転生武田義信
第153話謀略
1561年4月・近江今浜城の本丸義信私室:鷹司義信・武田信玄・2人の側近:義信視点
「御屋形様、無理を申しました」
「嘘を言うでない。全ては儂と甲斐の譜代衆への懐柔策であろうが」
「御見通しでしたか」
「この程度の事、少し物が見えるものなら分かる事じゃ」
「は、申し訳ありません」
「まあ、そうは申しても、分かっておらん譜代衆が多くて困るがな」
「申し上げる必要もない事でございますが、京での乱暴狼藉は厳に慎んで下さい」
「分かっておる、とは申しても、乱暴狼藉を完全になくすことができないのは、義信も理解していよう。と言うか、乱暴狼藉を犯した譜代衆を、厳罰に処すために京を明け渡したのであろう」
「は、それも御見通しでございますな」
「その程度の事、分かっておるわ」
「では、厳罰に処して下さいますな」
「任せておけ。もはや天下に王手をかけておるのだ、愚か者は切り捨てる頃合いであろう」
「ありがとうございます」
「だがな、あまりに信繁を重用し過ぎてはおらんか」
「危険でございますか」
「信繁1代は何の心配もないであろうが、次代の忠誠心と能力が不確かだ」
「その時は養嗣子を送り込みます」
「ふむ、その事を信繁は納得しておるのか」
「はい、その時は安芸武田家の家督を私の実子に継がせ、吉田家の家名を信繁叔父上の実子・義勝に継がせる約束になっております」
「義勝も納得しておるのだな」
「はい」
「それにしても、安芸に大宰を設置し信繁を大宰帥に任ずるとは、思い切った事をしたな」
「御上や朝廷を敬いながら、武田家が天下を太平に導くために必要な事でございます」
「ふむ、征夷大将軍では駄目なのか」
「頼朝公の後ならよかったのですが、後の鎌倉では、征夷大将軍は宮将軍となり、何の実権もない御飾りとなり果てておりました」
「そうだな、それに足利の将軍も、力なく諸侯に翻弄されるだけの存在となり果てていたな」
「はい、そのような征夷大将軍の位についたとしても、何の意味もございません」
「だがそのような空虚な位であったとしても、義信が就けば意味も変わるのではないか」
「はい、確かに実力で変えることも可能ではございますが、それよりは古の位を引っ張り出した方がよいと考えました」
「それが義信の兼務する鎮守府大将軍であり、信繁を与えた太宰帥か」
「はい」
「では儂には何の位を与えてくれるのだ」
「准后を考えております」
「ほう、儂を清盛公や義満公になぞらえてくれるのか。だが、義政公や義視公も准后の位を得ているのではないか」
「確かに最近では、准后の位も安くはなっておりますが、征夷大将軍ほどではございません」
「ふむ」
「それに、准后を得て征夷大将軍と太宰帥を兼務すれば、大きく意味を変えることも可能でございます」
「ふむ、だがな、う~む、そうだな。何も考えず、何も手を打たず、ただ征夷大将軍に就任するよりはいいか。だがそれが本当の望みなのか」
「余人に聞かせる事ではありませんから」
「皆席を外せ」
御屋形様の命を受けて、俺の護衛も御屋形様の護衛も部屋を出て行く。
悩みに悩んだ政の形。
特に武田家をどう位置づけるかの決断だが、ひとたび口に出したら、もう後戻りできなくなる。
「さて、今まで話していた建前ではなく、本音を聞かせよ」
「では、御話させていただきます。ただ、なるかならぬかは御上の決断次第です。無理強いする心算はありません」
「御上が望まなければ、征夷大将軍と准宮に太宰帥の兼務で天下を束ねるのだな。分かったから本当の望みを話せ」
「御上に王位を望みます」
「王位だと、そんな前例があるのか」
「ありません。あるのは白川家が神祇伯の官職にある間だけ当主が王氏の戻り、王号の使用を認められ、白川伯王家を名乗っております」
「ふむ、皇族でない者が王号を許されるのか。何か特別な理由があるのであろうな」
「はい、伊勢神宮の奉幣使は王氏の中から選ばなければならないと言う、朝廷祭祀の決まり事がございます。神祇伯の官職を白川家が世襲するようになり、白川家の当主が神祇伯の官職に就任している間だけ、王号を名乗れるのです」
「儂が白川家を継ぎ、神祇伯になると言う事か。前例主義と世襲を妄執する公家が認めるとは思えんな。それに白川家を継ぐ為には、血統の条件があるのではないか。清和源氏義光流の我が武田家が、その条件に入るのか」
「確かに現在は、花山天皇の皇胤たる花山源氏の当主が神祇伯の官職にある間だけですが、それ以前は中臣氏や蘇我氏、巨勢氏や安倍氏など多くの氏族が、神祇伯を務めております」
「色々と調べたようだが、かなり無理があるな」
「無理でございましょうか」
「無理ではなかろうが、可也の抵抗を受け怨みを買うであろう」
「では准宮の征夷大将軍に致します」
「そうではない。どうせ怨みを買うのであれば、素直に王位を望めと言っておる」
「御屋形様は王位を望んでおられるのですか」
「王位を望んでいるのは義信であろう。天下の政を行うに当たり、王位を望んでおるのであろう」
「はい、日ノ本は御上の下で武家が統治し、蝦夷地以北や琉球以南は、王位を得た武田家で統治したいと思っております」
「ふむ、多くの恨みを買うだろうが、四国九州を平らげ、天下布武を成し遂げた後なら可能であろう」
「やって頂けますか」
「その心算で話したのであろう」
「はい」
「昔約束した役割分担は、今も生きておる。義信が我を京に呼び寄せ、自分は諏訪に戻ると言う文を受けた時から、何かあるとは思っていた」
俺達親子は、この後も色々と話し合った。
土佐一条家を滅ぼすことも、大地震が京や東海を襲い、四国や九州だけでなく陸奥まで津波が襲う事も話した。
それに備えて関東に拠点を築くべく、佐竹義頼に関八州を預け、武蔵に江戸城を築かせている事も話した。
北条信顕を蝦夷国小樽に派遣して国造りを始めせている事も、今川信智を蝦夷国函館に派遣して国造りを始めさせている事も、武田王国建国の下準備だと話した。
本来なら俺と信玄が同じ場所にいるのは、武田政権の無事を図る意味では危険なのだが、諏訪に嫡男の太郎がおり、安芸に信繁叔父上がいるので、万全の守備体制を築いている今浜城なら、天災以外は心配する事ないだろう。
今浜城で7日間親子で話し合い、今後の政の御筋を決めた。
信玄の京での政は、苛烈な物になるかもしれない。
「御屋形様、無理を申しました」
「嘘を言うでない。全ては儂と甲斐の譜代衆への懐柔策であろうが」
「御見通しでしたか」
「この程度の事、少し物が見えるものなら分かる事じゃ」
「は、申し訳ありません」
「まあ、そうは申しても、分かっておらん譜代衆が多くて困るがな」
「申し上げる必要もない事でございますが、京での乱暴狼藉は厳に慎んで下さい」
「分かっておる、とは申しても、乱暴狼藉を完全になくすことができないのは、義信も理解していよう。と言うか、乱暴狼藉を犯した譜代衆を、厳罰に処すために京を明け渡したのであろう」
「は、それも御見通しでございますな」
「その程度の事、分かっておるわ」
「では、厳罰に処して下さいますな」
「任せておけ。もはや天下に王手をかけておるのだ、愚か者は切り捨てる頃合いであろう」
「ありがとうございます」
「だがな、あまりに信繁を重用し過ぎてはおらんか」
「危険でございますか」
「信繁1代は何の心配もないであろうが、次代の忠誠心と能力が不確かだ」
「その時は養嗣子を送り込みます」
「ふむ、その事を信繁は納得しておるのか」
「はい、その時は安芸武田家の家督を私の実子に継がせ、吉田家の家名を信繁叔父上の実子・義勝に継がせる約束になっております」
「義勝も納得しておるのだな」
「はい」
「それにしても、安芸に大宰を設置し信繁を大宰帥に任ずるとは、思い切った事をしたな」
「御上や朝廷を敬いながら、武田家が天下を太平に導くために必要な事でございます」
「ふむ、征夷大将軍では駄目なのか」
「頼朝公の後ならよかったのですが、後の鎌倉では、征夷大将軍は宮将軍となり、何の実権もない御飾りとなり果てておりました」
「そうだな、それに足利の将軍も、力なく諸侯に翻弄されるだけの存在となり果てていたな」
「はい、そのような征夷大将軍の位についたとしても、何の意味もございません」
「だがそのような空虚な位であったとしても、義信が就けば意味も変わるのではないか」
「はい、確かに実力で変えることも可能ではございますが、それよりは古の位を引っ張り出した方がよいと考えました」
「それが義信の兼務する鎮守府大将軍であり、信繁を与えた太宰帥か」
「はい」
「では儂には何の位を与えてくれるのだ」
「准后を考えております」
「ほう、儂を清盛公や義満公になぞらえてくれるのか。だが、義政公や義視公も准后の位を得ているのではないか」
「確かに最近では、准后の位も安くはなっておりますが、征夷大将軍ほどではございません」
「ふむ」
「それに、准后を得て征夷大将軍と太宰帥を兼務すれば、大きく意味を変えることも可能でございます」
「ふむ、だがな、う~む、そうだな。何も考えず、何も手を打たず、ただ征夷大将軍に就任するよりはいいか。だがそれが本当の望みなのか」
「余人に聞かせる事ではありませんから」
「皆席を外せ」
御屋形様の命を受けて、俺の護衛も御屋形様の護衛も部屋を出て行く。
悩みに悩んだ政の形。
特に武田家をどう位置づけるかの決断だが、ひとたび口に出したら、もう後戻りできなくなる。
「さて、今まで話していた建前ではなく、本音を聞かせよ」
「では、御話させていただきます。ただ、なるかならぬかは御上の決断次第です。無理強いする心算はありません」
「御上が望まなければ、征夷大将軍と准宮に太宰帥の兼務で天下を束ねるのだな。分かったから本当の望みを話せ」
「御上に王位を望みます」
「王位だと、そんな前例があるのか」
「ありません。あるのは白川家が神祇伯の官職にある間だけ当主が王氏の戻り、王号の使用を認められ、白川伯王家を名乗っております」
「ふむ、皇族でない者が王号を許されるのか。何か特別な理由があるのであろうな」
「はい、伊勢神宮の奉幣使は王氏の中から選ばなければならないと言う、朝廷祭祀の決まり事がございます。神祇伯の官職を白川家が世襲するようになり、白川家の当主が神祇伯の官職に就任している間だけ、王号を名乗れるのです」
「儂が白川家を継ぎ、神祇伯になると言う事か。前例主義と世襲を妄執する公家が認めるとは思えんな。それに白川家を継ぐ為には、血統の条件があるのではないか。清和源氏義光流の我が武田家が、その条件に入るのか」
「確かに現在は、花山天皇の皇胤たる花山源氏の当主が神祇伯の官職にある間だけですが、それ以前は中臣氏や蘇我氏、巨勢氏や安倍氏など多くの氏族が、神祇伯を務めております」
「色々と調べたようだが、かなり無理があるな」
「無理でございましょうか」
「無理ではなかろうが、可也の抵抗を受け怨みを買うであろう」
「では准宮の征夷大将軍に致します」
「そうではない。どうせ怨みを買うのであれば、素直に王位を望めと言っておる」
「御屋形様は王位を望んでおられるのですか」
「王位を望んでいるのは義信であろう。天下の政を行うに当たり、王位を望んでおるのであろう」
「はい、日ノ本は御上の下で武家が統治し、蝦夷地以北や琉球以南は、王位を得た武田家で統治したいと思っております」
「ふむ、多くの恨みを買うだろうが、四国九州を平らげ、天下布武を成し遂げた後なら可能であろう」
「やって頂けますか」
「その心算で話したのであろう」
「はい」
「昔約束した役割分担は、今も生きておる。義信が我を京に呼び寄せ、自分は諏訪に戻ると言う文を受けた時から、何かあるとは思っていた」
俺達親子は、この後も色々と話し合った。
土佐一条家を滅ぼすことも、大地震が京や東海を襲い、四国や九州だけでなく陸奥まで津波が襲う事も話した。
それに備えて関東に拠点を築くべく、佐竹義頼に関八州を預け、武蔵に江戸城を築かせている事も話した。
北条信顕を蝦夷国小樽に派遣して国造りを始めせている事も、今川信智を蝦夷国函館に派遣して国造りを始めさせている事も、武田王国建国の下準備だと話した。
本来なら俺と信玄が同じ場所にいるのは、武田政権の無事を図る意味では危険なのだが、諏訪に嫡男の太郎がおり、安芸に信繁叔父上がいるので、万全の守備体制を築いている今浜城なら、天災以外は心配する事ないだろう。
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