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転生武田義信

克全

第155話三好家

1561年6月・阿波芝生城の本丸政務殿:三好兄弟と重臣衆:三好長慶視点

三好長慶(1522):三好家当主
三好義興(1542):三好家嫡男
三好実休(1527):三好長慶次弟
安宅冬康(1528):三好長慶三弟
十河一存(1532):三好長慶四弟・戦死
野口冬長(・・・・):三好長慶五弟・安宅水軍・淡路旗頭
三好長逸      :三好一族長老
三好長虎      :三好長逸嫡男
岩成友通      :奉行人
松永弾正忠久秀   :奉行人
篠原長政      :三好家譜代・三好長慶の傅役
篠原長房      :篠原長政嫡男・三好実休重臣
篠原佐吉兵衛    :篠原長政次男・三好実休重臣
松山新太郎重治   :堺の名物男・元一向衆
今村紀伊守慶満   :被差別民に対する権益を保有し、各地で押領を働く

「武田の圧力が強まる中、皆よくぞ集まってくれた。今日皆で決めたことが、我らの生死を決めることになるかもしれぬ。もう1度皆が一堂に会する時は、生死を賭けた武田との戦いの前かもしれぬ。だから忌憚のない話を聞かせてくれ」

ふむ、義興も成長してくれている。

歴戦の一族一門集を前にして、既に当主にふさわしい風格だ。

これで儂も安心して隠居できる。

「若殿が忌憚のない話をして欲しいと言ってくださるので、遠慮なく申し上げさせていただきますが、何故一条を攻め滅ぼさないのです。安芸国虎・本山茂辰・長宗我部元親・香宗我部親秀・大平国興など、土佐の有力な国衆全てが御味方を約束しております。一条家に味方するのは津野定勝と直臣衆だけ、ここは一気に攻め滅ぼし、四国統一を図ったほうがいいのではありませんか」

ふむ、慶満の申すことは一見正論のようだが、愚か故の正論なのか、それとも何か腹に一物あるのか、どちらであろう。

「紀伊守の意見も一理あるが、一条家を滅ぼせば大きな災いを引き寄せることになる」

ふむ、義興は本当に成長しておるな。

「若殿、それはいったいどういう事でございますかな」

やれやれ、長逸殿は相変わらず喰えぬな。

義興の申すことなど、とうに気が付いているだろうに。

義興の威光を高めてくれる心算なのだろう。

「武田に放っている忍びの話を総合すると、武田は我ら三好に一条を滅ぼさせ、自らの手を汚さず朝廷内の敵を排除する心算なのだ」

「「「「「なんと! それは真でございます」」」」

近江・山城・大和・和泉・摂津と打ち続く敗戦で、わが家臣団も寂しくなったものよ。

この程度の謀略に気付くことも出来ない者が、重臣会議に参加するようになってしまった。

「真だ。尼子義久と尼子国久を滅ぼした武田信繁が、その余勢を駆って四国に攻め込まなかったのが何よりの証拠だ」

「しかしながら若殿、それは武田勢に内治の問題があったからではありませんか」

慶満の一条家へのこだわりようは疑念があるな。

「いや、忍びの知らせでは、安芸門徒を毛利と同士討ちさせた武田には、何の憂いもなかったと言う事だ」

「若殿の申す通りだ。大殿が一向衆の阿波入りを許さなかったことで、最早日ノ本に一向衆の行き場はなくなったのだ。今は僅かな者が村上水軍に匿われ、瀬戸内で細々と命脈を保つのみだ」

長逸殿の申す通り、父の仇である一向衆を、阿波に迎えるなど我慢ならん。

京にいた頃なら、天下の政道のために砂を噛む思いで我慢したが、父祖伝来の阿波に一向衆を立ち入らせるなど、許せるものではない。

「その村上水軍と我らを恐れて、攻め込むのを躊躇ったのではありませんか」

やれやれ、京を追われた我らとともに、阿波に渡ってくれた者共の中にも、武田に内通するものが多くいるようだ。

鷹司があのまま頑なな態度でいてくれたら、ここまで悪い状況にはならなかったのだろうが、鷹司が山陰山陽の国衆地侍を許したことで、我が三好家の一族一門の中にも、寝返る者が出てきてしまっている。

「武田の弱みは、嫡男を鷹司の養嗣子に出し、朝廷に近づいたことだ。これにより必要以上に公卿に配慮せねばならなくなっている」

「その配慮というのが、一条摂関家などの勢力でございますか。しかしながら若殿、御料所の奪還を名目に戦を起こせても、その分公卿に渡さねばならぬ領地が増えます」

「一条摂関家は、土佐一条家の戦力を背景に、鷹司に対抗しようとしていた。それと周防の領地に関しては、土佐一条家から養子に行った大内義通殿に渡す約束になっている。土佐一条家と併せれば、油断ならぬ勢力になる。公卿に返す所領に関しては、鷹司義信が開発したという農具と、異国から取り寄せさせた作物により、武田の領内は飛躍的に豊かになっておる。公卿に所領を返還しても、十分な領地が手に入るのであろう」

「なるほど、公卿に返す所領など、飛躍的に増える鷹司の領地に比べれば、微々たるものといことですな。我が三好と一条以外の四国の諸勢力に支援を与え、富と将兵を疲弊させ、楽々と四国を攻め取る所存なのでしょう。しかもそれだけではなく、朝廷内の政敵の力を削ごうとするなど、強かな相手でございますな」

長逸殿が皆にも理解できるように、噛んで含めるように話してくれている。

儂の若き頃から陰に日向に助けてくれる。

ありがたいことだ。

「長逸殿の申される通り、武田は真に強かであり、一筋縄では行かぬ相手である。何度も何度も戦った我らが、そのことを1番分かっているはずだぞ」

「「「「「いかにも」」」」」

「そこでだ、先ほども申したように、我ら三好がどうすべきか、忌憚のない話をしてもらいたい」

ふむ、わしにも相談しに来なかったが、義興はよほどの覚悟を持っているようだな。

「若殿、それは武田との和議を考えよと言う事でございますか」

流石は京で公卿相手に交渉を重ねてきた弾正忠だ。

武田との和議も、既にいく手も考慮していたのだろう。

「和議には限らぬが、三好が生き延びるための手段があるのなら、何でも申してほしい」

「若殿、それは一条家を滅ぼすことを条件に、武田の旗下に入るということでしょうか」

ふむ、新太郎も一条を滅ぼす前提で話しているのか。

それともそこまでしか考えつかぬのか。

ここまで家臣団に調略の手が伸びているのなら、よほど思い切った譲歩をせねば、三好が生き延びるのは難しいだろう。

義興はどこまで譲歩する心算なのか。

それとも儂が思いつかぬような思い切った手で、鷹司と戦う体制を維持するのか。

「新太郎殿、一条を滅ぼすのではなく、一条を旗頭にするほうが、まだ戦えると思いますぞ」

ほう、流石弾正忠だ。

「よくぞ思い切った事を申した弾正忠、皆にもわかるように詳しく説明いたせ」

「は、土佐一条家に四国管領職を任せ、縁戚となる豊後の大友家と連携しつつ、伊予の河野家と和睦し瀬戸内の水軍力を高め、同じく伊予の西園寺家の縁を頼り、同じ北家閑院流藤原氏の公卿衆と誼を通じます」

「なるほど、鷹司義信の祖父は鷹司公頼公で、今でこそ鷹司をの乗っておられるが、元々は三条氏で北家閑院流藤原氏だ。北家閑院流藤原氏には他にも多くの家がある。いや、五摂家も同じ北家の本流だ」

「はい、和戦織り交ぜて、一条摂関家を朝廷内の頭にいただき、土佐一条家を四国の大将に仰ぎ、四国九州の力を併せ、武田に対抗いたします」

「しかしながら若殿、弾正忠どの、あの土佐守殿が我らの策に同意してくれるでしょうか」

「そこは左衛門督殿に働きかけるのよ」

「左衛門督殿は土佐守殿の伯父にあたられるが、それでどれほどの影響が与えられるのか」

「そこはそれ、新たな繋がりを作ればよい」

「しかしながら若殿、あの土佐守殿が宇都宮家の娘を離縁してまで、三好家の娘を正室に迎えるとは思えないのですが」

「我には姉妹がおらぬ故、一族から父上に養女を迎えてもらい、一条家に嫁がせることになる。それ故に正室にはこだわらにず、側室で構わぬ」

「「「「「若殿」」」」」

「今は三好家存亡の時だ、体裁にこだわっている場合ではない。それにだ、何も直接一条家に嫁がせずとも、大友家に嫁がせるという手もある」

「なるほど、それで大友家から我が家に正室を迎えると言う事ですな」

「その手もあるし、我が家から大友家に娘を嫁がせ、大友家から一条家に娘を嫁がせ、我が家に一条家から正妻を迎えるという手もある」

「そう出来れば上々でございましょが、あの土佐守殿が聞き入れましょうか」

「そこは弁舌巧みなそちの腕次第ではないか、新太郎」

「いや、これはまいりましたな」

さて、事が上手く運ぶかどうかは別にして、我が家でこのような策が話し合われたことは、武田家に内通している者から直ぐに伝わるであろう。

伝わった上で武田家がどう出てくるか。

義信が諏訪に入り、晴信が京に入ったと言う事は、公卿の影響を受けずに行動するという、朝廷への無言の圧力であろう。

だがあれほどの活躍をした義信の影響力が、全くなくなったとは思えん。

一条家を頭にした四国と九州の同盟が成功すれば、武田家が四国に攻め込んだ場合に、大友家が長門・周防に攻め込んでくれる。

尼子が大内を攻めたどさくさに、豊前と筑前をかすめ取った大友は、今更戦うことなく豊前と筑前を武田に返すことは出来ぬだろう。

だとすれば、九州に攻め込まれたときに横槍を入れてもらうために、四国が一致団結して武田に対抗して欲しいと願っているはず。

今回の同盟話は、大友にとっても渡りに船であろう。

この同盟がなろうとも、武田に勝てるとは到底思えないが、この策を考えた義興を義信はどう評価してくれるかだ。

三好家を残してでも、味方に取り込みたいと思ってくれるか。

それとも危険視して殺そうとするか。

三好家を残してくれるのなら、喜んでこの首くれてやろう。

危険視して滅ぼすというのなら、武士の意地を見せて呉れよう。

だが義興をむざむざと死なせるわけにはいかん。

名を変えて九州に落ち延びさせるか、それとも恥を忍んでも武田に仕え、再起をかけるのか。

大友だけでなく、義信と晴信にも使者を送って探りを入れねばならぬが、この大役を誰に担ってもらうかだが。

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