宇治城・本丸謁見の間:義信・織田信長・真田幸隆・影衆:義信視点

「申し訳ございません」

「長年に渡り警備の厳しい王宮に入り込んでいたのだ、連絡が取れない事や情報が錯綜することもあるだろう。だが、今回のような重要な条件が、間違って相手に伝わることは許されない。今後二度とこのようなことが無いように」

「はい。申し訳ありません。二度とこのようなことが無いように、全ての配下に徹底いたします」

「では諸王太子殿下、条件を影衆が間違って伝えた内容にいたしますか」

信長はいつも通りの嫌味だな。

認められないのを分かっていて、影衆に失敗の重みを再度噛み締めさせている。

俺が叱責するのが苦手なのを知っていて、嫌われ役を買って出てくれているのだろうが、似合い過ぎて俺まで嫌いになりそうな嫌味だな。

「それはできん。尚家に朝貢を認めれば、僅かな領地とは言え、琉球内に明国の属国領を認めることになる」

「ではいかがなされますか」

「幸隆はどうするべきだと思う」

「今までの諸王太子殿下の政策を変えないのであれば、朝貢先を変える事でしょうか」

「御上に朝貢させるという事か」

「はい。約束したことを守ると言う、諸王太子殿下の信義を守る意味では、それがいいと思われます」

「しかしながら真田殿、王族だった者を元の領地に残すのは禍根を残すのではないかな」

「その通りだが、諸王太子殿下の必ず約束を守るという信義は、今後の調略の為にも守らねばならん」

「その通りだな。だがそもそもそこまで明国に配慮すべきなのかな」

「どう言う事だ」

「明国に堂々と、琉球を占領したから文句があればかかってこいと言えばよかろう」

「諸王太子殿下の、明国とは戦わないという方針を無視するというのか」

「真田殿も分かっているだろうが、殿下が明国と事を構えないのは大陸に限ったことだ。海の上では明国の人間と戦う事に躊躇いはない」

「それは分かっておる。第一倭寇を詐称する明国の海賊共は、今も討伐しておる」

「ならば、明国にこう通達すればいい。琉球人が倭寇を詐称していたので討伐した。このまま琉球を我が版図に加えるが、文句があるならかかってこいとな」

「喧嘩腰だな。だがそれで、明国が本気でかかってきたらどうする心算だ」

「殿下の方針に従い、大陸にまでは攻め込まないが、海に出てきた者は拿捕してしまえばよい」

「海軍衆の手柄と小遣い稼ぎにするのだな」

「ついでに今まで取り締まっていた、明人の倭寇を見逃してやればいい。明国や朝鮮は悲鳴を上げるであろうよ」

「相変わらず織田殿はえげつない手を考える。だがそうすれば、殿下は約束を守った上で信義を失う事もない。それに当初の方針も守れるし、家臣共も豊かになれるな」

幸隆も信長も恐ろしいことを考えるな。

2人とも俺の方針に従ってはくれているものの、本当は南方や北方よりも明国に侵攻すべきと考えているのだろう。

俺だって未来の事を知らなければ明国に侵攻していただろう。

だが明治維新から平成までの歴史を知っている俺には、中国大陸の中原に興味はないのだ。

本当に大切だと思っているのは、資源地帯なのだ。

大慶油田、アラスカ油田、シベリヤ油田、スマトラ油田などは、出来れば俺が生きている内に確保しておきたい。

北虜を管理するという条件で、明国とは確たる領土条約を結び、歴史に禍根を残さないようにしたい。

それに出来る事なら、条約締結後に俺が外から策謀を施し、大陸に戦国時代を引き起こし、統一国家が興らないようにしたいのだ。

最低でも三国に分裂させる。

出来れば春秋戦国時代・五代十国時代のように、多くの地方政権が群雄割拠する状態にさせたい。

1番いいのは、日本に対抗できるような大国が現れないよう、春秋時代のように大小二百余国に分裂させたいのだ。

悪辣なやり方だとは重々承知しているが、将来に渡って日本に対抗できる隣国が出現しないように、俺の代で手を尽くしておきたい。

「明国には直接手を下さず、戦国時代に導き、将来に渡って日ノ本に対抗できる国が現れないようにする」

「なんと」

「明国の民を、戦国の世に叩き落とす御心算か」

幸隆の意表を突けたのは嬉しいが、信長は反感を持ったようだな。

家臣や敵には厳しいが、民には優しい所があるから、この方針には従えないところがるのだろう。

下手をすれば、これが原因で謀叛や暗殺を謀るかもしれないから、ここはフォローを入れておくべきだろう。

「我らが大陸に攻め込めば、それは異民族の侵略になり、大きな敵愾心を煽ることになる。それでは敵味方大きな死傷者を出すだけにはとどまらず、民も巻き込んだ大戦になるだろう。それくらいなら周辺諸国を平定し、大陸中原から逃げてくるものを受け入れる方がいい。日ノ本本土にとどまらず、蝦夷地や樺太はもちろん沿海まで、入植できる土地は多い」

「左様ですな。正直百姓が増えてくれねば兵糧が足らなくなるが、足軽の多くが百姓や屯田兵を希望すると、最前線を担う兵が不足します」

「一通り開墾が終わったら、与える土地もなくなるだろうが、本土と蝦夷地だけでも数十年は開墾する土地に不足はせぬ。まして台湾を手に入れることになれば、南部なら三期作も可能だから、優先的に開墾する土地がまた増える。屯田兵は多ければ多いほどいい。無理に明を攻める必要などない」

「それならば、1年の半分が雪深い蝦夷地以北を攻めるよりは、南方に力を入れて下さいと言いたいところですが、臭水(くそうず)と燃える石が、日ノ本の未来を支えると言われておりましたな」

臭水(くそうず):石油
燃える石:石炭

信長が探るような視線で聞いて来る。

「そうだ。余が眼鏡や望遠鏡を発明したことで、水晶の価値が桁外れに高まったように、臭水(くそうず)と燃える石も、いずれ必ず金山や銀山のように奪い合いになる」

「殿下は我らの知らない事を知っているのではありませんか」

「余には神からの御告げが届くと言えば信じるのか」

「殿下が次々と創り出された兵器を考えれば、そう考えざる負えませんな」

幸隆は尊敬の視線混じりに言ってくれるが、嘘をついているのが心苦しい。

この時代の常識からいえば、未来から生まれ変わったというよりは、神の御告げが聞けるという方が信じてもらえるだろう。

「神憑りに関しては、殿下の申されることを信じるしかございませんが、琉球のおなり神は、一向宗や南蛮のデウスと扱いが違い過ぎるのではありませんか」

政教分離を厳しく行ってきた俺が、琉球のおなり神を認めて、聞得大君を筆頭に祝女(のろ)や根神(ニーガン)を調略に使ったことが、信長には理解出来ないのだろう。

「蝦夷や樺太でもそうであったが、我らは侵略者なのだ。もし南蛮人が日ノ本を侵略して、神や仏を無理矢理廃して、デウスを崇めろと強制したらどう思う」

「「許せません」」

「蝦夷も琉球も同じだ。王を殺し土地を取りあげたうえに、神まで取り上げるわけにはいかん」

「しかし琉球の祝女(のろ)や根神(ニーガン)は、王位継承にまで口出しするのではありませんか」

幸隆の心配はもっともだ。

「琉球の神は琉球限定とする。土地を取り上げて扶持を与えるし、家族から根神(ニーガン)を出す家は琉球から出さん」

「政に口を出すような神は、日ノ本に入れないという事ですね」

「日ノ本はもちろん鷹司家や武田家の中枢にも入れん。おなり神を捨てた者だけに、琉球以外の土地を与える」

「承りました。それでは琉球の土地は代官に管理させるとして、離れ小島はどう扱うのですか」

「島ごとや親方ごとに我が家臣とする。特に尚家が圧政を敷いていた、宮古、石垣、西表に関しては、琉球本島で叛乱が起こった際の詰めの島にする心算だから、代官の人選には細心の注意を払ってくれ」

「承りました。それでは年貢などの割合は、日ノ本と同じとし、公平に扱えば宜しいのですね」

「尚王家に与える1000石以外は、全て我が直轄領とするので、自作農は四公六民で、小作に関しては四公四地二小で行ってくれ。十分な土地を貸し与えて、二割の収穫でも生活できるように図ってくれ」

「承りました」

「琉球では砂糖黍を作らせないのですか」

質問や突っ込みは信長の役割になっているな。

「砂糖はこれまで通り、蝦夷や樺太で砂糖大根から作らせる。蝦夷や樺太では米が作れないから、琉球や南方で二期作の米作りを行い、冷害の恐れのある土地では、米以外の穀物を作り軍馬を育てさせる」

「左様でございますな。今度は我らが元の末裔に戦いを挑むのですから、軍馬の育成は必要不可欠でございますな」

「さて、琉球の事は大筋で納得してくれたか。納得してくれたら細かな部分を詰めるから、海軍衆の当番を呼んでくれ」

「承りました」

最初に這いつくばって詫びを入れて以来、今まで黙って話を聞いていた黒影が、音もたてずに立ち上がっていった。

これから明国を相手に強気の交渉をするにあたり、海軍衆の働きが大切になってくる。

特に朝鮮沿岸を荒らしまわる偽倭寇の取り締まりをどうするかで、朝鮮が明国に泣きつくという状況を創り出すことも可能だ。

だがその為には、勝手に朝鮮の家臣を名乗り、日ノ本と朝鮮を天秤にかけていた対馬の宗家をどう扱うか決めねばならん。

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