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転生武田義信

克全

第101話私的軍議

6月信濃諏訪城の奥殿:鷹司義信視点

「各地の戦況が思わしくないね」

桔梗ちゃんが、言いにくいことをあっけらかんと言ってくれる。

「敵も必死なのだから、そういうこともあるわ」

茜ちゃんが俺の心情を慮(おもんばか)って窘(たしな)めてくれるが、俺の将軍家と今川家への対策不備の所為だから、ここは正面から受け止めなければいけない。

「いや俺が手筋を誤った所為だ、ここはじっくり修正して、不敗の体制を築き直さないといけない」

「ここははっきりと、各地の攻守を決めておきましょう」

楓ちゃんは各地の戦況と兵力配備、さらには敵味方将兵の能力と性格を頭の中で描きながら、俺に決断を催してきた。

確かに今は、すべての場所で勝ちに行くには戦力不足だ、切り捨てる場所を決めなければいけない。

「そうだね、三河と遠江の海岸線は放棄しよう」

「調略して招いた、佐治水軍をお見捨てになるのですか? それでは今後の調略に悪影響を及ぼすのではありませんか?」

茜ちゃんが痛いところを突いてきた。

「若様、 兵器の出し惜しみはいけません」

楓ちゃんが俺の顔を窺(うかが)いながら、窘(たしな)めるように、確かめるように言ってくる、

「わかっているよ、遠津淡海(とおつあわうみ)(浜名湖)は放棄しないで、佐治水軍を湖内に招いて増強訓練するよ。湖の入り口の両端に大砲部隊を配備して、今川水軍の侵入を防ぐよ」

「いっそ今川水軍を遠津淡海(とおつあわうみ)(浜名湖)に誘い込んで、殲滅いたしませんか?」

楓ちゃんが真剣な表情で、突っ込んだ策を提案してきた。
確かに秘密兵器の大砲を表に出す以上、戦況をひっくり返すような戦果を期待したい。

「今川水軍を誘い込めるような、餌になるものがあった?」

「確実に遠津淡海(とおつあわうみ)に誘い込めるとは限りませんが、我らが高天神城を囲めば今川は必ず背後に兵を上陸させようとするでしょう。素直に高天神城に援軍を送り込んでも、何時ものように攻め滅ぼされるのは分っておりましょう」

確かに今川も、遠江に残っている国衆を見捨てることはできないだろうな。

「銭を使って百姓集を動員する。遠津淡海(とおつあわうみ)岸以外の支配域海岸線に土塁を築かせ、信智叔父上には高天神城の支城群を堅実確実に攻め落としてもらう」

「それならば大丈夫ですね」

茜ちゃんがほっとしたように話を終わらそうとした。

「大浦為則(おおうらためのり)て病弱だったよね?」

また桔梗ちゃんの中で何かが閃いたのか?

「何が言いたいの?」

楓ちゃんも真剣に聞き返している、彼女も桔梗ちゃんの閃きには一目置いているからな。

「お腹がすいたり病気になったりすると、弱気になるからさ~」

桔梗ちゃんが昔を思い出すようにしんみりと話し出した、確かにその通りだ。

「調略をかけるべきかな? 条件はいつもより優遇すべきか?」

「南部を滅ぼせるなら、一門に加えられてもいいのではありませんか?」

楓ちゃんは婿を送ることを考えているようだ、ここまで行くと御屋形様の許可がいるな。

「分った、御屋形様と相談してみよう。南部を滅ぼせて、領地を武田の一門で押さえられるなら、それが一番いいだろう」

「塩松城主の石橋尚義が、家臣に幽閉されております。助け出して味方に取り込みましょう」

楓ちゃんが次々と策を提案してくる。

彼女には俺が手緩く見えるのかもしれない。

「石橋四天王が主家を横領してるんだったね?」

「塩松城と周辺の少領を安堵して、家臣たちの城地は攻め取りましょう」

確かにそうだが、それを安全に為すには、二本松を避けては通れない。

楓ちゃんは二本松を滅ぼす心算なのか?

「石橋四天王」
大内義綱:小浜城主
大河内備中:宮森城主
石川有信:百目木城主
寺坂信濃:寺坂城主

「二本松城主の二本松義国をどうする心算だい?」

「義国は田村と蘆名に圧迫され、著しく領地を減らしております。半知安堵・半知扶持化で、半知分近衛府出仕なら、家名と血脈を残せる道が増えます。既に元の城地以上の知行を給付されている、信濃衆や越後衆もおりますから、その事を例に説得すれば旗下に入りましょう」

まあ楓ちゃんも、俺が不利になれば陸奥衆が離反することを承知して、積極策を提案しているのだろう。
出羽陸奥では攻勢防御を仕掛けて、今支配下にある領地に敵軍を入れない心算なのだろう。

「そうだな、昌世にはそのように指示しよう」

「加賀の一向衆は、信繁様にお任せすれば間違いございません。ただ王直のジャンク船団に、遠江に兵糧輸送を依頼するように、連絡していただけませんか?」

目の奥を光らせるほど真剣に、楓ちゃんが提案してくるが、流石だね。

俺が秘かに叔父上にお願いしていたことを、知らずに提案してくる。

少々輸送料は高くついてでも、今川水軍を粉砕して兵糧を遠江に運び入れて貰えれば、武田家としたら最高だからね。

以前考えていた、新造ジャンク船が完成するまで待つ必要などない。

「それは大丈夫だよ、叔父上にはお願いしてあるから」

「差し出がましいことを申しました」

恥ずかしいような悔しいような表情で謝ってくるけど、楓ちゃんがいなければ失念することも多いからね、ここは褒めておかないとね。

「そんなことはないよ、楓ちゃんのお陰で失念していた事を補うことができているよ、これからも積極的に提案してくれたら助かるよ」

「そうよ、若様は何時も精一杯頑張られておられるから、ついつい失念されることもあるわ、私たちで支えて差し上げないといけないわ」

茜ちゃんが、俺と楓ちゃんを同時に労わってくれる、有り難いな。

「ねぇねぇ信長味方にしないの?」

また桔梗ちゃんがとんでもない事をぶち込んできたな。

「なんでそう思うの?」

「だって昔から若様は信長警戒してたでしょ? それほど才能があるんだったら、味方にしたらいいんじゃないの?」

目から鱗が落ちるな!

生まれ変わってこの方、信玄・信長・謙信を、最大の障壁として警戒していたからな。

でも信玄を殺すとか、信長と謙信を味方にする発想は一切なかったな。

「桔梗ちゃんはどう思う?」

「若様が、名を汚す覚悟が御有りかどうかにかかっております」

随分と真剣な表情だな、後々信長を暗殺することすら考えているな。

「必要かな?」

「信長が、若様の旗下で一生を終える事が出来るかで決まります。謀反を起こさせてから鎮圧するより、事前に処理した方が、家臣領民の死人を少なくできます!」

あぁまた驕り高ぶっていたか、己の名誉を重んじて、家臣領民の死傷を軽視していたようだな。

信長と一時的に同盟してから暗殺したほうが、敵味方の死傷者数が少なくなるなら、暗殺すべきだな。

「分った考慮しよう、いや必要ならやってのけよう」

「そのお覚悟がお有りなら、北条や浅井との一時的な同盟も、考慮されてください」

そうだよな、最終的に家康のような絶対的な権力を得て、300年の太平を手に入れる為なら、途中の汚名は甘んじて受けるべきだな。

北条も攻め滅ぼす心算だったから、後々謗(そし)られないように、同盟に消極的だったけど、ここは御屋形様に提案すべきだな。

少数でも北条が伊豆方面から攻め込んでくれれば助かるし、伊豆水軍を投入してもらえれば、戦局を大きく覆せる。

「分った、北条と浅井の事も、御屋形様に話してみる。しかし浅井久政は、嫡男と妻を観音寺城に人質として差し出していたよな?」

「浅井家の家臣団は、六角家の横暴に不満を募らせております。一時は浅井亮政の嗣養子に選ばれていた田屋明政(たやあきまさ)や、亮政の実子で久政の弟である政弘、高政、秀政を支援して、家臣団を切り崩すこともできますし、直接家臣団に調略を仕掛けてみてもいいでしょう。また元々の主家である、京極高延と高吉を支援することもできます」

浅井家は内部工作し易い家だな。

「分った、その手で行こう」

「ねぇねぇねぇ、本気出そうよ」

桔梗ちゃんが、茜ちゃんと楓ちゃんを交互に見て、意味ありげに言い出した、恐ろしい。





7月三河と遠江:第3者視点

義元と一向衆が、やらかしてくれた。

俺たちの策を読んで、その上手を行ったのか、それとも全くの偶然なのかは分らない。

だが事もあろうに、水軍をつかって、大量の一向衆を西遠江に上陸させやがった。

遠津淡海(とおつあわうみ)より東の海岸や、豊川左岸には土塁を設けて守備力を高めていたが、西遠江海岸線までは手が回らなかった。

一向衆は、他宗派の人たちを殺し略奪する事が、正義だと思ってやがる。

西遠江の海岸線に多くの拠点を築いて、乱暴狼藉の限りを尽くしている。

唯一の救いは、ほとんどの農民が、家族を連れて足軽に志願していたことだ、農閑期で本当によかった。

滝川一益率いる騎馬鉄砲隊が、豊川防衛を離れて迎撃に専念してくれている。

豊川左岸の土塁が完成して、柵や屋根付き塀も完成していたのが大きい。

この状況なら、志願足軽家族の投石でも戦力になるだろう、しっかり練習してもらわないといけない。

信智叔父上は、馬伏塚城・岡崎城・頭陀寺城などを次々と落城させ、情け容赦のない火責めと銭の攻勢を、連日連夜仕掛けていった。

配下の兵を3交代制にして、自分達は十分休憩しつつ、敵軍には一睡もさせない攻撃を続けられている。





7月出羽陸奥の漆戸虎光と浅利勘兵衛:漆戸虎光視点

「買い占めは進んでいますか?」

「はい、浪岡中将も積極的に協力してくださり、多くの牛馬が集まっております」

「味方の国力戦力が減っては意味がないから、敵方から買い占めて貰わねばならぬのだが、その点は大丈夫ですか?」

「その点は十分話してありますから、大丈夫でしょう」

「まあ暫く我らが討って出ることはないでしょうから、少々の事は問題ないでしょう。ですが敵が攻め込んできた時に、軍役通りの騎馬が集まらないと処分されること、周知徹底しておいてください」

「承りました。ですが鷹司卿から、直々に牛馬の買い占めが指示されるとは思いませんでした。馬料の問題で、騎馬隊を諏訪から分散されていると噂を聞いていたのですが?」

「何か秘策があるのかもしれません。5000騎以上の訓練済みの軍馬を、敵から買い集めろと鳩が来たのには、流石に私も驚きました。ですが多くの鉄砲を、管領軍から鹵獲したとも聞きます。その鉄砲を、尾張、三河、遠江に投入するお心算なのかもしれません」

「まあ武田銅貨は出羽諸国で人気ですからな、市で薬草や焼酎を買うには、どうしても不可欠ですから」

出羽と陸奥の領民には申し訳ない事だが、こればかりは仕方がない。

若殿の支配下にある商人は、若殿の命令で、徐々に武田銅貨でしか物を売らなくなっている。

ほかの商人からでも買えるものは、精銭・永楽銭・鐚銭でも売るが、武田家の独占商品は武田銅貨でしか売らない政策を始めている。

これは商業からの、武田支配体制の確立かもしれない。

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