転生武田義信

克全

第164話激闘

1564年2月薩摩一宇治城城外:第3者視点

当初の計画では、襲撃者は騎馬突撃で信龍の陣所を踏み躙る心算だった。

だが九州各地から集まる途中で内通者から、信龍の陣がただの野営地ではなく、黒鍬のよる城規模の移動砦であることがもたらされた。

騎馬突撃を諦めた襲撃者だったが、内通者のよって城門を開けせての奇襲攻撃は諦めなかった。

だが同時に長年の経験で、鷹司武田家が犬狼部隊による警備を行っていることも知っており、内通も奇襲も失敗する可能性も考慮していた。

だがここまで追い込まれた以上、この奇襲に全てを賭けるしかないことも理解しており、内通が失敗しても、奇襲の前に発見されるようなことがあっても、遮二無二突撃することを覚悟していた。

奇襲当日、一宇治城内に籠城している者達も、内通している信龍の野営地にいる者達も、奇襲を仕掛ける者達も、奇襲を仕掛ける正確な時間を合わせることなど出来なかった。

そこでまず奇襲部隊が、信龍の野戦砦に出来るだけ近づき、城門まで辿り着けたら内通者が城門を開くべく蜂起する段取りとなっていた。

奇襲部隊の一部が、信龍の野戦砦の周辺に陣取る内通者の野営地を通って、野戦砦に近づこうとしたが、案の定犬狼部隊の警戒網に発見されてしまい、内通者と共に強襲に切り替えることになった。

犬狼部隊の遠吠えが静かな野営地の轟いた直後、3部隊に分かれて準備していた奇襲部隊が、焦ることなく強襲に切り替えて突撃を開始した。

奇襲部隊は、事前に野営地の布陣情報を内通者から得ていたので、馬の息を切らさないように操りながら、一気呵成に野戦砦の城門前に辿り着こうとした。

事前に浅いながらも空堀があることも知らされていたので、空堀を渡ることも想定して、橋代わりに使える板を手分けして持ってきており、拒馬や馬防柵を誰が破壊し移動させるかも決めてあった。

「武田信繁謀叛!」
「佐竹義頼謀叛!」
「比志島義基謀叛!」
「島津義虎!」
「今井信甫!」

奇襲部隊と内通者は、野営地にいる主だった武将全てが謀叛を起こしたと騒ぎ立て、誰が味方で誰が謀叛を起こしたのか惑わす作戦を取った。

実際に内通して裏切っているのは極少数なのだが、闇夜の中で叫ばれると誰を信じていいのか分からないし、不意に背後から斬り付けられる恐怖に耐えられる者も少ない。

しかも武功豊かな歴戦の勇者にして、武田一門でもある武田信繁と佐竹義頼の名を叫ぶことで、武田四国軍と武田中国軍が手を組み、鷹司義信と鷹司信龍を同時に亡き者にしようとしていると、野営地の者達に思わせようともした。

武田信繁と佐竹義頼が手を組み、鷹司義信と鷹司信龍の頚を取れば、武田信玄と鷹司義信の天下はひっくり返ると思わせ、野営地の武将達を本当に寝返らせたいと考えていた。

それが無理だったとしても、雑兵の一部でも逃亡すれば、友崩れが起こり、野営地で踏ん張って鷹司信龍を護ろうとする者が減れば上々とも思っていた。

そして実際に逃亡と同士討ちが始まってしまった。

これは今回の鷹司義信軍の根本的な弱点が原因だった。

奇襲を成功させるために、歴戦の鷹司武田軍の将兵は、ほとんど鷹司中国軍と鷹司四国軍に配されていた。

そもそも表向きは蝦夷・樺太・沿海を攻めるための部隊であり、動員されたのは東北を中心とした東国の武将達だ。

特に東北の部隊は、中国四国で上級武将として配されているもの以外は、新兵と言うべき若い者達が中心で、厳しい戦いなど経験したことがなっかた。

元アイヌ奴隷などの歴戦の戦士は、アイヌ・樺太・沿海を確保しておくために、屯田兵として要地に駐屯している。

蝦夷・樺太・沿海の奴隷を購入し、手柄を立てさせて褒美を与え、自分で自分を購入させ奴隷から解放させると言う政策を取ろうとしていたため、実戦経験のない者が大半であった。

しかも何より問題だったのは、奇襲部隊の主力が騎馬鉄砲部隊であったことだ。

騎馬鉄砲部隊は鷹司武田軍の代名詞であり、早くに義信に攻略された出羽や陸奥の新人将兵には、鷹司武田以外に騎馬鉄砲隊が存在すると思っていなかった。

しかもその騎馬鉄砲隊が3方向から襲ってきたために、本当に武田信繁と佐竹義頼が、鷹司義信と鷹司信龍の頚を取りに来たと信じてしまい、逃げ出したり同士討ちを始めたりしてしまった。

信龍が眠っていた野営地の外では、阿鼻叫喚の地獄絵図となっていたが、流石に義信が信龍に付けた側近衆が率いる部隊や近習衆は、慌てることなく野戦砦を護っていた。

この状態で城門を開くような愚か者はおらず、混乱に乗じて城門を開こうとした内通者を切り殺し、がっちりと城門を護っていた。

「爺、どうすればいい」

「陣地確保の太鼓を叩かせましょう」

「何故だ」

「今戦わせても、同士討ちをさせてしまうだけでございます」

「引かせるのは不味いのか」

「一宇治城に籠城している島津勢が、この混乱に乗じて討って出てくるでしょう。下手にひくと追い討ちされてしまいます。元々の砦や陣地を確保させれば、同士討ちしてしまう事も、追い討ちされることもございません」

「安芸大宰殿と左近衛大夫殿が本当に裏切ったと言う事はないのだな」

「御二人が裏切っていたら、若の頚は既に胴から離れております。本当に謀叛を越すのなら、このような不確実な事はせず、謁見の場で頚を取ります」

「なるほど。家族団欒の場の方が、確実に首を取れるな」

「それに軍を率いて謀叛を起こすのなら、多くの大名や国衆の賛同が必要になります。安芸大宰様にしても左近衛大夫様にしても、側に仕えるのは大将軍閣下恩顧の者達ばかり、僅かでも謀叛を気持ちを漏らそうものなら、その場で叩き切られてしまいましょう」

「愚かな事を聞いた。忘れてくれ」

「いえいえ、このような状況でございますから、当然の心配でございます」

「愚かついでに聞くが、このまま守り切れるのか」

「「「「「ウォー!」」」」」

「何が起こった」

「恐らく島津が討って出たのでございましょう。ですが何の心配もございません」

「どう言う事だ」

「この砦には、大将軍閣下が選りすぐられた近習衆と黒鍬衆が詰めております。武具弾薬や兵糧が残り少ない島津に落とされることなどございません」

「奇襲を仕掛けてきた者共はどうだ」

「そもそも奇襲を仕掛ける時点で、兵が少ないことが知れております。最初の頃に撃たれた鉄砲の数、陣から出ずに守りを固めろと言う太鼓を打たせた後の鉄砲の数を考えれば、多くて六千、少なければ三千が精々だと思われます」

「うむ」

「それに対してこの砦を護る兵は、一騎当千の近習衆と黒鍬衆が三千でございます。2万を超える兵が攻め寄せでもしない限り、堀を越えることは出来ても土塁と柵を越える事は出来ますまい」

「左様か」

「「「「「ダッーン!」」」」」

「あれはなんじゃ」

「御味方が、攻め寄せた敵に鉄砲を馳走したのでございます」

「余が出ずともよいのか」

「御味方を信じられませ。今若が迂闊に動かれれば、敵の刺客に好機を与えるようなものでございます。若は竹丸達の頭を撫でてやって下されればよいのです」

「そうか。竹丸、側に参れ」

鷹司信龍は護衛を務める狼部隊の頭を呼び、その頭を撫でてやった。

竹丸の頭を撫でているうちに、信龍の心は落ち着くのであった。

野戦砦の中の最奥、本丸と言える場所は、信龍の犬狼部隊と最側近の者しか近づけない聖域であった。

最前線の戦場では、刺客を近づけせないことが何より大切であったため、寝所となる本丸に関してだけは、一門譜代であっても色々な制限が課せられていた。

「「「「「ウォー!」」」」」

「「「「「ダッーン!」」」」」

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