閉じる

転生武田義信

克全

第146話心配

1559年9月・京二条城・本丸義信私室・鷹司義信・黒影・闇影:鷹司義信視点

「どうなっている?」

俺は黒影と闇影を筆頭に、影衆しかいない私室で、常に心の底にある不安を闇影に確認する。

「表立って、若様に逆らう動きをしている方はおられません」

「だが万が一今ここで、俺が卒中を起こして死んだらどうだ?」

「全ての一族一門衆が、太郎様を奉じて鷹司と武田を盛り立てるか、と言う事でございますか?」

「そうだ、異心無く太郎を盛り立ててくれるか?」

「鷹司実信様、三条公之様、佐竹義頼の弟君達は、些かの心配もございません。特に公家と言う立場上、鷹司実信様と三条公之様が、常に太郎様の側に控えて下さいますでしょう。若様もその御心算で、御2人に鷹司の家督と三条の家督を御継がせになられたのでございましょう?」

「ああそうだ、若狭武田を継いだ信基はどうだ? 父母を同じくしてはいるが、実信や公之ほどは一緒にいれなかった、信基を担いで天下を望む者はおらんか?」

「ご心配には及びません。信基様も心から若様を尊敬されておられますし、御側に仕える者も、身の程をわきまえております」

「上4人の弟達に異心が無ければ、その下の弟達や外戚では何もできないだろう。不安あるとすれば、叔父上達か?」

「それもまず大丈夫だと思われます。1番上の信繁様が、若様に心から忠誠を誓っておられます」

「それは信繁叔父上に何かあれば、信廉叔父上や信綱叔父上が謀反を起こす可能性があると言う事か?」

「表立っては無理だと思われますが、陰から色々と手を打つ可能性はあります」

「どう言う手を打つと考えている?」

「若様も分かっておられる事でしょうが、次郎様や三郎様に対して、太郎様への反感を育てようとなさるでしょう。その上で次郎様や三郎様を傀儡にして、自分達が実権を握ろうとなさるでしょう」

「太郎に俺と同じように、次郎以下の弟達に愛情を注げと言う事だな」

「不遜を承知で申し上げさせて頂きますが、若様と太郎様は同じではございません、全く同じ事をなさせようと思われないでください」

「それは分かっているが、出来る限り兄弟の絆は強く厚くして置く方がいい」

「はい」

「信繁叔父上も含めて、叔父上達の監視を引き続きおこなってくれ、叔父上達に近づく者達もだ。それに分かっているだろうが、弟達と弟達に近づく者達も、引き続き監視してくれ」

「承りました。しかし若様、1番心配な御方の事を聞かれないのですか? それとも聞くのが怖いのですか?」

「ああその通りだ、1番心配な御方がいるが、聞くのが怖いのだ」

「ならば報告はやめましょうか」

「そうはいかないのは分かっている、御屋形様について報告してくれ」

「御屋形様は、現在上野国、下野国、武蔵国の内政の力を注いでおられます」

「国衆と地侍、何より民に無茶な年貢や賦役を課されていないか?」

「若様が決められて御条法を守っておられます」

「そうか、それは安心したが、御屋形様に従う一族一門譜代衆と、俺の派遣している家臣団は揉めていないか?」

「多少の揉め事はございます。しかしながら御屋形様が間に立っておられますし、若様の元で寄騎働きした事のある者や、子弟が召し抱えられている者が間に入っております」

「俺と御屋形様の間に、亀裂を入れようとする者はいるか?」

「今は大丈夫でございますが、御屋形様が更に年を重ねられ、耄碌なされた時は有り得る事だと思います」

「やはり1番の問題は、俺が急死した場合だな」

「はい、そのような場合は、やはり太郎様の後見は御屋形様が成されますでしょう。一族一門譜代衆から必ず、実信様や公之様では心許ないと言う意見が出て参ります」

「そして今まで冷や飯を喰わされていた自分達が、政の表舞台に出ようとするか」

「はい、そうなれば信廉様や信綱様が、血縁の濃さと合戦の実績で主導権を握ろうとなされるでしょう。それを裏で操ろうとする、外戚や一族一門譜代衆が徒党を組むと思われます」

「ここでも信繁叔父上の存在が、とても大きくなると言う事だな」

「はい、御屋形様や他の叔父上様方を抑え、一族一門譜代衆に睨みを利かせて下さるのは、信繁様以外にはおられません」

「俺が長生きすれば何の問題もない事だが、万が一の事は考えておかねばならないからな」

「どうなされますか?」

「信繁叔父上は、武田家の為に独断専行して処罰されたと言う建前があるから、ここはそれを払拭する御手柄を立てて頂かなかればならない」

「関東東国は既に合戦が終わっておりますから、対尼子の総大将に信繁様をお付けになられるのですか?」

「いや、その程度では信繁叔父上の箔付けには小さすぎる、ここは阿波公方を攻め滅ぼしてもらおう」

「阿波に攻め込まれるのですか? しかし三好や阿波公方には、土佐一条家を攻め滅ぼさせる御心算だったのではありませんか?」

「その気持ちは変わっておらん、表向き信繁叔父上には、尼子晴久と尼子国久への2個軍総大将就任を命じる」

「なるほど、確かに因幡国を攻め取った後で、美作国に攻め込むとなれば2個軍の調整は不可欠でございます」

「一気に尼子を攻め滅ぼすには、更なる援軍を集めるのに不思議はない。何より関東東国には、出稼ぎに合戦に加わりたい国衆や地侍が多いだろう?」

俺は黒影に話を振ってみた。

「はい、街道や堤防の普請で関東東国も潤ってはおりますが、国衆の中には賦役に民を使っている場合もございます」

「生活が苦しいままの民もいるのか?」

「はい、冬の間は足軽働きの出稼ぎをしたい、そう思っている民も多くおります」

「そうか、雪で閉ざされる前に急ぎ兵を集めてくれ、それに四国はそろそろ頃合いなのだろう」

俺の言葉に黒影はニヤリと笑った。

「転生武田義信」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「歴史」の人気作品

コメント

コメントを書く