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転生武田義信

克全

第131話意表

京二条城の鷹司屋敷義信私室・鷹司義信・九条稙通:鷹司義信視点

「関白殿下、この度の謀は真に見事でございましたな」

「御止め下さい御義父上、御義父上に関白殿下と呼ばれますと、背中がムズムズいたします」

「何を申されます、殿下は立派に関白としての務めを果たされておられます。皇室御領も取り返して下さったし、皇室の仕来りも色々復古して下さった、御上も院も心から頼りになされておられます」

「有り難き御言葉でございますが、御所への参内だけは何卒御容赦頂けますように、御上にはよしなに御伝えくださりませ」

「全て心得ておりますとも。殿下には武家の統率に専念していただき、少しでも早く天下の静謐を成し遂げて頂くようにと、御上からも院からも御言葉を賜っております」

「それは恐れ多くも有り難き事でございます」

「しかし話は戻りますが、殿下の播磨を攻め込むと見せかけて、大和と摂津に攻め込まれたのは、真に見事でございましたな」

「播磨に攻め込んでしまうと、戦線が伸びきってしまいます。そうなると、敵に弱い所を突かれる恐れがございます。敵に接する面は出来るだけ狭くしたいのです。特に京は、味方の壁で厚く厚く護りたかったのです」

「それは理解出来ますが、素直に大和と摂津に攻め込まず、播磨に向かうと喧伝されたのは見事でございます」

「御止め下さい御義父上、このような事は戦術の初歩でございます」

「だがその初歩が、なかなかできぬ事でございます」

「配下の将兵がよく働いてくれたのでございます、それに公家衆も協力してくれました」

「冷泉為純殿でございますな、いかが遇されるのですかな?」

「これは御上に奏上する心算だったのですが、勅撰和歌集の編纂を、御上直々に命じて頂こうと思っております。為純殿には、その撰者の1人になって頂く心算です」

「なんと! 勅撰和歌集ですか?!」

「後花園天皇の勅宣を以って、飛鳥井雅世殿が新続古今和歌集を編纂して以来、100年以上勅撰和歌集は編纂されておりません。ここは御上と院の連名で、勅宣なされるのがよいと考えております」

「それはきっと喜ばれることでしょうが、御上と院の連名での勅宣となると、前例がないのではないかな?」

「調べさせたのですが、風雅和歌集が花園院の監修のもとで光厳院が親撰なされておられます。出来ましたら、御上と院が協力して編纂され、後世に業績を残していただきたいと思っております」

「殿下はそこまで、御上と院のことを考えて下さっているのですね」

「私の皇室に対する忠誠は揺るぎないものでございます、どうぞ安心して下さい御義父上」

「うんうん、そうかそうか、この事が広く知られれば、皆安心するであろう。だが関白殿下、流石にこのような重要な事は、直接参内されて奏上された方がいいと思いますぞ」

「やはりそう思われますか?」

「前回の事もあるから無理にとは申しませぬが、その方が御上も院も御喜びになられると思いますぞ」

結局のところ、勅撰和歌集編纂を提案を言上する為に、仕方なく参内することになった。

御爺様も御義父上も付き添って下さったので、これと言った粗相もなかったと思う。

大失態をしていても、自分では気づいていないと言う事もあり得るが、こればかりは前世の知識も全くないので、どうしようもない。

だが今回の勅撰和歌集編纂を提案した事は、俺が想像していた以上に御上に喜んで頂けた。

そしてその上で、自分では無く御父上であられる院単独での勅撰集にするよう、俺に命じられた。

院に対する御上の愛情が感じられ、思わず泣きそうになった。

そこで代替案ではないのだが、勅撰漢詩集と勅撰連歌集を、御上に勅宣して頂きたいと言上した。

勅撰漢詩集は、700年以上前に経国集を、淳和天皇が命じて編纂させられて以来作られていないと、調べさせた者から報告を受けている。

勅撰連歌集にいたっては、菟玖波集と新撰菟玖波集が准勅撰とはなっているが、純然たる勅撰集は編纂されたことがないと、同じく報告を受けていた。

この言上も、御上と院に喜んでいただくことができた。

最終的には、御二方で分けて勅撰を命じられることとなり、由緒ある勅撰和歌集と歴史上初の勅撰連歌集は、院が御命じになられ、勅撰漢詩集を御上が命じられることになった。

俺がこのような芸事に力を入れたのは、皇室と公家衆には政治に口出しすることなく、芸事に専念していただきたかったからだ。

後醍醐天皇が建武の新政で日本を大混乱させたようなことは、御上にも院にも起こして欲しくなかった。
いくら皇室を敬ってはいても、領民を苦しめるような命に従うわけにはいかないし、新政権にそのような命を出す余地を作るわけにもいかない。

史実で徳川幕府が出した、禁中並公家諸法度のようなものを作る気はないが、暗黙の了解のようなものを作っておきたい。

それと領地に関しては、鷹司家の代官が管理して、税だけ皇室と公家衆に納める形態にしたい。

元々の所有者がはっきりしている土地でも、長年の戦乱により、最初に押領した者から占有者が点々と代わっている土地が多い。

いつの時代を基準にするかで、これからの権利者が違ってしまう。

そこで武力を背景に、俺に都合のいい解釈を押し通した。

皇室御領に関しては、いつの時代に誰に引き渡されたものでも、皇室直轄領とした。

そして朝廷の官職に応じて、皇室から公家衆に扶持を支給する形を整えた。

公家の荘園に関しては、今の占有者から俺が取り上げて、公家衆に年貢分の銭と米を送る形にした。





京二条城の鷹司屋敷政務室・鷹司義信・真田幸隆他:鷹司義信視点

「閣下、大和の統治は、このまま滝川殿に御任せして宜しいのですか?」

「そうだ、だがどうせ直ぐに河内と和泉と切り従えてくれるだろうから、あくまで一時的な事だ。内政に関しては、得意な者を送ってやってくれ」

「承りました、このままの編成で、河内和泉を攻め込んで頂きます」

今回の戦は、播磨を混乱させるだけさせて、足利連合の三好・尼子・一向衆の眼を播磨に向けさせておいて、大和と摂津に攻め込んだ。

陸奥と関東はほぼ平定し終わっていたので、各方面部隊から兵力を移動させ、独立の師団や旅団を編成した。

半農半武の地侍を専業武士にし、専業足軽と共に畿内に動員したのだ。

近江軍団からは相良友和を、出羽山形からは鮎川善繁を抜擢した。

そして何よりも重大な移動は、関東方面軍団からは滝川一益を移動させ、大和方面軍司令官に任命した事だ。

関東と東国は、信玄と信繁叔父上に御任せすれば何の問題も無い。

農業生産に不必要な兵力だけを投入するとはいえ、近江・若狭・美濃・尾張以東の全領土から、大量の将兵を動員したのだ。

その戦力は、三好家が大和に投入できる兵力を遥かに上回っている。

まして猿渡飛影指揮下の摂津方面軍団2万1000兵が、大砲と大型弩砲を駆使して、摂津に侵攻し三好主力軍を引き付けているのだ、大和の松永久秀が独力で対抗できるものではない。

そして今回の隠し玉は、アイヌ戦士だった。

毒矢を使った、百発百中の弓術を誇る狩猟民族のアイヌ戦士を、明国との貿易で手に入れた米で、大量に召し抱えた。

いや正確に言えば、アイヌ奴隷階級をアイヌ支配者階級から買い取って、一時的に俺個人の奴隷としたのだ。

そしてアイヌ奴隷達に、手柄を立てたら平民・足軽・武士に取り立てると約束して、最前線に投入したのだ。

元々狩猟民族のアイヌを専業兵を投入しても、基本的な農業生産力には影響を与えない。

確かに明国との交易に必要な俵物の生産には、多少影響する可能性はあるものの、それはカムチャッカ・千島・樺太・蝦夷と、広範囲のアイヌ平民階級から集めれば十分確保出来る。

今後も広くアイヌから奴隷を買い取り、奴隷解放を前提に戦力として活用していく。

結局10万弱の新規兵力を大和一国に投入したため、勝てぬと判断した大和の国衆と地侍は、ほぼ全員降伏臣従してきた。

松永久秀は籠城すら不可能と判断したようで、信貴山城と多聞山城を放棄して、摂津滝山城に撤退した。

その上で、三好家に敗れて力を大幅に減退していた、興福寺を始めてする寺社勢力(僧兵)を、完全に解体することにした。

興福寺・延暦寺・園城寺(三井寺)・東大寺・多武峰妙楽寺・金峯山寺などに、武装解除もしくは降伏臣従すように通達した。

僧として、今後は純粋に民を導くのなら、武装解除の上で寺に残ることを許した。

武士として栄達を望むなら、僧籍から離れるように、圧倒的な武力をもって、最終決断を強要したのだ。

自分達の利権確保の為のいいとこ取りなど、絶対に許さない!





京二条城・鷹司屋敷政務室・鷹司義信・滝川一益・大和国衆他:鷹司義信視点

「筒井藤勝殿と、後見の筒井順政殿でございます」

「うむ、よく参ったな藤勝、そなたは幼いにもかかわらず、よく筒井家を率い朝廷に忠誠を尽す決断をした。その事を評して、押領していた公家領と寺社領以外は、本領安堵といたす」

「有り難き御言葉を賜り、感謝いたします」

「恐れ多い事ながら、関白殿下の特別の御高配を賜り直答を御許しいただきましたので、後見役の某からも、深く深く感謝の言葉を申し上げさせて頂きます」

「うむ、大儀である」

今日は、降伏臣従してきた大和国衆の主だった者と、拝謁することになっていた。

だが通常関白の俺と大和国衆が、直接会話するなどありえない。

長年主従関係を続ける古参家臣とは、特に違和感なく会話しているが、新規召し抱えの国衆や地侍には、特別に許してからでないと、直接会話すら出来ないのだ。

はなはだ面倒だし、合戦中などは1分1秒を争う場合もあるかもしれない。

早く改めないといけないが、威厳を失うのも戦略戦術的に損失かもしれないから、何時から譜代扱いするかが悩むところだ。

「但し、何時をもって誰を所領の所有者するのが難しい。よって係争の激しい所領は余の直領として、係争する双方には扶持として案分を与える事とする」

「「はい、承りました」」

「証拠となる書付がある場合は奉行に提出するように」

「「はい」」

大和は古い土地だけに、長年に渡る所領争いが激しい。

一益が制圧して以来、同じ所領を降伏臣従した複数の国衆や地侍が、本領安堵してもらいたいと願い出て来ている。

丹念に話を聞いて遺漏なきようにするのは当然だが、ゴネ得や理不尽な横車を許す訳にはいかない。

何時も通り、係争地は召し上げる事も必要となって来る。

「柳生宗厳殿でございます」

「うむ、よくぞ参った宗厳、柳生家は代々剣豪を輩出する家と聞いている。そなたも戸田一刀斎に富田流を学び、神取新十郎からも新当流を学んだそうだな」

「はい! 今だ修行の半ばながら、剣を極めんと志しております」

「うむ、そなたがこれからも剣術を学びたいのなら、我が力の及ぶ限り助力してやろう」

「有り難き御言葉を賜り、感謝に耐えません。微力ながら、学んだ剣を持って、関白殿下の配下として働きたく思います」

「うむ、期待しておるぞ」

面倒だが国衆や地侍の慰撫は、絶対に必要な事だ。

それを怠ると、背後の味方に裏切られ、思わぬ不覚を取る可能性がある。

影衆の内調部隊が油断なく裏切りを監視してくれてはいるが、1番いいのは心から忠誠を尽してくれる味方を数多く持つことだ。

国衆や地侍の1人1人の人柄を見極め、その者が本当に欲している物を与える、それが何より大切だと思っている。

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