転生武田義信

克全

第132話鷹司太平洋艦隊

京二条城の本丸政務室・鷹司義信・真田幸隆他:鷹司義信視点

「閣下、新しい航路の開拓に成功いたしました」

「沿海航路が確保出来たか!」

「はい、これで関船や安宅船でも沿海、朝鮮、明国沿岸を使って安全に交易が可能でございます」

「丹後を最南部として、日本海沿岸を往復する艦船と、樺太まで行ってから大陸沿岸を南方まで行く艦船に分けれるな」

「はい、現地の海賊や国衆が襲撃する恐れがありますので、艦隊を組んでの交易となりますが、これで今まで通り南蛮や明国との交易が可能となりました」

「まあ明国は国禁を犯しての密貿易だが、何とかして米や麦と言った穀類は確保したい」

「はい、しかしながら閣下が南蛮より取り入れて下さいました、薩摩芋、来麦(らいむぎ)、ジャワから取り入れてくださいましたジャワ芋によって、蝦夷地や樺太、千島でも穀物の耕作が始まっております。領内で十分、食料を確保出来るのではありませんか?」

「冷害や旱魃に襲われる事もある、甲斐で生まれ育ったのでな、飢饉で民が苦しむのは幼い頃に何度も見て来ておる。3年連続天災に襲われても、民が喰いつなげる量の備蓄を蓄えたい」

「左様でございますか、そう言う御気持なら、全力で御支えさせて頂きます。アイヌ奴隷達を、後々は蝦夷、樺太、千島、カムチャッカで耕作させると仰っておられましたが?」

「2万を超えるアイヌ戦士達全員が、武士に成れるだけの功名を上げれるとは限らない。だが最低でも、平民に成れるだけの功名を上げさせてから蝦夷や樺太に戻して、屯田兵や地侍として活用したい」

「後々はそのようになさる心算でございますな、ではその心算で今後の方策を考えます」

「軍師達で話し合ってくれ」

「承りました、それと南蛮船を使って、天測沖合航行で丹後から直接朝鮮や明国に向かう、新しい航路はどういたしましょう?」

「乗り組みの海賊衆や艦長の話を聞いた上で決めよう。彼らに自信があるようなら、丹後と明国を往復して兵糧を確保してもらう」

「はい、それが出来れば輸送が随分楽になります」

「瀬戸内と四国が足利連合に押さえられている以上、太平洋艦隊に明国や南蛮との交易はさせられない。防衛に必要な艦隊は残して、交易に使う艦船は沿海交易路に投入したい」

「承りました、太平洋方面の海賊衆と艦船移動について話し合うため、海賊衆を京に呼びだします」

「うむ、それと新造船の建造はどうなっている?」

「閣下の御指示通り、南蛮船を中心に、南蛮や明国との交易に使えるような、大型船の建造を行っております。以前の御指示で有効を確認いたしました、鉄張り銅張りも極力施すようにしております」

「乾留液(タール)のほうはどうだ?」

「閣下の仰られておられたように、艦船の隙間を埋めるのにも帆の防水にも有効と、報告を受けております」

「蝦夷地や樺太からの材木輸送はどうだ?」

「アイヌが米と引き換えに、積極的に材木を切り出し売りに来ると、報告を受けております」

「そうかそれはよかった、ならば直接船大工を蝦夷地や樺太に送り込んで、現地で建造させる方法はどうだ?」

「なかなか応じる者は少なかったのですが、閣下の御指示で行った、海賊衆に蝦夷や樺太の所領を与え、湊を整備させる方策が効果を出しております。海賊衆が一族一門の船大工を伴って移住し、そこで艦船を建造しております」

「戦闘用の艦船も交易用の艦船も、予定通り増えているのだな?」

「はい、予定以上でございます」

俺は今後の侵攻作戦を実行する前に、交易路が妨害された南蛮と明国の交易を、再開させる努力をした。

長年に渡って養殖備蓄した真珠や、アイヌに狩猟採集させている俵物を輸出して、ジャンク船と穀物を輸入することは、小氷河期で飢饉が頻発する現状では必要不可欠だ。

もう少しすれば、蝦夷や樺太の開墾と寒冷作物の導入で、冷害でも飢饉を防げるようになるだろう。

だが後5年は輸入に頼らなければ、毎年領内の何所かで起こる不作や凶作で、民が餓死することもありえる。

それに今、安心して子供を生み育てられる体制を築く事が出来れば、16年後には人口増加によって、圧倒的な戦力と生産力を手にする事ができる。

伊那を中心に甲斐信濃で生産衆を育んだように、全支配領域で農業革命による食料生産力の向上と、余剰人口を創り出し戦力に取り入れる。

交易が途切れ凶作が広範囲に及ぶような最悪の場合は、海賊衆や専業兵を漁業と屯田に回し、食料確保を最優先にする。

今も戦闘や交易に使わない艦船を投入し、火を使った漁り火漁・火振り漁で魚を集め、文字通り一網打尽にしている。

火に集まる習性のあるニシン・イワシ・アジ・サバ・サンマ・サヨリ・トビウオ・イカナゴ・スルメイカ・カニ・クルマエビなどを漁獲しているが、干物にしているスルメ・身欠き鰊などで日持ちさせ、栄養を補う。

その為に必要不可欠な漁網は、麻糸・木綿(綿糸)・絹糸・苧糸(おいと)・藁・葛糸・蚕糸などを、軍用に必要な分を除いて大量に投入して作らせた。

釣り糸に関しては、ヤママユガ科に属する蛾の幼虫の絹糸腺から作った、テグスを作らせた。

軍用が優先され十分な材料が集まらない場合は、馬の尻尾の毛や人毛をより合わせて、釣り糸や漁網を作らせる場合もあった。

そして漁網や釣り糸の強度増化と防腐は、漁獲高と耐用年数に直結する重大事項だから、今までは柿渋を使っていたが、タールと比較して何方が優秀か試させている。

屯田に関しては、最前線の城砦周辺で改良穀草式農法を導入して、軍馬の餌の確保を優先している。

人間用の兵糧輸送も大変だが、軍馬用の飼料輸送は更に問題だ。

新たに領地となった村々で農業指導しつつ、効率的に兵糧や飼料の確保を図った。

もちろん農業だけでなく、衛生・学問・武芸も指導している。





京二条城の鷹司屋敷私室・鷹司義信・緑影と紅影:鷹司義信視点

「若様、諏訪には帰れないのですか?」

「急にどうしたんだ?」

「だって、私達だけ若様の寵愛を受けるのは茜ちゃん達に悪くって」

緑ちゃんに続いて、紅ちゃんまで急に真剣になる、さっきまでは欲望のままに振る舞っていたのに、欲望が満たされたら他人の事も気に掛けられるのか?

「だがな、いま京を離れる訳にはいかんし、九条達を此方に呼ぶのも危険だ」

「危険と申されますが、茜ちゃん達なら十分戦えるのではありませんか?」

「太郎や次郎の護りを託せるのは、御前達奥女中衆しかいないのだ。奥女中衆には、万一俺に何かあった時の為に、諏訪で太郎達を護ってもらわなければならない」

「交代で数人づつ諏訪と京を移動する訳にはいきませんか?」

「一向衆を攻め滅ぼし、摂津石山を確保したら、そこに大艦隊を駐留させられる海軍城を築く。そうなれば、諏訪からそこに拠点を移せるだろう、それまで待ってもらうしかないな」

「京のことを、昔のように秋山様に御任せする事は出来ないのですか?」

「関白に就任してしまったからな、基本参内はしない心算だが、諏訪にまで引き籠る訳にはいかん」

「近江の何所かを拠点とするわけにはいかないのですか? そこに万全の城を築かれて、茜ちゃん達を呼び寄せる訳にはいきませんか?」

確かに近江なら、琵琶湖を活用して真珠の養殖を続けることが出来る。

近江に攻め込むとき、黒鍬衆を使って伊那・木曽・美濃・近江を繋ぐ軍用道を整備した。

今も補給用輸送路として、幌馬車が通れるように整備し続けている。

「近江のどの城が相応しいと思う?」

「そうですね、安全を第一に考えるのでしたら、いざという時に山道を使って逃げることもでき、若狭や越前に逃げる事もできる、小谷城ではどうでしょうか?」

「紅ちゃんはどう思う?」

「若様は近淡海の水運を利用する御心算ですよね? だったら今浜城はどうでしょうか?」

「確かに水運を考えればそちらの方が便利だが、本拠とするには規模が小さすぎるな。あの辺りに築城するなら、山本山城を本丸に尾上城や阿閉城まで縄張りに含み、野田沼を浚渫して船溜まりとして、近淡海水軍を全艦収容できるようにしたいな」

「そんなに大掛かりにしては、茜ちゃん達を呼び寄せるのに時間が掛かってしまいます!」

紅ちゃんは茜ちゃん達に気を使っている、いやそれは緑ちゃんもそうだろう。

奥の平安は世継ぎ争いも絡む需要案件だ、序列を巡って暗殺とまでは行かなくても、いがみ合いなど起こっては、俺の安息の場がなくなってしまう。

ここは提案通り、交代で諏訪と近淡海を行き来してもらおう。

「今後の近江本拠地を何所にするかは後に考えるとして、国衆の居城を接収するのは問題が多いから、今直轄城になっているところを臨時の本拠地にしよう」

最終的には、近江で延暦寺と一向衆を力を制した事を見せつける為にも、坂本と堅田に拠点となる城を築城することにした。

今までも城はあったが、俺の居城に相応しい城を築く事になった。

だがやはり京を占拠された時の事を考慮し、茜ちゃん達を迎えるのは今浜城とした。





京二条城の本丸政務室・鷹司義信・真田幸隆・佐治為景などの海軍衆:鷹司義信視点

「殿下、恐れ多い事ながら、出来ますれば合戦に参加させていただきたいのです」

「どういうことだ?」

「殿下が交易と輸送を重視されておられる事は、重々承知いたしておりますが、摂津や和泉の三好勢を追い込むには、阿波に逃げることが出来ないように、安宅水軍などの海賊衆を抑える必要があるのではないでしょうか?」

「確かにそうだが、万が一にも大砲を搭載したガレオン船を、奪われる訳にはいかん」

「ガレオン船を使わず、関船とジャンク船だけで十分でございます」

「だが足利連合の海賊衆は、総計1000隻近いのではないか? 此方は整備や守備を考えれば、300隻も出せないのではないか?」

「我々が水軍衆の情報を集めた所、能島村上、因島村上、来島村上は、意思が統一できていないようです」

「我らに味方する者がいると言う事か?」

「はい、鷹司関白殿下、公方、大内、一条、尼子の誰に馳走するかで争いがございます」

「黒影?」

「我々もその噂は聞き及んでおります、ただ何分瀬戸内の島々内でのことで、手の者を送り込んで確認をとることは出来ておりません」

「為景、村上三家の内一家でも味方につけれるなら、海軍衆の参戦を認める。ただしその場合は、絶対勝たねばならん。日本海側のガレオン船10船も投入するから、調練は完璧にしておれ」

「は! 御任せ下さい!」

さてどうなる?

出来れば安全策がいいのだが、海軍衆のやる気を削ぐのも不味い。

ここは勝負をかけるしかないのかもしれない、だが出来る限り足利に味方する海賊衆を切り崩す。

「味方に取り込めない場合は中立を約束させよ、中立を保つなら海賊衆に限り本領安堵を認める!」

「鷹司太平洋艦隊」
第1艦隊
佐治為景 :ガレオン船10艦・ジャンク船10船・関船10船・小早船30船
:鳥羽主水(橘宗忠)・青山(和具)豊前守・越賀隆俊(佐治隆俊)
第2艦隊
間宮武兵衛:ガレオン船 2艦・ジャンク船 5船・関船10船・小早船30船
間宮造酒丞:ガレオン船 2艦・ジャンク船 5船・関船10船・小早船30船
:的矢次郎左衛門・国府内膳正
第3艦隊
伊丹大隈守:ガレオン船 2艦・ジャンク船 5船・関船10船・小早船30船
向井正重 :ガレオン船 2艦・ジャンク船 5船・関船10船・小早船30船
:向井政勝・向井正綱
第4艦隊
小浜真宗:ガレオン船 2艦・ジャンク船10船・関船20船・小早船30船
:小浜景隆・安楽島越中守・浦豊後守・甲賀雅乗楽介
第5艦隊
土屋豊前守:ガレオン船 2艦・ジャンク船 5船・関船15船・小早船50船
:三浦新助・千賀志摩守・九鬼浄隆・田城左馬(九鬼澄隆)

コメント

コメントを書く

「歴史」の人気作品

書籍化作品