転生武田義信
第103話私的軍議2・久保姫事情
7月信濃諏訪城の奥殿:鷹司義信視点
「ねぇねぇねぇ、それで氏康死んだの?」
桔梗ちゃんが興味津々な様子で、報告に来た影衆に先を催す。
「確証は御座いませんが、譜代衆の必死の殿(しんがり)で、僅かな手勢と共に小田原城まで逃げきったようでございます」
「しかし若様、小笠原長時が、我らの戦術を先に使うとは思いませんでした」
楓ちゃんが驚きを隠せない表情で話しかけて来た。
「まあ長時には、神田将監が後見人として付き従ってるからね。此方が鉄砲隊を封印していたとはいえ、騎馬隊を使って散々後方攪乱を行い、俺達を苦しめた強者だ。俺達に並々ならぬ恨みを抱いているだろし、当然俺達の戦略戦術を徹底研究して、自分達でも取り入れ、更に対抗策まで考えていたのだろう」
「しかし騎馬鉄砲と騎馬弓の連携を先に使われてしまって、私たちが切り札を使わぬうちに、世間に知れ渡ってしまいました」
楓ちゃんが悔しそうに言うが、こればかりは仕方が無い。
「仕方ないさ、皆生き残るのに必死だからね。でも大砲隊を組み込んだ戦術までは、思いついていないようだから、まだ切り札は残っているよ」
「ねぇねぇねぇ、それより北条の続き話してよ」
桔梗ちゃんは北条が叩きのめされたのが面白いのか、戦術構想よりも合戦の経過と結末を聞きたがった。
「はい、北条軍と関東軍は、盾隊を先頭に叩き合いを続けたのですが、そうなると倍の兵力を持つ関東軍が有利となります。北条騎馬隊の横槍は、小笠原騎馬隊に防がれ叩きのめされてしまいました。最後は北条方国衆兵の逃亡が始まり、友崩れが起こり陣立てが崩壊して、全面敗走となりました」
「それでそれで」
桔梗ちゃんの目が爛々と輝いている、北条の負け戦がそんなに面白いのか?
「は、関東諸将が手柄を目指し追い首を狙うなか、小笠原騎馬隊は氏康を討ち取るべく追撃に専念したのですが、北条譜代衆が決死の殿(しんがり)を見せて、小笠原の足を止めに掛かりました」
「流石に北条には忠臣がいるのですね、でも小笠原は鉄砲と弓を上手く使いこなしていたのでしょ? 殿(しんがり)が頑張(がんば)ろうとも逃げきれないと思うのですが?」
茜ちゃんが北条を褒めつつ、疑問を投げかけた。
「は、1人2人の譜代衆が殿(しんがり)を務めたのではなく、幾人もの譜代衆が、死を覚悟で小笠原の前に立ちふさがり、騎馬の足を止めておりました」
「それでは譜代衆は、ほぼ全滅したのではないの?」
楓ちゃんが確認する様に聞く。
「はい、譜代衆だけでなく、一門衆もほぼ全員討ち死になされたようです。氏康殿も小田原城に辿り着いたものの、どれほどの手傷を受けているのかが分からず、生死の確認までには至っておりません」
「そうですか、籠城か野戦かの選択が明暗を分けたのでしょう。ですが籠城したとしても、小笠原の略奪後方攪乱で、今年の年貢は見込めなかったでしょうし、仕方ない選択だったのでしょうか?」
最初は自問自答していた楓ちゃんだが、自分だったら取っていた戦術を思い浮かべながら、俺にも取るべきだった戦術の確認をしてきた。
「そうだね、でもいくら小笠原でも、山間部の略奪は難しから、全ての領地で年貢が無くなる訳では無いからね。特に伊豆はほぼ全域安全だろうし、俺なら歩兵だけで籠城戦を行い、騎馬部隊を略奪に投入したね」
「若様が民から略奪するの?」
桔梗ちゃんが少し哀しそうに聞いてきた。
「うんやるよ。まあそこまで追い込まれないように、先に色々と手を打つけど、桔梗ちゃんたちを守って餓えさせない為なら、俺は鬼になるよ」
「うん、ありがと」
桔梗ちゃんが嬉しそうに恥ずかしそうに、でも少し哀しそうに返事してくれた。
「この後はどう動くのでしょうか?」
茜ちゃんは、この戦の影響が、俺たちにどう降りかかって来るのかが、少し心配なのだろう。
「そうだね、こうなると御屋形様の同盟条件が厳しくなるだろうね、いや属領扱いにするかもしれないね。北条の姫は人質として嫁いでくるだろうけど、此方からの嫁入りは無いだろうし。兵糧と軍資金の援助を条件に、伊豆水軍に今川水軍の殲滅を依頼するだろうね」
「関東軍が上野口から、我らに攻め掛かかってくる事は有りませんか?」
楓ちゃんが、また関東の勢力図を思い浮かべているようだ。
「そうだね、多くの国衆が関東軍に加わるけど、決して一枚岩では無いからね。実質的な支配者は佐竹で、声望は小笠原が独占するだろう。でも古河公方と関東管領の上杉も、密かに巻き返しを図るだろうしね」
「この後派閥争いが起こると御考えなのですね」
楓ちゃんが、我が意を得たりと自説を披露した。
「そうだね、佐竹は常陸の完全制圧と関東切り取りを画策するだろうし、小笠原は武田憎しで、甲斐信濃に攻め込む事を望むだろうね。古河公方は武蔵の領有と、相模と伊豆の回復するのに、北条を滅ぼす事を主張するだろう。上杉は上野、下野、下総、武蔵の領有と、越後侵攻を主張するかな」
「では分裂してしまい、北条攻略は達成できないとお考えですね?」
楓ちゃんが結論を急いでいるのか、それとも俺を試しているのかが読めない無表情で、この話を締めくくろうとする。
「いや絶対ではないよ。軍師の神田将監がいるし、過去の敗戦に学べる者が他にもいるかもしれない。何より国衆が、小笠原騎馬隊の奇襲夜襲略奪を知ってしまったからね。農兵を動員せずに、安全確実に稼げる方法を知ったんだ。籠城に徹するしかなくなった北条以外の、危険な敵に掛かる事を嫌がる可能性が有るね」
「確かにそうですね。我々や上総武田に向かうと、勝てるとは限りませんが、今の北条には、略奪騎馬隊に対抗する術は無いですものね」
茜ちゃんが同情するように話に加わった。
「ねぇねぇねぇ、それより北条の姫は若殿の側室に入るのかな?」
桔梗ちゃんは、閨房(けいぼう)の行方の方が気になるようだ。
「それは無いだろうね、後継者争いは嫌だから、四郎以下の誰かの正室だろうね」
7月陸奥会津の曽根昌世と山之内俊清
「俊清殿、晴綱殿と晴光殿の臣従をどう思われるか?」
「晴綱殿は、蘆名との戦で苦戦しておりましたし、佐竹の北上にも苦戦しておりました。鷹司卿の庇護を受けた上で、佐竹に復仇したいのでしょう」
「それは少し拙いな、若殿が関東攻略をどう御考えか指図を受けておらん、晴綱殿には佐竹攻略は控えて貰わねばならん」
「分かりました。私から、鷹司卿の指示なしでの私戦は禁止と伝えておきます。それと晴光殿は、蘆名と田村の所領を奪われておりましたから、早く臣従しないと、鷹司卿に滅ぼされると思ったのかもしれません。所領と扶持を保証する限り、裏切る事は無いと思われます」
「それは安心ですね。ですが岩城重隆は、油断できないのではありませんか」
「難しい所ですね。確かに娘の久保姫を伊達晴宗に嫁がせ、この間に出来た子を嗣養子に迎えています。しかしそもそも輿入れも嗣養子も、重隆殿が戦に敗れて、無理矢理承諾させられたものです」
「どう言う事情なのです?」
「久保姫は奥州一と評判の美少女だったのですが、当時重隆殿は結城家と結んで、伊達、相馬、田村の連合に対抗しようとしておりました。その為久保姫を、結城家に輿入れさせようとしたのですが、相馬家から伊達家へ嫁入りさせる様に仲介が来たのです」
「それは強引な横槍ですな」
「はい、重隆殿が先約があると断ったのですが、伊達稙宗殿がそれを言い掛かりに、合戦にまで持ち込もうといたしまして」
「まさかの嫁取合戦が勃発したのか?」
「それがまぁ聞かれよ。重隆殿がそれでも結城晴綱殿への嫁入りを強行させようとしたのですが、事も有ろうに伊達晴宗が軍勢を率いて嫁入り行列を襲撃し、久保姫を攫って行ったのです」
「花嫁強奪ですか、物語になりそうな話ですが、久保姫は自害も抵抗もしなかったのですか?」
「ここからがまさに物語と言えるのですが、久保姫は晴宗を夫と認めたのです」
「襲撃するほど惚れられるのは、女冥利(おんなみょうり)と思われたのか? しかしそこまで体面を汚されて、重隆殿はどうされたのだ?」
「娘を人質に取られた状態でも反伊達を貫き、自害しなかった久保姫に勘当を申し渡した結果、城を伊達、相馬、蘆名、石川、二階堂の連合に囲まれ、逼迫(ひっぱく)されました」
「重隆殿は誇り高き武士ですな。しかしそれでも、家名と血脈を残す為に、膝を屈するしかなかったのですな」
「はい。しかしながら、重隆殿は容易く下られた訳では無いですし、武士の意地も貫かれています」
「どう言う事です?」
「久保姫からの、晴宗との婚儀を認めてくれるよう書かれた書状を何通も受け取っても、籠城を続けられました。最後には、嫡男が産まれたら岩城家に養子に出すとの約定を結んで、意地を貫き誇りを守った上で、開城と婚儀を了承されました」
「なんと! 伊達晴宗は、長男を岩城家の養子に出す約束をしたのですか? しかもそれを守ったのですか? 後々の御家騒動の元ではないですか?」
「はい、今岩城家の嗣養子は伊達晴宗の長男です。しかも晴宗は久保姫にぞっこんで、側室も置かず子作りに励んでおりますよ」
珍しく俊清が茶化すように締めくくった。
「まさに物語ですが、久保姫は1つ間違うと、傾国の美女にも成り得ますな」
昌世は真顔に戻って話しかけた。
「確かにさようですな。しかしながら、己が血を分けた孫が伊達と岩城の当主となるのです。重隆殿ほどの漢なら、愚かな大将になど育てますまい」
「うむ、そこをつけ込むのは無理がありますかな? だがそれでは、家名に泥を塗られた結城家はどうしたのです? 晴綱殿の面目は丸つぶれでしょう? 伊達との合戦は起こらなかったのですか?」
「滑井合戦と言われる戦が起こったのですが、武勇拙く晴綱殿は敗れてしまいました」
「嫁を奪われ戦に負けるとは、踏んだり蹴ったりですな」
「はい。その所為か、後に起こった天文の乱では、稙宗と晴宗の父子どちらの味方もせず、積極的にこの乱に参加しませんでした。」
「ならば伊達の攻略には、結城家は当てにしてもよいですな」
「それはそうなのですが、皆家名と血脈を残すことに必死でございますから、勝てぬと分かれば、いくら恨み骨髄の伊達家が相手でも、戦は仕掛けますまい」
「なるほど、戦を仕掛けるなら必勝態勢を築いてからですな」
山之内俊清:山之内七騎党盟主
結城晴綱 :白河結城家11代当主
石川晴光 :石川郡三芦城主
岩城重隆 :磐前郡平城主
「ねぇねぇねぇ、それで氏康死んだの?」
桔梗ちゃんが興味津々な様子で、報告に来た影衆に先を催す。
「確証は御座いませんが、譜代衆の必死の殿(しんがり)で、僅かな手勢と共に小田原城まで逃げきったようでございます」
「しかし若様、小笠原長時が、我らの戦術を先に使うとは思いませんでした」
楓ちゃんが驚きを隠せない表情で話しかけて来た。
「まあ長時には、神田将監が後見人として付き従ってるからね。此方が鉄砲隊を封印していたとはいえ、騎馬隊を使って散々後方攪乱を行い、俺達を苦しめた強者だ。俺達に並々ならぬ恨みを抱いているだろし、当然俺達の戦略戦術を徹底研究して、自分達でも取り入れ、更に対抗策まで考えていたのだろう」
「しかし騎馬鉄砲と騎馬弓の連携を先に使われてしまって、私たちが切り札を使わぬうちに、世間に知れ渡ってしまいました」
楓ちゃんが悔しそうに言うが、こればかりは仕方が無い。
「仕方ないさ、皆生き残るのに必死だからね。でも大砲隊を組み込んだ戦術までは、思いついていないようだから、まだ切り札は残っているよ」
「ねぇねぇねぇ、それより北条の続き話してよ」
桔梗ちゃんは北条が叩きのめされたのが面白いのか、戦術構想よりも合戦の経過と結末を聞きたがった。
「はい、北条軍と関東軍は、盾隊を先頭に叩き合いを続けたのですが、そうなると倍の兵力を持つ関東軍が有利となります。北条騎馬隊の横槍は、小笠原騎馬隊に防がれ叩きのめされてしまいました。最後は北条方国衆兵の逃亡が始まり、友崩れが起こり陣立てが崩壊して、全面敗走となりました」
「それでそれで」
桔梗ちゃんの目が爛々と輝いている、北条の負け戦がそんなに面白いのか?
「は、関東諸将が手柄を目指し追い首を狙うなか、小笠原騎馬隊は氏康を討ち取るべく追撃に専念したのですが、北条譜代衆が決死の殿(しんがり)を見せて、小笠原の足を止めに掛かりました」
「流石に北条には忠臣がいるのですね、でも小笠原は鉄砲と弓を上手く使いこなしていたのでしょ? 殿(しんがり)が頑張(がんば)ろうとも逃げきれないと思うのですが?」
茜ちゃんが北条を褒めつつ、疑問を投げかけた。
「は、1人2人の譜代衆が殿(しんがり)を務めたのではなく、幾人もの譜代衆が、死を覚悟で小笠原の前に立ちふさがり、騎馬の足を止めておりました」
「それでは譜代衆は、ほぼ全滅したのではないの?」
楓ちゃんが確認する様に聞く。
「はい、譜代衆だけでなく、一門衆もほぼ全員討ち死になされたようです。氏康殿も小田原城に辿り着いたものの、どれほどの手傷を受けているのかが分からず、生死の確認までには至っておりません」
「そうですか、籠城か野戦かの選択が明暗を分けたのでしょう。ですが籠城したとしても、小笠原の略奪後方攪乱で、今年の年貢は見込めなかったでしょうし、仕方ない選択だったのでしょうか?」
最初は自問自答していた楓ちゃんだが、自分だったら取っていた戦術を思い浮かべながら、俺にも取るべきだった戦術の確認をしてきた。
「そうだね、でもいくら小笠原でも、山間部の略奪は難しから、全ての領地で年貢が無くなる訳では無いからね。特に伊豆はほぼ全域安全だろうし、俺なら歩兵だけで籠城戦を行い、騎馬部隊を略奪に投入したね」
「若様が民から略奪するの?」
桔梗ちゃんが少し哀しそうに聞いてきた。
「うんやるよ。まあそこまで追い込まれないように、先に色々と手を打つけど、桔梗ちゃんたちを守って餓えさせない為なら、俺は鬼になるよ」
「うん、ありがと」
桔梗ちゃんが嬉しそうに恥ずかしそうに、でも少し哀しそうに返事してくれた。
「この後はどう動くのでしょうか?」
茜ちゃんは、この戦の影響が、俺たちにどう降りかかって来るのかが、少し心配なのだろう。
「そうだね、こうなると御屋形様の同盟条件が厳しくなるだろうね、いや属領扱いにするかもしれないね。北条の姫は人質として嫁いでくるだろうけど、此方からの嫁入りは無いだろうし。兵糧と軍資金の援助を条件に、伊豆水軍に今川水軍の殲滅を依頼するだろうね」
「関東軍が上野口から、我らに攻め掛かかってくる事は有りませんか?」
楓ちゃんが、また関東の勢力図を思い浮かべているようだ。
「そうだね、多くの国衆が関東軍に加わるけど、決して一枚岩では無いからね。実質的な支配者は佐竹で、声望は小笠原が独占するだろう。でも古河公方と関東管領の上杉も、密かに巻き返しを図るだろうしね」
「この後派閥争いが起こると御考えなのですね」
楓ちゃんが、我が意を得たりと自説を披露した。
「そうだね、佐竹は常陸の完全制圧と関東切り取りを画策するだろうし、小笠原は武田憎しで、甲斐信濃に攻め込む事を望むだろうね。古河公方は武蔵の領有と、相模と伊豆の回復するのに、北条を滅ぼす事を主張するだろう。上杉は上野、下野、下総、武蔵の領有と、越後侵攻を主張するかな」
「では分裂してしまい、北条攻略は達成できないとお考えですね?」
楓ちゃんが結論を急いでいるのか、それとも俺を試しているのかが読めない無表情で、この話を締めくくろうとする。
「いや絶対ではないよ。軍師の神田将監がいるし、過去の敗戦に学べる者が他にもいるかもしれない。何より国衆が、小笠原騎馬隊の奇襲夜襲略奪を知ってしまったからね。農兵を動員せずに、安全確実に稼げる方法を知ったんだ。籠城に徹するしかなくなった北条以外の、危険な敵に掛かる事を嫌がる可能性が有るね」
「確かにそうですね。我々や上総武田に向かうと、勝てるとは限りませんが、今の北条には、略奪騎馬隊に対抗する術は無いですものね」
茜ちゃんが同情するように話に加わった。
「ねぇねぇねぇ、それより北条の姫は若殿の側室に入るのかな?」
桔梗ちゃんは、閨房(けいぼう)の行方の方が気になるようだ。
「それは無いだろうね、後継者争いは嫌だから、四郎以下の誰かの正室だろうね」
7月陸奥会津の曽根昌世と山之内俊清
「俊清殿、晴綱殿と晴光殿の臣従をどう思われるか?」
「晴綱殿は、蘆名との戦で苦戦しておりましたし、佐竹の北上にも苦戦しておりました。鷹司卿の庇護を受けた上で、佐竹に復仇したいのでしょう」
「それは少し拙いな、若殿が関東攻略をどう御考えか指図を受けておらん、晴綱殿には佐竹攻略は控えて貰わねばならん」
「分かりました。私から、鷹司卿の指示なしでの私戦は禁止と伝えておきます。それと晴光殿は、蘆名と田村の所領を奪われておりましたから、早く臣従しないと、鷹司卿に滅ぼされると思ったのかもしれません。所領と扶持を保証する限り、裏切る事は無いと思われます」
「それは安心ですね。ですが岩城重隆は、油断できないのではありませんか」
「難しい所ですね。確かに娘の久保姫を伊達晴宗に嫁がせ、この間に出来た子を嗣養子に迎えています。しかしそもそも輿入れも嗣養子も、重隆殿が戦に敗れて、無理矢理承諾させられたものです」
「どう言う事情なのです?」
「久保姫は奥州一と評判の美少女だったのですが、当時重隆殿は結城家と結んで、伊達、相馬、田村の連合に対抗しようとしておりました。その為久保姫を、結城家に輿入れさせようとしたのですが、相馬家から伊達家へ嫁入りさせる様に仲介が来たのです」
「それは強引な横槍ですな」
「はい、重隆殿が先約があると断ったのですが、伊達稙宗殿がそれを言い掛かりに、合戦にまで持ち込もうといたしまして」
「まさかの嫁取合戦が勃発したのか?」
「それがまぁ聞かれよ。重隆殿がそれでも結城晴綱殿への嫁入りを強行させようとしたのですが、事も有ろうに伊達晴宗が軍勢を率いて嫁入り行列を襲撃し、久保姫を攫って行ったのです」
「花嫁強奪ですか、物語になりそうな話ですが、久保姫は自害も抵抗もしなかったのですか?」
「ここからがまさに物語と言えるのですが、久保姫は晴宗を夫と認めたのです」
「襲撃するほど惚れられるのは、女冥利(おんなみょうり)と思われたのか? しかしそこまで体面を汚されて、重隆殿はどうされたのだ?」
「娘を人質に取られた状態でも反伊達を貫き、自害しなかった久保姫に勘当を申し渡した結果、城を伊達、相馬、蘆名、石川、二階堂の連合に囲まれ、逼迫(ひっぱく)されました」
「重隆殿は誇り高き武士ですな。しかしそれでも、家名と血脈を残す為に、膝を屈するしかなかったのですな」
「はい。しかしながら、重隆殿は容易く下られた訳では無いですし、武士の意地も貫かれています」
「どう言う事です?」
「久保姫からの、晴宗との婚儀を認めてくれるよう書かれた書状を何通も受け取っても、籠城を続けられました。最後には、嫡男が産まれたら岩城家に養子に出すとの約定を結んで、意地を貫き誇りを守った上で、開城と婚儀を了承されました」
「なんと! 伊達晴宗は、長男を岩城家の養子に出す約束をしたのですか? しかもそれを守ったのですか? 後々の御家騒動の元ではないですか?」
「はい、今岩城家の嗣養子は伊達晴宗の長男です。しかも晴宗は久保姫にぞっこんで、側室も置かず子作りに励んでおりますよ」
珍しく俊清が茶化すように締めくくった。
「まさに物語ですが、久保姫は1つ間違うと、傾国の美女にも成り得ますな」
昌世は真顔に戻って話しかけた。
「確かにさようですな。しかしながら、己が血を分けた孫が伊達と岩城の当主となるのです。重隆殿ほどの漢なら、愚かな大将になど育てますまい」
「うむ、そこをつけ込むのは無理がありますかな? だがそれでは、家名に泥を塗られた結城家はどうしたのです? 晴綱殿の面目は丸つぶれでしょう? 伊達との合戦は起こらなかったのですか?」
「滑井合戦と言われる戦が起こったのですが、武勇拙く晴綱殿は敗れてしまいました」
「嫁を奪われ戦に負けるとは、踏んだり蹴ったりですな」
「はい。その所為か、後に起こった天文の乱では、稙宗と晴宗の父子どちらの味方もせず、積極的にこの乱に参加しませんでした。」
「ならば伊達の攻略には、結城家は当てにしてもよいですな」
「それはそうなのですが、皆家名と血脈を残すことに必死でございますから、勝てぬと分かれば、いくら恨み骨髄の伊達家が相手でも、戦は仕掛けますまい」
「なるほど、戦を仕掛けるなら必勝態勢を築いてからですな」
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