転生武田義信

克全

第137話堺攻防

1559年2月・和泉国・堺南荘の会所・津田監物算長・楠正忠・正具親子:津田監物算長視点

「さて、今後の堺の事に付いて話をする」

さて、今回鷹司義信殿下から直々に命じられたのは、堺を鷹司家の直轄領とする事である。

そして堺代官として、楠正忠殿と楠正具殿の親子と共に、私、津田算長がその仕事を受け賜わったからだ。

「我ら3人の代官と後ろに控える5人の副代官が、今後堺の全てを取り仕切る」

まあ実務に関しては、殿下が付けて下さった、練達の奉行衆5人と下役がやってくれる。

俺達は楠木正成の血統と実武力で、有形無形の圧力をかければいい。

実際今この時も、15万の将兵が堺を十重二十重と囲んで、何時でも焼き討ちできるようにしている。

殿下からも、堺を根切りにしても構わないと受け賜わっているが・・・・・

「御待ち下さい! この堺は長年我ら会合衆に自治が任されております」

俺たちの前には、10人の納屋衆を先頭に、36人の会合衆が集まり、俺たちの要求に対抗しようとしている。

三好長慶の妹を妻に迎えている田中与四郎(千利休)、石山本願寺と通じている津田宗達、南蛮人と通じて日本人を奴隷として南蛮に売り払っている日比屋了珪!

「元々堺庄は、西園寺家の荘園であった。長年の戦乱と相続で、春日社祈祷料所として興福寺東北院覚円の所領となり、摂津国住吉郡守護の楠木正儀殿の守護代、渡辺薩摩入道宗徹に任されたのだ。摂津国堺荘も和泉国堺荘も、今後は鷹司殿下が直轄領とする!」

「「「「そんな」」」」

「無理無体でございます!」

「これが最初で最後の殿下からの御言葉だ! 年貢として毎年20万貫文を支払い、全ての傭兵を堺から追い出せ。それを実行しなければ、堺にいる生きとし行ける者を全て根切りにする! その上で鷹司家縁の商人に、新たに街を築かせる!」

殿下の御命令とは言え、20万貫文もの矢銭の要求は法外だと思う。

その事を謁見の後に真田幸隆殿に御聞きしたら、殿下が京で今上帝と朝廷のために使われた銭の大半が、回り回って沢山堺商人の手に渡っており、20万貫文でも50万貫文でも支払えるとのことだった。

信じ難い話ではあるが、殿下も真田殿もそう申されるのなら、確かなことなのだろう。

大切な事は銭の多寡ではなく、堺商人を屈服させる事であり、心底屈服させれないなら滅ぼすと言う事だ!

「史実で織田信長が要求した銭」
石山本願寺が礼銭五千貫
法隆寺が防築銭千貫余
堺は二万貫

堺の町割は南北に細長い短冊型で、南北幅は基本的に60間だが、南北両端は半端になっており、南半町が38・5間、北半町が18・5間となっている。

南北方向の道路は、4・5間幅の大道筋を基幹に、東西ともに2間幅の裏筋と3間幅の表筋が交互に配され、表筋は大浜筋・中浜筋・山口筋・大工町筋など、裏筋は五貫屋筋・浜六間筋・西六間筋・東六間筋・十間筋などにあたる。

東西幅は16~23間とばらつきがある。

東西方向の道路は、5間幅の大小路通を基幹に、3間幅の通が配されている。

町組については、大小路通を境に北組と南組に分かれ、それぞれ浜筋・中浜筋・大道筋・山口筋・東筋・農人町筋の計12の組合が形成されている。

以上の堺を完全に滅ぼすのは簡単だ!

殿下から付帯された大弩砲で、肥松に火をつけて矢継ぎ早に大矢を射込むだけでよい。

そして火災に追われて逃げ出してくる住民を、皆殺しにするだけだ。

今も殿下の命を軽んじている住民が堺の城門から出て来たが、我が軍の者に膾に切り刻まれて殺された。

今回に関してだけは、日頃温厚な殿下も冷酷非情になられておられる。

いやそうではないな、殿下は一旦敵と断じた相手には、一切の情け容赦をなされない。

比叡山延暦寺の僧兵共に対する処罰を見れば明らかだ。

だが素直に降伏臣従し命に従う者には、手厚く報いて下さる。

比叡山延暦寺と同じ天台宗の多武峰妙楽寺に対しては、随分優しい処遇だった。

今回の堺への厳しい対応は、会合衆が驕り高ぶっている事と、足利連合に加担している者が多いからだろう。

特に真田殿の話から推察するに、日本人を南蛮に売り払うような事を、殿下は絶対許されないと言う事だ!

これは殿下御1人の御考えではなく、御上と後奈良院も御賛同されてのことだろう。

つまり限りなく勅命に近いと言う事だろう。

今はまだ御上と院の安全を考慮して勅命になされないが、和泉・河内・摂津を確保し、足利連合を畿内から追放したら、朝廷から奴隷売買を禁止する勅命が下されるだろう。

真田殿の話振りから間違いはないだろう。

堺には傭兵だけで2万強の兵力が籠城しているものの、むしろ彼らは歴戦の兵士であるだけに、我らが準備している大弩と肥松の意味を理解している。

しかも近江と摂津大山崎では、大砲で三好軍が完膚なきまでに粉砕され、何時鷹司軍が摂津に侵攻して来るかと、三好勢が戦々恐々としている事を知っている。

殿下の要求に対して、最初に今井宗久が屈服し、次に三好長慶の妹と夫婦仲が悪かった田中与四郎(千利休)も同調し、鉄砲の大量購入を約束された橘屋又三郎も同調した。

しかし南蛮人との貿易が頼みの津田宗達と、吉松博多の島井宗室からの荷を独占的に得る事で財を成している茜屋太郎右衛門宗佐は、徹頭徹尾要求を拒絶するように抵抗した。

「監物様、どうか御情けを持ちまして、会合衆の一部が堺から逃げ出すことをお許しいただけますでしょうか?」

「構わぬが、商品や銭の持ち出しは一切許さん」

「そんな! そこは御情けを持ちまして御許しいただけませんでしょうか、堺を落ちる商人もこれから生きてゆかねばなりません」

「今井宗久! 堺を落ちる商人に商品や銭を預けて、足利相手に商売をする恐れがある、そのような事は断じて許さん!」

「滅相もございません! そのようなことは断じて行ったりいたしません!」

顔色が悪いな、後ろに控える田中与四郎や橘屋又三郎も同じだ。

真田殿の申される通り、堺の商人どもは油断も隙も無い!

ここは殿下の御命令通り、焼き滅ぼしてしまうか?

「殿下からは、『髪一筋ほどの不正があっても堺を焼き滅ぼせ、根切りにせよ』と命を受けておる、一切の交渉はないと思え!」

「しかしこのままでは、堺商人同士が街中で同士討ちとなります!」

「ならば最後まで従わない商人が雇っている傭兵に、鷹司殿下が雇って下さるから安心せよ、と申し聞かすがよかろう」

「真でございますか!」

「今後は、堺の商人が多くの兵を雇うことは許さん! 堺の護りは殿下が責任を持って行われる、分かったか!」

「「「「はっは~」」」」

最後まで抵抗していた商人も、傭兵に離反されたことで、我らに抵抗する術を失った。

手回り品と落ちた先で再起できる程度の銭を温情で渡し、残るすべての財産を鷹司家で接収した。

しかし殿下は強かでおられた!

ただ私財を全て接収なされただけではなかった、銭1文の価値の品物であろうと、接収目録を作らせるように私に命じられておられたのだ!

堺から追放される商人に対して、悔い改めて朝廷に味方し、御上に忠誠を誓うのなら、接収した財産を返還すると、当主だけに伝えるように私に命じられておられた。

今は足利連合に忠誠を誓い堺から落ちる商人たちだが、足利連合の彼らに対する恩賞が低ければ、内部に恨みを持つ者を抱えることになる!

コメント

コメントを書く

「歴史」の人気作品

書籍化作品