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転生武田義信

克全

第113話軍議・急速侵攻

3月尾張末森城の鷹司義信・織田信長・八柏道為:鷹司義信視点

「2人ともどう思うか?」

今上帝の想いを受けて、急遽皇室行事を支援することになったが、これによって戦略構想を大幅に変更することになった。

時間をかけること自体は、それほど悪いことではない。

何故なら俺の方が敵より若く、圧倒的に広い領土と資金源があり、時間が経つほど戦力差が広がるからだ。

だがだからと言って、何もしないで遊んでいる気にはならない。

運命というものは残酷な面もあり、いつ俺が不慮の死を迎えるか分からないからだ。

そこで軍師の織田信長と八柏道為を呼んで、今後の対策を諮問したのだが、もちろん護衛は万全を期した。

狼たちと嬢子軍はもちろん傍に侍らせているが、影衆の黒影と嶽影の2人も、織田信長と八柏道為の一挙手一投足に目を光らせてくれている。

「今まで鷹司卿が御使いになられた策を考えますと、銭による調略がよいかと思われます」

八柏道為が実直に提言する。

「名誉を損なう」

これこれ信長、ちゃんと前後の説明を入れなさい、理解できない人もいるんだから。

「大義名分ですか、確かに今までなら籠城した将兵の命を救う為と言えましたな。ですが今だと、賞金首とする訳ですから、小笠原長時と神田将監には、何か罪を明らかにせねばなりませんね」

流石に道為だ、主語の無い信長の話をちゃんと理解している。

「御屋形様の名で賞金を懸けても、俺がやったと思われると言いたいのだな」

「御意」

信長は俺の言葉に一言で答えるが、ほんと言葉を惜しむ奴だな。

「何か工夫できないか?」

罠に嵌めろとまではいわないが、何か罪を犯させる方法はないかね?

「帝にも御協力して頂きませんと」

信長は帝の願いを聞いて合戦を控えるのだから、敵対相手にも合戦を控えるように、勅命を出して頂けと言いたいのだろうが、ちゃんと説明しろよ!

「帝の勅命で、全国の諸大名に矢止めを命じるのはよき事ですな。それなら勅命を破った者の首に、近衛左大将として賞金を懸けてもおかしくはない」

道為は今度も信長の言葉を理解できたな。

「賞金で敵将を狩るのはよいとして、他に手はあるか?」

「・・・・馬を狙う手があるにはありますが・・・・・」

「「「損」」」

道為の言葉に、俺を含めた3人が同時に言い放つ。

確かに小笠原の馬を、毒殺したりする方法はある。

だがこれを使えば、此方の方が損害が多くなる。

小笠原は難敵とは言え、我が軍の方が騎馬数で圧倒しているから、馬の暗殺合戦が始まれば損をするのはこちらだ。

我らに影衆ありと言えども、相手には伊賀と甲賀がいる、敵に対策法を教える事はない。

ランチェスター式の応用を考えれば、戦闘力・武器性能・兵員数ともに上回っているのだから、正攻法で戦うべきだろう。

「影衆の増員と、専門家を雇えばよいでしょう」

信長は流石だな、自分たちの主力軍を妨害する方法を思いついてしまった以上、それを護る為の策を講じてなければいけない。

だが相手が気付いていない手法に対する、あからさまな防衛策を取れば、敵に策を教えるようなものだから、騎乗士や馬取りにも教える訳にはいかない。

俺が1番信頼する、影衆を増員するのが1番だが、同時に敵が使って来た時の報復準備も絶対必要だ。

しかし報復にまで影衆を使えば、人手不足でどこかに穴が開く。

使い捨ての攻撃用忍者を雇っておけと言う事だな。

「狙い目は風魔ですな」

道為は落ち目の北条から、風魔を引き抜く策がよいと言ってるな。

同時に俺が伊那焼き討ちで恨んでいる、伊賀忍者と甲賀忍者の引き抜きは遠慮したな。

「伊賀と甲賀を相争わせましょう」

信長は俺を試していやがる。

私怨に囚われて、天下を治めるための有効策を捨てる、器量の小さい男かどうか。

だが器量を量られようが、大切な民を闇討ちされた恨みは忘れられない。

「伊那を襲い、無辜(むこ)の民を襲った一門は許せない! 荷役衆を襲ったのは、合戦の一環だから仕方あるまい。影衆は厳格に調べたうえで、調略する忍者を厳選せよ」

黒影が無言で頷いている。

信長の提案した策だが、信長に任せる訳にはいかない。

信長の配下に、伊賀忍者と甲賀忍者を直接組み込むなど、危険すぎる。

そんな事をすれば、自分の金で刺客を養っているようなものだ。

だがどうせ伊賀忍者と甲賀忍者を調略するなら、他の六角系の国衆と地侍も調略しようか?

だが完全に寝返らせてしまうと六角が滅び、三好との緩衝地帯が無くなる可能性もある、どうしたものか?

これも公家を活用してみるか?

俺と三好に挟まれて苦戦している六角は、国衆と地侍に無理させている。

逃げ込んだ浅井や管領の細川晴元も養わないといけないから、資金的にもう限界だろう。

俺が直接に六角系の国衆と地侍を支援すれば、どんなに苦しくても討伐を決意するだろう。

だが覚院宮から国衆や地侍に迂回融資すれば、発覚しても六角は国衆や地侍を討伐できないだろう。

「苦境にある近江、伊賀、若狭、伊勢の国衆と地侍には、覚院宮様から銭や米を貸し与えることにしたいが、如何に思うか?」

「宮様だけですか?」

信長はもう一捻りしろと言うのだな。

「左様ですね、宮様だけでは鷹司卿の思惑が透けて見えすぎます。帝と皇太子殿下にも、矢止めを命じるに当たり、苦境の大名、国衆、地侍に、銭を貸し与えると勅命を出して頂きましょう。形に土地を取っておけば、我ら近衛府軍が侵攻するよい大義名分となりましょう」

信長と道為の提案通りだな。

今上帝や公家衆を含む朝廷を支援するだけなら、資金的には持ち出しだ。

官位官職や大義名分は十二分に得られるが、銭の回収は出来なかった。

だが銭を貸し与える形で迂回融資を仲介すれば、俺も元利金を回収できた上に、皇室に利息という収入源を作って差し上げられる。

返済出来なくなった国衆や地侍の土地を攻め取れば、此方の領地を削らずに、皇室御料地を増やして差し上げられる。

しかも年貢から元金を返して頂くことも可能だし、恐らく我らが代官として管理することになるだろうから、管理分の年貢を徴収できる。

何よりも、近衛府軍が侵攻する大義名分が得られる。

「両名の策を採用する、道為は奇襲軍の軍師に任ずる」

関東東国を治めて行くに為には、優秀な人材を要所に配置しなければ、内部から崩壊してしまう。

信長が手に入ったなら、己の才能を証明した道為には、重要拠点を護ってもらう。

だが重要拠点を任すには、一門や譜代衆と言った、周囲を納得させる武勲も必要だ。

一益の軍師や副将として奇襲軍の指揮をし、手柄を己の手でもぎ取ってもらう。

道為が指揮した太平洋艦隊は、全力をもって、上総湊に兵の上陸作戦を実施した。

佐貫城の里見義堯は、安房の全戦力を注ぎ込んで、上総の武田連合に対抗していたが、劣勢を挽回する事は出来ないでいた。

俺の支援を受けた庁南武田の吉信と、真里谷武田の信政は、土岐頼定と協力体制を取り、戦力を増強していた。

それぞれ思うところはあるのだろうが、俺を敵に回さないように、互いの反感は心の奥底に抑え込んでいた。

この状況下で佐貫城の後方に、俺が鷹司の大軍を上陸させたのだから、里見勢の雑兵はもちろん、国衆や地侍も一気に離反した。

鷹司軍に降伏臣従した里見勢だった者たちには、いつも通り城と半知没収半知安堵、没収した半知分を扶持化して、近衛府出仕で受け入れることになった。

この状況となって、北条家に仕えていた伊豆諸島の国衆と地侍が、全員降伏臣従してきた。

鷹司の圧倒的な海軍力に、抵抗しても無駄と悟ったのだろう。

今の北条家には、伊豆諸島を討伐する力も無いし、関東軍に降伏したくても受け入れてもらえない。

海軍の指揮で能力を示した八柏道為を、安房・上総・下総・伊豆諸島の、海軍総指揮官に任命した。

戦略目標として、太平洋側の湊を攻略して、日本海側の艦隊と行き来できるように準備させることにした。





4月美濃岐阜城:鷹司義信視点

俺は稲葉山城を、史実に合わせて岐阜城と改名した。

当然の事だが、大改修を行い難攻不落の城に造り直したが、これは清州城も同様に行った。

だがこれは、戦乱で荒廃した美濃・尾張・三河の民に、銭を与えるための経済振興策でもある。

だがどうせ銭を投入するなら、海軍艦艇の避難所や交易湊にも使える、海軍城も築城することにした。

皇室と朝廷では、俺の里見討伐を待って、矢止めの勅使を全国に送り出した。

矢止めの理由としては、立皇太子儀・譲位の儀・御大礼(ごたいれい)(即位の礼・大嘗祭)と続く、一連の皇室行事に触りがあると言う理由だ。

ここで朝廷から、俺と大内及び三好長慶に、極秘の使者が送られた。

最も俺と大内の場合は三文芝居で、既に皇室との打ち合わせは済んでいる。

あくまでも無事に皇室行事が遂行できたらという前提でだが、三好には足利義冬を左馬頭から征夷大将軍に任じるというものであり、一条義通改め大内義通は兵部卿兼大宰大弐兼侍従に任じられ、俺は鎮守府大将軍に任じるというものだ。

一条房通(いちじょうふさみち)卿も嫡男を失い、幼い内基殿を支えるために必死なのだろう。

特に俺や九条の義父上が圧倒的な武力を持ったことに、危機感を持っておおられるだろう。

それに近衛も、2代続けて足利義晴・義藤に正室を送り込んでいるから、油断できない。

土佐一条家以外にも、後ろ盾となる武力と経済力を、内基殿の為に確保しておきたいのだろう。

だがまあ露骨と言えば露骨で、一条房通卿が大宰帥(だざいのそち)に任じられるのは、遣り過ぎの気がする。

橘諸兄(左大臣・従一位)や親王補任の前例が有るには有るが、一条家が他の公家衆から敵視されなければいいのだが。

だがこれで、実質的には天下が三分されようとしている。

天下三分の計ではないが、尾張・美濃・近江・越前から東は俺が支配し、畿内と四国の半数は足利と言うか三好支配し、西海道と山陽道は一条が支配して、3家で天下を分け合おうという構想だ。

だがこの構想から外れた大名が、黙って俺たちに従うとは思えない。

関東東国の大名や国衆は俺に抵抗するだろうし、紀伊と河内の畠山、山陰道の尼子、足利義秋・細川晴元・六角義賢なども、足掻きに足掻くだろう。

だからと言って、この三家同盟に反対しているわけでもないし、文句があるわけでもない。

俺としても、今直ぐ一条や三好と争う気はない。

だが国境を接する三好と一条が国元で争いだすと、御所の一条房通卿を狙う馬鹿が、三好家から現れないとも限らない。

秋山虎繁には、御所の警備を強化するように伝えておこう。

それと思い付きで始めた悪徳金融業だが、想像以上に順調だった。

もちろん敵対勢力や、回収不能な遠国の大名や国衆には貸していない。

だが全国の大名と国衆が、こぞって借金に御所に訪れる状況になった。

今まで武力で皇室や公家達を脅していた武士が、頭を下げて借金にやってきたのだから、今上帝・皇太子殿下・覚院宮の喜びは、俺の想像を飛び越えていたのだろう。

17歳の俺に正一位・太政大臣・関白復帰の使者がやってきた。

若年で恐れ多い事と辞退したが、この話が噂として流れた後の動きが恐ろしい。

妬み嫉みが怖いから、影衆と狼を一瞬たりとも身の回りから外せない。

だがこの状況で考えるべきは、近江・若狭・伊賀・伊勢・志摩の国衆と地侍が、挙(こぞ)って御所に借金にやって来たということだ。

御所内に金は無い、と言うか輸送の無駄を無くすため、審査して融資が可能となってから、伊那や甲斐から銭を送るのだ。

当然借り手は、本当の貸し手が鷹司と武田だと言うことは、申し込んだ時に理解している。

それでも隣接した敵対国の俺に借りるという事は、返済不能時の合戦か降伏臣従を覚悟していることになる。

はっきり言えば、南近江の国衆と地侍は、六角を見限り降伏しますと、俺に意思表示しているのだ。

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