転生武田義信
第148話弘中隆兼
1559年9月・岩国某所・弘中三河守隆兼と影衆:影衆視点
「どうでしょうか三河守殿」
「勿体無い事でございます」
「では殿下に御味方して頂けるのですな?」
「御屋形様の家臣として、関白殿下に御味方させていただきます」
「それは、殿下の近衛府出仕の誘いを断ると言う事ですか?」
「殿下にお誘い頂けることは、身に余る光栄ではございますが、大恩ある御屋形様を裏切るような真似は出来ません」
「しかしながら三河守殿、大内様に許される領地は限られております。三河守殿が取り戻したいと望んでおられる岩国の本領や、安芸西条や筑前の飛び地は、とてもではありませんが認められませんぞ」
「それらの領地は、弟の民部丞が殿下に御味方する事で、弘中家の所領として御認め頂けないでしょうか?」
「それは三河守殿が動いて、尼子に寝返った弘中一族全てを、殿下に御味方させると言う事ですな」
「はい、私自身は大恩ある御屋形様を裏切る訳にはいきませんが、一族の棟梁として、一族の繁栄には責任がございます」
「仕方ありませんな、ですが嫡男の太郎殿はどうされる?」
「噂話では、殿下は才ある若者を、近習や小姓として側仕えさせていると聞きますが?」
「それは事実ですが、太郎殿を殿下に預けられるのですか?」
「太郎に限らず、全ての息子を御預けしたい」
「それは全ての御子息を、人質に出すと言う事ですか?」
「左様」
「そこまでする必要はありませんよ」
「勘違いされないでください。これは殿下に対する忠誠だけではなく、御屋形様に対する忠誠でもあるのです」
「それはどう言う事ですか?」
「あの時、尼子に奇襲される危険は、重々承知しておりました。尾張守殿には何度も何度も諫言したが、まったく取り合ってもらえなかった」
「それは存じておりますよ。陶尾張守殿が猛り過ぎて、慎重策を進める三河守殿や江良殿を罵ったのでしたな。いや、これは我らが秘かに集めた話ですが、尾張守殿は三河守殿や江良殿が尼子に内通していると断じて、もし裏切っていないならそれを証明するために、江良殿を殺せと言ったとか?」
「残念ながらその通りでございますが、御屋形様が間に入って下さり、私も江良殿も殺し合わずに済みました」
「あの折は、江良殿が大内殿の側仕えに残ると言う事で、殺し合わずに済んだのでしたか?」
「はい、それと私が先陣を務めることが条件でした。私は尼子に備えて、後備えを務めたかったのですが、裏切りを疑われてしまったので、先陣を務める事になりました」
「それも大内殿が仲を取り持たれたのでしたな?」
「はい、奇襲を警戒するように申し上げたのですが、それが逆効果だったようです」
「尾張守殿も、御家来衆も、三河守の諫言を全くとりあわなかった」
「はい、私も疑念を晴らすため、城攻めに精一杯力を注いでいましたので、気付いた時には後備えが壊滅しておりました」
その通りだ、あの時あの場には私もいたが、尼子の攻撃に全くなすすべなく、陶勢の陣立てが崩壊していた。
攻撃を強く勧めて、尾張守を死に追いやった三浦房清は、必死で防戦を指揮していた。
だが崩壊した味方を立て直すことができず、乱戦の中で討ち死にしていた。
尾張守は卑怯にも、味方を見捨てて逃げ出した。
尾張守が1番卑怯だったのは、城からの逆撃を防ぐために、先陣を務めて城攻めしていた三河守殿に、城攻めを続けるように命じたことだ。
三河守殿の慎重論に従っていれば、不覚をとることもなかったのに、自分の愚かな行動の責任を取る事なく、諫言してくれた三河守殿に責任を押し付けた。
はっきり言えば、自分が死んでも果たすべき責任を、三河守殿に押し付けた。
そして三河守殿を犠牲にして、自分だけ助かろうとしたのだ。
だが尼子も歴戦の指揮官で、尾張守を見逃すほど愚かではなかった。
三河守殿には抑えの兵を残し、主力を率いて尾張守を追撃した。
「あの折の三河守殿の指揮は、真に見事でございましたな」
「迷いがなかったとは申しませんが、尾張守殿を逃がす努力をするよりは、御屋形様を護る事を優先させました」
「山に籠られた三河守殿は、神出鬼没の攻撃をされ、尼子が大内殿にかかりきりにならないように、絶妙な戦いをされましたな」
「将兵が逃げる事なく、最後まで付き従ってくれたので、戦い続ける事ができました」
「尾張守殿の将兵が逃げ散ったのに比べて、三河守殿の将兵は苦しい遊撃戦の間も逃げ散る事なく、大内殿が京に逃げ切るまで戦い続けられた」
「影殿のお仲間が、兵糧や矢玉を支援してくれた御陰ですよ」
「気付いておられたのか?」
「あの折は必死て、乱暴狼藉を恐れた山の民が、仕方なく支援してくれたのかと思ったいました。しかしながら、あれほど大量に兵糧や矢玉を集められるなど、山の民だけでは不可能だと思い至りました」
「確かに殿下の指示で、色々と支援させていただいていました。しかし壊滅的な敗戦の中で、500の将兵を纏め揚げ、1兵も欠かす事なく遊撃戦に転換するなど、並みの武将では無理でございますよ」
「影殿が支援してくれた兵糧がなかったら、多くの将兵が山野に屍を晒すか、生き残るために武士の矜持をすてていましたよ。全ては殿下の御支援の賜物でございます」
「それでも、殿下の家臣には成れないと申されるのか?」
「殿下の御恩は重々承知しておりますが、それも御屋形様が助けて下さったからでございます。そもそも御屋形様の助けがなければ、あの戦場にたどり着くこともできず、江良殿と刺し違えていたかもしれません」
「仕方ありませんな、それでは引き続き大内勢として支援させていただきましょう」
「お願いいたします」
やれやれ、説得出来なかったことは悔しいが、予め殿下からこうなる可能性も聞かされていた。
三河守殿が不愉快に思うほど、強引に調略する訳にもいかないし、ここは子息達を人質に差し出してくれた事と、一門衆を寝返らせてくれる事で満足しよう。
それに殿下の御性格ならば、むしろこのように大内殿の忠誠を尽す三河守殿を、頼もしく思われるだろう。
「ですが血気にはやって、我が軍勢がたどり着くまでに、事が露見するような事がないようにして下さい」
「それはお任せください。今尼子に味方しておる一門とのつなぎは、心効いた者だけにやらせております」
「そうですか、ならば後日また此方からつなぎをつけますので、それまで御達者で」
「ありがとうございます、影殿の御蔭で、山中でも何一つ不自由する事無く過ごさせていただいています」
ふむ、いっそ甲賀や伊賀の手練れを使って、放火や盗みをやらせるか?
「どうでしょうか三河守殿」
「勿体無い事でございます」
「では殿下に御味方して頂けるのですな?」
「御屋形様の家臣として、関白殿下に御味方させていただきます」
「それは、殿下の近衛府出仕の誘いを断ると言う事ですか?」
「殿下にお誘い頂けることは、身に余る光栄ではございますが、大恩ある御屋形様を裏切るような真似は出来ません」
「しかしながら三河守殿、大内様に許される領地は限られております。三河守殿が取り戻したいと望んでおられる岩国の本領や、安芸西条や筑前の飛び地は、とてもではありませんが認められませんぞ」
「それらの領地は、弟の民部丞が殿下に御味方する事で、弘中家の所領として御認め頂けないでしょうか?」
「それは三河守殿が動いて、尼子に寝返った弘中一族全てを、殿下に御味方させると言う事ですな」
「はい、私自身は大恩ある御屋形様を裏切る訳にはいきませんが、一族の棟梁として、一族の繁栄には責任がございます」
「仕方ありませんな、ですが嫡男の太郎殿はどうされる?」
「噂話では、殿下は才ある若者を、近習や小姓として側仕えさせていると聞きますが?」
「それは事実ですが、太郎殿を殿下に預けられるのですか?」
「太郎に限らず、全ての息子を御預けしたい」
「それは全ての御子息を、人質に出すと言う事ですか?」
「左様」
「そこまでする必要はありませんよ」
「勘違いされないでください。これは殿下に対する忠誠だけではなく、御屋形様に対する忠誠でもあるのです」
「それはどう言う事ですか?」
「あの時、尼子に奇襲される危険は、重々承知しておりました。尾張守殿には何度も何度も諫言したが、まったく取り合ってもらえなかった」
「それは存じておりますよ。陶尾張守殿が猛り過ぎて、慎重策を進める三河守殿や江良殿を罵ったのでしたな。いや、これは我らが秘かに集めた話ですが、尾張守殿は三河守殿や江良殿が尼子に内通していると断じて、もし裏切っていないならそれを証明するために、江良殿を殺せと言ったとか?」
「残念ながらその通りでございますが、御屋形様が間に入って下さり、私も江良殿も殺し合わずに済みました」
「あの折は、江良殿が大内殿の側仕えに残ると言う事で、殺し合わずに済んだのでしたか?」
「はい、それと私が先陣を務めることが条件でした。私は尼子に備えて、後備えを務めたかったのですが、裏切りを疑われてしまったので、先陣を務める事になりました」
「それも大内殿が仲を取り持たれたのでしたな?」
「はい、奇襲を警戒するように申し上げたのですが、それが逆効果だったようです」
「尾張守殿も、御家来衆も、三河守の諫言を全くとりあわなかった」
「はい、私も疑念を晴らすため、城攻めに精一杯力を注いでいましたので、気付いた時には後備えが壊滅しておりました」
その通りだ、あの時あの場には私もいたが、尼子の攻撃に全くなすすべなく、陶勢の陣立てが崩壊していた。
攻撃を強く勧めて、尾張守を死に追いやった三浦房清は、必死で防戦を指揮していた。
だが崩壊した味方を立て直すことができず、乱戦の中で討ち死にしていた。
尾張守は卑怯にも、味方を見捨てて逃げ出した。
尾張守が1番卑怯だったのは、城からの逆撃を防ぐために、先陣を務めて城攻めしていた三河守殿に、城攻めを続けるように命じたことだ。
三河守殿の慎重論に従っていれば、不覚をとることもなかったのに、自分の愚かな行動の責任を取る事なく、諫言してくれた三河守殿に責任を押し付けた。
はっきり言えば、自分が死んでも果たすべき責任を、三河守殿に押し付けた。
そして三河守殿を犠牲にして、自分だけ助かろうとしたのだ。
だが尼子も歴戦の指揮官で、尾張守を見逃すほど愚かではなかった。
三河守殿には抑えの兵を残し、主力を率いて尾張守を追撃した。
「あの折の三河守殿の指揮は、真に見事でございましたな」
「迷いがなかったとは申しませんが、尾張守殿を逃がす努力をするよりは、御屋形様を護る事を優先させました」
「山に籠られた三河守殿は、神出鬼没の攻撃をされ、尼子が大内殿にかかりきりにならないように、絶妙な戦いをされましたな」
「将兵が逃げる事なく、最後まで付き従ってくれたので、戦い続ける事ができました」
「尾張守殿の将兵が逃げ散ったのに比べて、三河守殿の将兵は苦しい遊撃戦の間も逃げ散る事なく、大内殿が京に逃げ切るまで戦い続けられた」
「影殿のお仲間が、兵糧や矢玉を支援してくれた御陰ですよ」
「気付いておられたのか?」
「あの折は必死て、乱暴狼藉を恐れた山の民が、仕方なく支援してくれたのかと思ったいました。しかしながら、あれほど大量に兵糧や矢玉を集められるなど、山の民だけでは不可能だと思い至りました」
「確かに殿下の指示で、色々と支援させていただいていました。しかし壊滅的な敗戦の中で、500の将兵を纏め揚げ、1兵も欠かす事なく遊撃戦に転換するなど、並みの武将では無理でございますよ」
「影殿が支援してくれた兵糧がなかったら、多くの将兵が山野に屍を晒すか、生き残るために武士の矜持をすてていましたよ。全ては殿下の御支援の賜物でございます」
「それでも、殿下の家臣には成れないと申されるのか?」
「殿下の御恩は重々承知しておりますが、それも御屋形様が助けて下さったからでございます。そもそも御屋形様の助けがなければ、あの戦場にたどり着くこともできず、江良殿と刺し違えていたかもしれません」
「仕方ありませんな、それでは引き続き大内勢として支援させていただきましょう」
「お願いいたします」
やれやれ、説得出来なかったことは悔しいが、予め殿下からこうなる可能性も聞かされていた。
三河守殿が不愉快に思うほど、強引に調略する訳にもいかないし、ここは子息達を人質に差し出してくれた事と、一門衆を寝返らせてくれる事で満足しよう。
それに殿下の御性格ならば、むしろこのように大内殿の忠誠を尽す三河守殿を、頼もしく思われるだろう。
「ですが血気にはやって、我が軍勢がたどり着くまでに、事が露見するような事がないようにして下さい」
「それはお任せください。今尼子に味方しておる一門とのつなぎは、心効いた者だけにやらせております」
「そうですか、ならば後日また此方からつなぎをつけますので、それまで御達者で」
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