転生武田義信
第94話公界
5月信濃諏訪城の九条簾中部屋:鷹司義信視点
「九条、悪阻(つわり)は辛くないか?」
「もう1月もすれは産み月でございますし、わらわは元々軽いほうですから大丈夫でございます」
「ならばよいのだが、太郎や次郎の時は戦で諏訪に居れず、そなたには不安な思いをさせてしまった」
「まあ、有難き御言葉なれど、殿方はそのような御心配などなされずともよいのではありませんか? 特に殿下は武家の出でございましょう」
「おいおい、殿下って俺のことかい? その呼び方問題がないか? 殿下は皇族方や摂政関白だけの尊称じゃないの? 俺は元々武家だからその辺は疎いんだけど」
「まあ、では御屋形様と申し上げるべきなのでしょうか? でもそれでは義父上様と同じになってしまいませんか?」
「変な話になってるね、でも大切なことだよね。武田家はその辺が曖昧(あいまい)になってしまっているんだ。俺が体裁(ていさい)上鷹司家の当主になってしまったからね、家臣によってまちまちなんだよ。俺を武田家の次期当主として重く考えてくれている者は若殿と呼ぶし、鷹司家の当主としてみている者は卿と呼ぶからね」
「ではわらわは何と呼ぶべきなのでしょうね?」
「若殿でいんじゃないかな? それとも鷹司卿か略して卿って呼ぶ?」
「今は若殿と呼ばせていただきます、いずれ短期間でしょうが、関白就任のお話も出るでしょうから、その時に改めて殿下と呼ばせていただきます」
「別に関白職には興味ないんだけど、役に立つ事も有るかもしれないから、短期だけ就任させてもらうよ」
「それが宜しゅうございます」
5月信濃諏訪城の奥殿:鷹司義信視点
「若様、もう妊娠しても大丈夫でしょ?」
桔梗が、子供が欲しいと言う願望一杯の表情と声色で訊ねてきた。
「いやここまで待ってくれたんだから、もう少し待ってよ」
「そうよ桔梗ちゃん、あと1月ほどで簾中様も3人目を御出産だし、男の子を御産みになられたら、私たちも安心して妊娠できるのだから」
「でも若殿が何時御出陣されるかわかったものではないわ」
桔梗ちゃんは、茜ちゃんに拗(す)ねたように答えた。
「大丈夫だよ、俺は暫く出陣しないよ。ここから色々工作する心算だから」
俺も桔梗ちゃんを宥(なだ)める様に優しく答えた。
「どのような工作を成されるのですか、若殿?」
楓ちゃんが何時もの謹厳実直(きんげんじっちょく)な様子で聞いてきた。
「伊勢の公界と、熱田、津島を切り崩そうと思ってるんだ」
「伊勢はともかく、熱田と津島は信長の資金源で、大切にしておりますよね? 若殿が信長以上の特権を御認めになれば、後々若殿の枷(かせ)になりませんか?」
楓ちゃんが謹厳実直な様子を崩すことなく、疑問と心配を問いただしてきた。
「説明が複雑になるから、よく聞いてね。まず1番大事なのは、信長の武力の根本が一向宗に移ってしまったことなんだ。それにより神社を核とした、熱田と津島は苦境に立っているんだ」
「あ! 一向宗は加賀でも越中でも他宗派の寺社仏閣を破壊し、他宗派の人々を虐殺(ぎゃくさつ)して家財を奪いましたね」
「そうなんだ、最初に津島の説明をすると、津島神社を中核とした門前町であると同時に、木曽川の分流である天王川を少し遡ったところにある河港町でもあるんだ。大橋家を筆頭とした四家七苗字四姓の、町の中心人物で土豪の南朝方15党が、惣を作って自治してるんだよ」
「四家」
大橋修理太夫定元
山川民部少輔重祐
岡本左近将監高家
恒川左京太夫信矩
「七苗字」
堀田家・平野家・服部家・鈴木家・真野家・光賀家・河村家
「四姓」
宇佐見家・宇都宮家・開田家・野々村家
「一向宗が彼らを支配下に置こうとしているのですか?」
「そうのようだね、寺領として取り込むか、無理なら破壊略奪して一向宗支配下の湊がその代行をするつもりのようだね」
「信長はそれを許すのですか?」
「いや、それはできないだろうね。それを認めたら、独自の資金源を絶たれて、完全な一向宗の傀儡になる。それに信長の妹くらの方が、大橋家現当主の大橋重長の正室として嫁いでいる」
「熱田の方はどうなのですか?」
茜ちゃんも気になるのだろう、横から訊ねてきた。
「それはね、熱田神宮大宮司の千秋季忠は、幡豆崎城主で信長の家臣でもあるんだよ。幡豆崎城は知多半島南端にあって、海路を守る大切な城でもあるんだよ」
「それは信長が湊を支配しただけではなく、海路も確保したということでしょうか?」
「そうだね、少なくとも知多半島側の安全は確保しているね」
「若殿、伊勢側はどうなのでしょうか?」
楓ちゃんは、尾張の情勢を頭の中で描いて戦略戦術を練っているのだろう、状況を確認してきた。
「それはね、一向宗の長島も湊でもあり海賊衆もいるんだよ。だから信長は、完全に尾張の海を支配しているわけではないのだよ」
「桑名も一向宗の影響が大きいのでしょうか?」
茜ちゃんも一向衆の力を確認してきた。
「うんそうだね、桑名には伊藤氏・樋口氏・矢部氏の3人の有力者がそれぞれ城館を構え、その下に三十六家氏人(三十六人衆)が居るんだけど、彼らにも一向宗は影響力を持っているね。ただ桑名は元々禁裏御料所でね、十楽の津とも言われ色々と特権を与えられているんだよ」
「どのような特権なのですか?」
「そうだね、守護不入に地子銭・諸役免除だろ、あ、皇室に対するものは別だよ。自由に商売できるし徳政令も免除されているね。外界にいた時の隷属関係や賃貸関係からは解放されるし、連座制も否定していたかな? そんな感じだよ」
守護不入権
地子、諸役免除(天皇に対する貢納を除く)
自由通行の保証
徳政令免除
平和領域、平和集団
私的隷属からの解放
貸借関係の消滅
連座制の否定
老若の組織(年齢階梯的秩序原理)
「でもそれでは守護や領主には不都合すぎますし、犯罪者の逃亡先になりかねません。それに現実には、権力が武家から一向宗や商人に移っただけではないでしょうか?」
流石に楓ちゃんは鋭い、公界の弊害に気づき確認してくる。
「うん、そういう側面はあるね、ただ上手く付き合う方法もあると思うんだ」
「若様の領地の自由とどう違うの? 同じじゃないの?」
桔梗ちゃんは俺の政策との違いが気になるらしい。
「それはね、俺に対する地子銭や諸役は必要だし、いつでも介入する用意はあるからね。楽市楽座ではあるけれど、他国から逃げてきたからと言って、他国での私的隷属(主従・奴隷関係)や貸借関係をなしにしていないからね」
「でも元奴隷は解放してあげてるでしょ?」
「まあ解放というより証拠不十分だろうね、生産衆、黒鍬衆、足軽衆として働いてくれている限り、元主人が来ても門前払いだし、城内には他国者は入れないからね。横道にそれちゃったけど、話を戻すよ」
「うん、いいよ」
「桑名は元々禁裏御料所でもあったので、一向宗と同時に朝廷の影響もあってね、一向宗の攻撃を防ぎ切れるなら調略も可能かもしれないんだ。だから少しづつ切り崩そうと思っているんだよ」
「そうなんだ」
「それとね、松坂湊も桑名と同じで特権が与えられていて、咎人(とがにん)が逃げ込んでいるんだよ」
「咎人(とがにん)と申しますと?」
楓ちゃんは、どんな犯罪者が逃げ込んで切るか気になるらしい。
「まあ早い話が、守護や地頭に逆らった人だけど、場合によっては他の公界から逃げ込んでくる場合もあるね」
「行き過ぎると、無法が蔓延(はびこ)ってしまうのですね」
「そうだね、絶対守らなければならない根本の法は必要だね。次に大湊だけど、ここは伊勢神宮の外湊の役割があって、北畠殿の支配下にあるんだけど、上納金と引き換えに、廻船問屋が結成した24人の会合衆による自治が認められているんだよ。まあ周辺の地域と合わせて、浜七郷ともいわれてるから、大湊単独で切り崩すか、浜七郷として切り崩すか、北畠殿に影響力を行使するか迷うんだけど、北畠殿に頼むのが早いかな」
「では北畠家と誼を結ばれて、大湊に影響力を及ぼされる御心算なのですね」
「そうだよ、浪岡が仲介してくれてるからね。九条の義父上を初めとする、公家衆も動いてくれている。今川が伊奈を攻めてから色々あって、京に何一つ送れてないし、伊那にいる公家衆も思うところがあるんだろうね、必死で動いてくれているよ」
「若様が怒って荘園を横領したり、家職銭を止めると思ってるのかな?」
桔梗ちゃんは俺の内心が気になるのかな?
まあ伊那を焼き討ちされた恨みは忘れてないからな、そのことに気が付いているのだろう。
「そうだね、公家衆は怖がっているんだろうね、また話をもどすね」
「うん、いいよ」
「入港税例」
伊勢大湊の1565年(永禄8年)冬の1ヶ月の船入港が119隻、そこから納められた入港税34貫870文(当時の米価は一石あたり600文前後)
34870÷600×12=約687石
「次に伊勢山田だけど、ここは伊勢神社外宮鳥居前の門前町でね、重立衆24家があって、須原、坂、岩淵から選ばれた山田三方が自治をしてるんだけど、伊勢神社内宮鳥居前の門前町の宇治と争っていてね、昔に外宮正殿を炎上させてしまったことがあるんだ」
「今もそれが続いていると言われるのですか?」
楓ちゃんが、また宇治山田の情勢を頭の中で描いて戦略戦術を練っているのだろう、状況を確認してきた。
「そうなんだよ、宇治は元々宇治六郷と呼ばれる岩井田と岡田の上二郷と、中村、朝熊、楠部、鹿海の下四郷が代表を出して自治していたんだけど、朝熊と鹿海の2郷が宇治を裏切って、山田と一緒に宇治を攻めてね、死傷者を出し穢れを出してしまったのだよ」
「外宮正殿を炎上させたのもその時ですか?」
「それは少し前の合戦だね。宇治に北畠家が味方してね、追い込まれた山田方の者が自暴自棄になって、自ら放火してしまったのだよ」
「なんて愚かなのでしょう、今も宇治が優勢なのですか?」
「いや、今は山田が優勢だよ。」
「朝熊と鹿海の2郷が宇治を裏切ったからですか?」
「まあ裏切るだけの理由があるんだよ。山田は伊勢神社外宮禰宜を務める度会一族重代家の、松木、檜垣、宮後、河崎、久志本、佐久目の六家が仕切っているとも言えてね、理由は度会家が伊勢神道を興して、外宮の方が内宮よりも格が上であると主張を始めたからだそうなんだよ。しかも外側にあるのをいいことに、内宮への道を封鎖してしまってね。領民数も、山田のほうが5倍ほど多いんだよ。朝熊と鹿海は、勝ち目のある方についたんだよ」
「酷いですね!」
「どこでも内部対立抗争はあるからね。まあ山田は、伊勢神社外宮禰宜を務める度会一族重代家の、松木、檜垣、宮後、河崎、久志本、佐久目の六家を抑えれば大丈夫だと思う。宇治も今は六郷と言いながら、岩井田、岡田、中村、楠部を「上四郷」として、宇治会合50家から宇治会合年寄4人の代表を出して、彼らだけで自治してるよ。宇治も、伊勢神社内宮禰宜を務める荒木田一族重代家の、薗田、中川、佐八、藤波、世木、井面、沢田の七家を抑えれば大丈夫だと思うよ」
「若殿、御聞きして思ったのですが、ほとんどの公界が南朝の流れを汲んでおりませんか?」
「よく気づいたね、そうだよ、そこが付け入るところだよ」
「まさか南朝の家系を探し出すのですか?」
「そんなことしないよ。調べたのだけど、北畠家は北畠親房の時代には清華家だったと言う話もあるし、九条の義父上とも話し合って、適当な家格を与えて公家に取り込めないかと思ってね」
「それで津島も取り込むのですか?」
「1つの手ではね、まあ資金的にも、式年遷宮援助した俺の支援が止まってるからね」
「家格での懐柔に資金封鎖ですか?」
「やりたくてやってる訳ではないんだけどね、結果的に京にも伊勢にも何も送れないからね」
「ねえねえ若殿、教えて欲しいだけど、尾張の支配者は信長と一向宗のどっちなの?」
桔梗ちゃんが唐突に核心に迫ることを聞いてきた、やはりこの子は侮(あなど)れない。
「えらくまた話が飛ぶね」
「え~、でもさっきからの話だと、尾張って、海路での貿易とその拠点の公界が支えてるんじゃないの? それを使えば、尾張を支配できるんじゃないの?」
「海側は影響力が大きいだろうね」
「でも一向宗の河内長島を中心に、木曽三川を使えば尾張を包囲できない?」
「ちょっと考えてみるよ」
「九条、悪阻(つわり)は辛くないか?」
「もう1月もすれは産み月でございますし、わらわは元々軽いほうですから大丈夫でございます」
「ならばよいのだが、太郎や次郎の時は戦で諏訪に居れず、そなたには不安な思いをさせてしまった」
「まあ、有難き御言葉なれど、殿方はそのような御心配などなされずともよいのではありませんか? 特に殿下は武家の出でございましょう」
「おいおい、殿下って俺のことかい? その呼び方問題がないか? 殿下は皇族方や摂政関白だけの尊称じゃないの? 俺は元々武家だからその辺は疎いんだけど」
「まあ、では御屋形様と申し上げるべきなのでしょうか? でもそれでは義父上様と同じになってしまいませんか?」
「変な話になってるね、でも大切なことだよね。武田家はその辺が曖昧(あいまい)になってしまっているんだ。俺が体裁(ていさい)上鷹司家の当主になってしまったからね、家臣によってまちまちなんだよ。俺を武田家の次期当主として重く考えてくれている者は若殿と呼ぶし、鷹司家の当主としてみている者は卿と呼ぶからね」
「ではわらわは何と呼ぶべきなのでしょうね?」
「若殿でいんじゃないかな? それとも鷹司卿か略して卿って呼ぶ?」
「今は若殿と呼ばせていただきます、いずれ短期間でしょうが、関白就任のお話も出るでしょうから、その時に改めて殿下と呼ばせていただきます」
「別に関白職には興味ないんだけど、役に立つ事も有るかもしれないから、短期だけ就任させてもらうよ」
「それが宜しゅうございます」
5月信濃諏訪城の奥殿:鷹司義信視点
「若様、もう妊娠しても大丈夫でしょ?」
桔梗が、子供が欲しいと言う願望一杯の表情と声色で訊ねてきた。
「いやここまで待ってくれたんだから、もう少し待ってよ」
「そうよ桔梗ちゃん、あと1月ほどで簾中様も3人目を御出産だし、男の子を御産みになられたら、私たちも安心して妊娠できるのだから」
「でも若殿が何時御出陣されるかわかったものではないわ」
桔梗ちゃんは、茜ちゃんに拗(す)ねたように答えた。
「大丈夫だよ、俺は暫く出陣しないよ。ここから色々工作する心算だから」
俺も桔梗ちゃんを宥(なだ)める様に優しく答えた。
「どのような工作を成されるのですか、若殿?」
楓ちゃんが何時もの謹厳実直(きんげんじっちょく)な様子で聞いてきた。
「伊勢の公界と、熱田、津島を切り崩そうと思ってるんだ」
「伊勢はともかく、熱田と津島は信長の資金源で、大切にしておりますよね? 若殿が信長以上の特権を御認めになれば、後々若殿の枷(かせ)になりませんか?」
楓ちゃんが謹厳実直な様子を崩すことなく、疑問と心配を問いただしてきた。
「説明が複雑になるから、よく聞いてね。まず1番大事なのは、信長の武力の根本が一向宗に移ってしまったことなんだ。それにより神社を核とした、熱田と津島は苦境に立っているんだ」
「あ! 一向宗は加賀でも越中でも他宗派の寺社仏閣を破壊し、他宗派の人々を虐殺(ぎゃくさつ)して家財を奪いましたね」
「そうなんだ、最初に津島の説明をすると、津島神社を中核とした門前町であると同時に、木曽川の分流である天王川を少し遡ったところにある河港町でもあるんだ。大橋家を筆頭とした四家七苗字四姓の、町の中心人物で土豪の南朝方15党が、惣を作って自治してるんだよ」
「四家」
大橋修理太夫定元
山川民部少輔重祐
岡本左近将監高家
恒川左京太夫信矩
「七苗字」
堀田家・平野家・服部家・鈴木家・真野家・光賀家・河村家
「四姓」
宇佐見家・宇都宮家・開田家・野々村家
「一向宗が彼らを支配下に置こうとしているのですか?」
「そうのようだね、寺領として取り込むか、無理なら破壊略奪して一向宗支配下の湊がその代行をするつもりのようだね」
「信長はそれを許すのですか?」
「いや、それはできないだろうね。それを認めたら、独自の資金源を絶たれて、完全な一向宗の傀儡になる。それに信長の妹くらの方が、大橋家現当主の大橋重長の正室として嫁いでいる」
「熱田の方はどうなのですか?」
茜ちゃんも気になるのだろう、横から訊ねてきた。
「それはね、熱田神宮大宮司の千秋季忠は、幡豆崎城主で信長の家臣でもあるんだよ。幡豆崎城は知多半島南端にあって、海路を守る大切な城でもあるんだよ」
「それは信長が湊を支配しただけではなく、海路も確保したということでしょうか?」
「そうだね、少なくとも知多半島側の安全は確保しているね」
「若殿、伊勢側はどうなのでしょうか?」
楓ちゃんは、尾張の情勢を頭の中で描いて戦略戦術を練っているのだろう、状況を確認してきた。
「それはね、一向宗の長島も湊でもあり海賊衆もいるんだよ。だから信長は、完全に尾張の海を支配しているわけではないのだよ」
「桑名も一向宗の影響が大きいのでしょうか?」
茜ちゃんも一向衆の力を確認してきた。
「うんそうだね、桑名には伊藤氏・樋口氏・矢部氏の3人の有力者がそれぞれ城館を構え、その下に三十六家氏人(三十六人衆)が居るんだけど、彼らにも一向宗は影響力を持っているね。ただ桑名は元々禁裏御料所でね、十楽の津とも言われ色々と特権を与えられているんだよ」
「どのような特権なのですか?」
「そうだね、守護不入に地子銭・諸役免除だろ、あ、皇室に対するものは別だよ。自由に商売できるし徳政令も免除されているね。外界にいた時の隷属関係や賃貸関係からは解放されるし、連座制も否定していたかな? そんな感じだよ」
守護不入権
地子、諸役免除(天皇に対する貢納を除く)
自由通行の保証
徳政令免除
平和領域、平和集団
私的隷属からの解放
貸借関係の消滅
連座制の否定
老若の組織(年齢階梯的秩序原理)
「でもそれでは守護や領主には不都合すぎますし、犯罪者の逃亡先になりかねません。それに現実には、権力が武家から一向宗や商人に移っただけではないでしょうか?」
流石に楓ちゃんは鋭い、公界の弊害に気づき確認してくる。
「うん、そういう側面はあるね、ただ上手く付き合う方法もあると思うんだ」
「若様の領地の自由とどう違うの? 同じじゃないの?」
桔梗ちゃんは俺の政策との違いが気になるらしい。
「それはね、俺に対する地子銭や諸役は必要だし、いつでも介入する用意はあるからね。楽市楽座ではあるけれど、他国から逃げてきたからと言って、他国での私的隷属(主従・奴隷関係)や貸借関係をなしにしていないからね」
「でも元奴隷は解放してあげてるでしょ?」
「まあ解放というより証拠不十分だろうね、生産衆、黒鍬衆、足軽衆として働いてくれている限り、元主人が来ても門前払いだし、城内には他国者は入れないからね。横道にそれちゃったけど、話を戻すよ」
「うん、いいよ」
「桑名は元々禁裏御料所でもあったので、一向宗と同時に朝廷の影響もあってね、一向宗の攻撃を防ぎ切れるなら調略も可能かもしれないんだ。だから少しづつ切り崩そうと思っているんだよ」
「そうなんだ」
「それとね、松坂湊も桑名と同じで特権が与えられていて、咎人(とがにん)が逃げ込んでいるんだよ」
「咎人(とがにん)と申しますと?」
楓ちゃんは、どんな犯罪者が逃げ込んで切るか気になるらしい。
「まあ早い話が、守護や地頭に逆らった人だけど、場合によっては他の公界から逃げ込んでくる場合もあるね」
「行き過ぎると、無法が蔓延(はびこ)ってしまうのですね」
「そうだね、絶対守らなければならない根本の法は必要だね。次に大湊だけど、ここは伊勢神宮の外湊の役割があって、北畠殿の支配下にあるんだけど、上納金と引き換えに、廻船問屋が結成した24人の会合衆による自治が認められているんだよ。まあ周辺の地域と合わせて、浜七郷ともいわれてるから、大湊単独で切り崩すか、浜七郷として切り崩すか、北畠殿に影響力を行使するか迷うんだけど、北畠殿に頼むのが早いかな」
「では北畠家と誼を結ばれて、大湊に影響力を及ぼされる御心算なのですね」
「そうだよ、浪岡が仲介してくれてるからね。九条の義父上を初めとする、公家衆も動いてくれている。今川が伊奈を攻めてから色々あって、京に何一つ送れてないし、伊那にいる公家衆も思うところがあるんだろうね、必死で動いてくれているよ」
「若様が怒って荘園を横領したり、家職銭を止めると思ってるのかな?」
桔梗ちゃんは俺の内心が気になるのかな?
まあ伊那を焼き討ちされた恨みは忘れてないからな、そのことに気が付いているのだろう。
「そうだね、公家衆は怖がっているんだろうね、また話をもどすね」
「うん、いいよ」
「入港税例」
伊勢大湊の1565年(永禄8年)冬の1ヶ月の船入港が119隻、そこから納められた入港税34貫870文(当時の米価は一石あたり600文前後)
34870÷600×12=約687石
「次に伊勢山田だけど、ここは伊勢神社外宮鳥居前の門前町でね、重立衆24家があって、須原、坂、岩淵から選ばれた山田三方が自治をしてるんだけど、伊勢神社内宮鳥居前の門前町の宇治と争っていてね、昔に外宮正殿を炎上させてしまったことがあるんだ」
「今もそれが続いていると言われるのですか?」
楓ちゃんが、また宇治山田の情勢を頭の中で描いて戦略戦術を練っているのだろう、状況を確認してきた。
「そうなんだよ、宇治は元々宇治六郷と呼ばれる岩井田と岡田の上二郷と、中村、朝熊、楠部、鹿海の下四郷が代表を出して自治していたんだけど、朝熊と鹿海の2郷が宇治を裏切って、山田と一緒に宇治を攻めてね、死傷者を出し穢れを出してしまったのだよ」
「外宮正殿を炎上させたのもその時ですか?」
「それは少し前の合戦だね。宇治に北畠家が味方してね、追い込まれた山田方の者が自暴自棄になって、自ら放火してしまったのだよ」
「なんて愚かなのでしょう、今も宇治が優勢なのですか?」
「いや、今は山田が優勢だよ。」
「朝熊と鹿海の2郷が宇治を裏切ったからですか?」
「まあ裏切るだけの理由があるんだよ。山田は伊勢神社外宮禰宜を務める度会一族重代家の、松木、檜垣、宮後、河崎、久志本、佐久目の六家が仕切っているとも言えてね、理由は度会家が伊勢神道を興して、外宮の方が内宮よりも格が上であると主張を始めたからだそうなんだよ。しかも外側にあるのをいいことに、内宮への道を封鎖してしまってね。領民数も、山田のほうが5倍ほど多いんだよ。朝熊と鹿海は、勝ち目のある方についたんだよ」
「酷いですね!」
「どこでも内部対立抗争はあるからね。まあ山田は、伊勢神社外宮禰宜を務める度会一族重代家の、松木、檜垣、宮後、河崎、久志本、佐久目の六家を抑えれば大丈夫だと思う。宇治も今は六郷と言いながら、岩井田、岡田、中村、楠部を「上四郷」として、宇治会合50家から宇治会合年寄4人の代表を出して、彼らだけで自治してるよ。宇治も、伊勢神社内宮禰宜を務める荒木田一族重代家の、薗田、中川、佐八、藤波、世木、井面、沢田の七家を抑えれば大丈夫だと思うよ」
「若殿、御聞きして思ったのですが、ほとんどの公界が南朝の流れを汲んでおりませんか?」
「よく気づいたね、そうだよ、そこが付け入るところだよ」
「まさか南朝の家系を探し出すのですか?」
「そんなことしないよ。調べたのだけど、北畠家は北畠親房の時代には清華家だったと言う話もあるし、九条の義父上とも話し合って、適当な家格を与えて公家に取り込めないかと思ってね」
「それで津島も取り込むのですか?」
「1つの手ではね、まあ資金的にも、式年遷宮援助した俺の支援が止まってるからね」
「家格での懐柔に資金封鎖ですか?」
「やりたくてやってる訳ではないんだけどね、結果的に京にも伊勢にも何も送れないからね」
「ねえねえ若殿、教えて欲しいだけど、尾張の支配者は信長と一向宗のどっちなの?」
桔梗ちゃんが唐突に核心に迫ることを聞いてきた、やはりこの子は侮(あなど)れない。
「えらくまた話が飛ぶね」
「え~、でもさっきからの話だと、尾張って、海路での貿易とその拠点の公界が支えてるんじゃないの? それを使えば、尾張を支配できるんじゃないの?」
「海側は影響力が大きいだろうね」
「でも一向宗の河内長島を中心に、木曽三川を使えば尾張を包囲できない?」
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