転生武田義信

克全

第129話関白太政大臣

京二条城の二の丸政務御殿・鷹司義信・真田幸隆・秋山虎繁・黒影・織田信長:鷹司義信視点

「閣下、どうなされる御心算ですか?」

「困ったものだな、それほど俺が怖いのか? ちゃんと鷹司の名跡を継ぎ、朝廷の仕来りも尊重している。何よりも御上や後奈良院の事は、常に敬ってきたつもりだが?」

「その通りでは御座いますが、閣下は圧倒的な武力を御持ちでございます。にも拘らず二条晴良卿は、父君の二条尹房卿と結託して、大内を我が物としてしまわれた。この事で京で変事が起きたり、閣下が御所に兵を送り込まれるのではないかと、臆病な公家衆が騒いでおるのです」

「確かに晴良卿が御所内に逃げ込んで、頑として出て行かない事には怒りを覚えている。だがだからと言って御所に兵を差し向けようなどとは、露ほども思っておらん!」

常に朝廷対策を行って来た秋山虎繁にも、長年の務めで友諠のある公家衆もいるのだろう。

いや、肌を重ねた姫君を通じて、公家衆から探りを入れられたのかもしれない。

俺が本気で怒っていないか、或いは御上や後奈良院に対する接し方を変えるのではないかと、遠回しに訊ねて来た。

「本当にそれでよいのでございますか?」

「何がだ信長?」

「今の閣下なら、唐のように王朝交代も可能なのではありませんか?」

本気か此奴!

それとも俺を試しているのか?

伊那を襲撃されて以来、久々に本気で殺意を覚えるわ!

「馬鹿な事を言うな! 天地が逆さまになっても、俺の皇室に対する忠誠は変わらんわ!」

「長らく戦乱で苦しんできた民の為にも、強き者が政を行う必要があるとは思われないのですか?」

「そのような事は、真に実力がある者が征夷大将軍に着くなり、摂政関白に着くなりすれば済む事だ」

「ならば御上や後奈良院、公家衆が申しているように、閣下が征夷大将軍か関白に就任されるべきでしょう。そうなされれば、皆が不安から解放されます」

「う!」

「左様でございます。信長殿が申される通りでございます。いい加減朝廷の儀礼を覚えるのが嫌だとか、小直衣や衣冠を着ると肩が凝るから参内するのは嫌だとか、童のような事を申されるのは御止め下さい」

「しかし本当に肩が凝るのだ! 御上や後奈良院に御拝謁しようものなら、翌日は頭痛がして何も出来なくなるのだ!」

「それは困りましたな」

信長の指摘に、ここぞとばかりに虎繁も言いたい事を言いだした。

だがそんな事を言われても、公式行事が嫌いで緊張してしまうのは、前世からの宿命なのだ。

これだけは慣れるしかないのだろうが、逃げれるものなら徹底的に逃げる。

「どうしても征夷大将軍か関白に就任せねばならぬというのなら、関白に就任すると伝えてくれ。だが公式行事には出ないぞ!」

「それは困りましたな」

「その場にいるだけで肩が凝ると言うのは我慢して頂くとして、所作や仕来りは、先代鷹司卿や九条卿に御任せしてはいかがでございますか?」

幸隆も黙っていれなくなったのだろう、会話に加わって来た。

だが俺が我慢するのが前提と言うのは、どう言う事だ?

俺が何時他に我儘を言った!

唯一の御願いくらい聞いてくれてもいいだろうが!

「御爺様と御義父上に官職についていただくとなると、太政大臣と左大臣になってしまう。だが朝廷の官職を、我が一族で独占する訳にもいくまい。そんな事をすれば、平家のように忌み嫌われてしまうぞ」

「ならば先代鷹司卿と九条卿には、准三宮になって頂きましょう。そうすれば何時でもどこでも閣下の御側で御助力いただけます」

「准三宮の位は、そんな簡単に頂いていい物なのか?」

虎繁は簡単に言うが、本当にいいのだろうか?

「閣下が関白の地位につかれれば、御上も後奈良院も安心なされます。征夷大将軍を御受けなさらないのも、阿波公方である義冬の恨みが御上や後奈良院、ひいては公家衆に向かわない為の閣下の御配慮だと知れば、更に安心致すでしょう」

まあそういう事だ。

どうしても受けなければいけないのなら、少しでも危険の少ない方がいい。

まして俺自身の危険ではない、御上や後奈良院に些かの危険も負って頂くわけにはいかないのだ。

結局すったもんだで、俺は関白太政大臣となった。

今の朝廷では、近衛家と二条家が排除されているから、左大臣は西園寺公朝が留任した。

西園寺公朝卿は、戦乱の京に留まり、後奈良院と朝廷を支え続けた方だ。

実際の朝廷の儀式や仕来りは、西園寺公朝卿に差配してもらうしかない。

右大臣に就任して頂いたのは、花山院家輔卿だ。

花山院家は藤原北家師実流の嫡流に当たり、清華家の家格を有している。

実は九条家から花山院家養子に行かれた、俺の義叔父だったりする。

朝廷内の儀式や仕来りにも詳しく、家業は四箇の大事(節会・官奏・叙位・除目)で、笙や筆道にも秀でておられた。

そこで一条家の家礼(門流)から、九条家の家礼に移って頂いた。

内大臣に関しては、正親町三条公兄卿が任じられた。

俺との関係が重視され、三条家の分家で大臣家の家格をもつことが考慮されたのだろう。

1番の理由は、弟の実信や公之を内大臣に任命する時、辞めさせても弊害がないという事だろう。

鷹司義信:従一位・関白太政大臣・左近衛大将・鎮守府将軍
:信濃・上野・下野・上総・下総・安房・武蔵・伊豆・三河国司
:遠江・三河・尾張・美濃・近江・加賀・越前国司
鷹司実信:義信全弟・信玄と鷹司簾中(元三条夫人)の子
1541:従二位・准大臣・右近衛大将・出羽国司
三条公之:義信全弟・信玄と鷹司簾中(元三条夫人)の子
1543:正三位・権大納言・左近衛中将・佐渡国司

准三宮:九条稙通
准三宮:鷹司公頼
関白 :鷹司義信
太政大臣:鷹司義信
左大臣:西園寺公朝
右大臣:花山院家輔
内大臣:正親町三条公兄
准大臣:鷹司実信

結果としては、俺の想いとは違ってしまった。

俺の縁者が朝廷の官職を独占するような事態は避けたかったが、准大臣以上の官職5つの内、4つまでが縁者になってしまった。

問題が多いとは思うのだが、長年の戦乱による困窮で、朝廷の官職は可也いい加減だったそうだ。

史実でも正親町三条公兄卿などは、困窮の為にたびたび地方に下向して、朝廷への奉仕を放棄していた。

それなのに正親町三条家の極官にまで官位昇進を遂げたことは、当時の朝廷の人事管理や廷臣統制が、いかにいいかげんになものであったかが分かるというものだ。





丹後久美浜城・狗賓善狼と松倉周防守:第3者視点

「小西宗雄殿、我が主君鷹司卿に御仕えせぬか?」

「勿体無き御言葉成れど、我が主君は、亡くなられた松倉周防守様だけでございます」

「そうか、そなたの武勇をこのまま野に埋もれさすのは勿体無いのだがな」

「重ね重ね有り難き御言葉を賜りますが、我も武士でございます。二言は御座いませんし、主君は松倉周防守様御1人と決めておりました」

「そうか、そこまで申されるのなら致し方ないな。だが何か困った事が起こられたら、何時でも私かこの地の代官を訪ねられよ」

狗賓善狼は船団を活用して、丹後の海岸線付近の城砦を、次々と攻略していった。

殆どの城砦は、弓木城の一色義清が討ち取られて以来、素直に降伏臣従に応じた。

しかし1部の国衆が頑強に抵抗したため、三種の矢を射込んで内部抗争を起こさせる場合も出て来た。

銭はかかったが、足利連合軍と戦う為には、余計な人的損耗は避けるようにと、鷹司義信から指示を受けていたのだ。





京二条城の二の丸政務御殿・鷹司義信・真田幸隆・秋山虎繁・黒影・織田信長:鷹司義信視点

「義通殿、よくぞ無事に帰られた。京に来られた以上、もはや何の心配もござらん、私が出来る限りの支援をさせて頂く」

「有り難き御言葉を賜り、万の味方を得た気持ちでございます。しかしながらその御恩に対して、私は何を御返しすればいいのでございましょうか?」

「率直に申せば、安芸1国と山陰は諦めてもらいたい」

「そう申されるのは、安芸武田家の絡みでございましょうか?」

「そうだ。安芸は元々武田家が守護を務めていた国だ。武田家は私の生家でもあるので、武田と三条の血を引いた実弟か、武田、三条、九条の3家の血を引いた実子に、廃絶した公家の名跡を継がせた上で、安芸の国司に任じたいと思っている」

「では大内家は、周防、長門、豊前、筑前を領地として認めて頂けるのですか?」

「正直に申せば、4カ国すべてを認める訳にはいかん」

「御待ち下さいませ! 身分卑しき陪臣の私が、鷹司卿と直接口を利けぬ身である事は重々承知しておりますが、ここはどうか話させて頂きとうございます」

「構わぬよ。元々俺も武田家の者だ、陪臣の直言を聞く度量は持っている心算だ」

「寛大な御言葉ありがとうございます。申し上げさして頂くのは、大内家は長年に渡り中国地方に君臨し、国衆の支持も厚く、他家の者が治めようとしても上手くいかないと思われます」

「確かに今回の戦乱を見ても、大内家が国衆の支持を得ている事は理解している。しかしその大内家が、応仁以来、京を戦乱によって荒廃させたのも動かしがたい事実だ」

「それは・・・・」

「先程の4カ国中どの国でも構わないが、1カ国の国司は認めよう。後もう1カ国は、一条家の名跡で子供に継がせる事なら認めよう」

「一条家でございますか?」

「ああ、率直に申せば、土佐一条家が滅びる可能性がある」

「それは!」

「義通殿を殺そうとしたのだ。公方は、京の一条家と土佐一条家とは、完全に敵対した事になる。更に畿内で俺と争っているのだ。背後を完全に固める為には、土佐一条家を滅ぼそうとするのが必然だ」

「土佐に援助はして頂けないのでございますか?!」

「正直難しい。瀬戸内や玄界灘は、足利連合の水軍が完全に支配している。今は土佐沖にも勢力を伸ばし、土佐一条家の船が身動きできないようにしている。しかも土佐の国衆にも、調略の手を伸ばしている」

「私を助け出してくれた南蛮船でも、勝ち目が無いのでしょうか?」

「多勢に無勢となれば、いかに優秀な南蛮船でも、10隻ではどうにもならない。まして拿捕でもされて、足利に利用されては堪らんからな」

「左様でございますか、ではどうやって私を支援して下さるのですか?」

「陸路で山陰山陽道を進む、まずは畿内の三好を攻め滅ぼす」

「2カ国を大内と一条の名で継承させていただける、それで間違いございませんか?」

「間違いない、そのこと関白太政大臣として約束しよう」

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