転生武田義信
第88話襲撃
3月美濃稲葉山城:義信視点
「将兵に疲れが見えるか?」
「はい、一向宗の執拗な嫌がらせに、厭戦(えんせん)気分が広がっています。皆望郷の念に囚われているようでございます」
「もう酒は切れてしまったのだな?」
「はい、戦傷者の消毒に使ったため、想定より早くなくなってしまいました。しかしお陰で戦傷で亡くなる者が、驚くほど減りました。こればかりは仕方なき事でございます」
「米や麦などの兵糧の買い入れと備蓄は、当初の想定以上なのだな?」
「それはもう、各城砦群に山の様に積み上げております」
「では将兵のために、あれを作るか。古参の近習衆は、俺と一緒に作った事があるだろう。もう農繁期に入る頃だから、一向宗も全力で攻めることはできまい。古参近習衆の指揮で、水飴を作って将兵を慰労してやれ」
第二次世界大戦時の慰問袋には、キャラメル・羊羹(ようかん)・大麻煙草・酒が主だったようだが、今の俺に与えてやれるのは水飴くらいしかない。
同じ釜の飯を食った戦友ではないが、各組の将兵が一緒に水飴作って食べれば、少しは気が紛れるかもしれない。
大麻煙草はこの時代では、普通に身近にあるのだが、どうも前世の影響か使う気がしない。将兵が使うのを禁止するほど野暮ではないが、積極的に与える気にはなれない。
3月酒人座:第3者視点
「それは真か!」
「はい、管領は鷹司卿が京に贈られる荷を襲い強奪する様に、六角様に依頼したようでございます」
「まさかそれを六角様が受けたと言うのか? いや受けたのだな、そして甲賀に命じた、だからお前がその事を知っているのだな?」
「はい、甲賀衆から密かに鷹司卿に知らせてくれと、内々に依頼がありました」
「甲賀衆の中にも、この依頼を嫌がっている者もいると言う事か?」
「はい、先の伊那焼き討ちを心から嫌悪している者もおりますので、それに続けて帝や朝廷に贈られる荷を襲うなど、畜生の所業と増悪しておりました」
「だが間に合うのか? すでに荷役は動き始めておるのではないか? いや、そんな悠長な事を言ってる場合ではないな。信頼できる者を厳選して、美濃の鷹司卿にこの事を伝えよう。他の座長にも伝えて、今後の対処を話し合う。よく伝えてくれた、内々でこの事を伝えてくれた甲賀衆の名も、鷹司卿に伝えてもよいのか?」
「いえ、それは長だけの胸に収めてください。儂が美濃から帰れなかった場合だけ、信頼できる者に教えて、鷹司卿の耳に入れて欲しいのです」
「分かった約束しよう、だがお前が直に美濃に行くのか?」
「これほどの大切な秘密を明かしてくれた者に対する礼儀です。次の小屋掛けに出れないかもしれませんが、お許しいただけましょうか?」
「許す! 気をつけて行って参れ」
「は!」
3月蒲生郡の保内商人:第3者視点
「しかしそれは本当の事なのか? いくらなんでも帝や朝廷への献上品を襲うなど、露見したら外聞が悪すぎて、利よりも損が多いのではないか? そこまで管領や六角様が愚かとは思えんがな」
「隊列を組んでの献上ではない、関を破る担ぎが少数で獣道を行くのだ。甲賀衆の手練れが秘かに襲えば、証拠など何も残らぬ。しかも運ばれている荷は、薬や焼酎に絹などの、目玉が飛び出るくらい高価な物だ。管領は鷹司卿からの支援が切れて、軍を維持できなくなってきている。背に腹はかえられぬのだろう」
「それが本当として、なぜ我らに知らせて来たのだ? 我らに鷹司卿に伝えろと言う事か? そのような危険を冒せるものか! 伝えたければ非人共が自分たちでやればよかろう」
「この情報は、内々に伝えられたものと、日吉大社を通じて伝えられたものがあるのだ」
「大社様からとは穏やかではないな、どういうことだ?」
「鷹司卿からの献上品が止まると、帝や朝廷が困窮為されると言う事だ! 鷹司卿の献上品で、帝や朝廷もやっと暮らし向きがよくなられたのは知っておろう。伊勢神宮の式年遷宮を執り行うことができたのも知っておろう、それが全て無に帰る事になり兼ねぬのじゃ!」
「そんな事を申しても、それが今のこの世ではないか。先の会合でも、六角様を欺(あざむ)いて商(あきな)いする事を決めたが、それ以上の危険を冒して何をさせようと言うのだ? そこまで命を懸ける義理など何もないぞ」
「命の危険を冒しての商いは、普段からの事ではないか。だがまあ何の益も無い事を話し合おうと言うのではない、鷹司卿が直接荷を運べないなら、我らが運ぼうと言う事だ」
「馬鹿なことを申すな、先の話でも命懸けの事だったのだぞ。今回はすでに襲撃が始まっている話だ、六角様に正面から敵対などできぬわ!」
「表向きは鷹司卿の荷を運ぶのではない、帝や朝廷の荷を運ぶのだ、管領も六角様も襲う訳には行くまい」
「お主は馬鹿か? そのような都合のよい話が通るはずがないではないか! 直接荷は襲われぬであろう、だが六角様の領内で暮らす我々は、皆殺しに会うのが落ちじゃ! その後に石塔、小幡、沓懸に取って代わられるだけじゃ!」
「彼らも巻き込むのじゃよ、そうすれば六角様も手出しできまい?」
「本当に御主は馬鹿だな! 彼らがこのような愚かな企てに加わる筈もなし、加わったとしても一緒に滅ぼされ、今度は五箇商人が六角様に重用されるだけじゃ」
「ならば五箇商人どもも仲間に加えてはどうじゃ?」
「話にならん、皆の衆帰ろうぞ、無駄な刻を使ってしまったわ!」
「まあ待て、待ってくれ! よく考えてくれ、皆で考えて抜け道を探し出せぬか? 今まで鷹司卿が運んでおった荷を、全て肩代わりできるのだぞ、その利益がどれほど莫大な物に成るかは分かっておろう? それをみすみす考えもせず捨てるのか? それでもそなたら保内商人か! 考えて考えて考え抜いた末で、何の手立てもないのか? 本当に手立てがないのか?」
「ふ~む、まあ集まってしまった後じゃ、皆で酒でも飲みながら四方山話しをするのも悪くはない。駄目元で話してもよいか、皆の衆?」
「久し振りで皆が集まったのじゃ、六角様を出し抜けるかどうか話すのも悪くはない、駄目で元々なのだからな」
「そうじゃそうじゃ、よい酒の肴に成るわ」
3月美濃稲葉山城:義信視点
漂泊者たちからの知らせを受けて、急遽伝書鳩を各所に飛ばして、荷役中止を伝えた。だが残雪を押して峠越えしていた荷役が襲われ、今上帝や朝廷のために用意した貴重な荷が奪われてしまった。
冬の間運べなかった、高価な薬・焼酎・絹などを、全て奪われてしまった。だが荷などどうでもいい、殺された荷役は生き返る事などないのだ。
幼き頃から俺を経済面から支えてくれた、大切な大切な荷役衆が惨殺された、絶対に許さない!
密かに知らせてくれた者の一族以外は、甲賀衆を根切りにする!
だがこれで、今後の戦略を練り直さねばならない。今上帝や親王殿下はもちろんだが、仲間たちを困窮させる訳にはいかない。今川・織田・一向宗は後回しにしてでも、京への道を確保せねばならない。
俺が見落としている戦術があるかもしれないから、少しでも多くのアイデアが欲しい。稲葉山城に戻れる将を全て集めて、緊急会議をせねばならん。
「重大な事が起こった! 今上帝や親王殿下に御贈りしていた荷が襲われ、荷役が殺された上で荷を全て奪われた。やったのは甲賀衆で、やらせたのは六角と細川管領だ、今後どうすべきと皆は思うか?」
「報復すべきと申し上げたい所ですが、今この状態で近江に攻め込めば、背後を織田、一向宗、今川に襲われます。ここは朝廷から直々の抗議して頂き、その上で正式な行列を仕立てて、献上品を送るのがよいと思われます」
飛影が正攻法を提案して来た。
「それが一番正しい手段とは思われますが、ここまで思い切った手を使ってきたのです、献上御用の行列を仕立てても、山賊を装い襲ってくると思われます。帝や朝廷は御不自由なされるでしょうが、六角を下すまでは献上を取り止められてはいかがでしょうか? そうすれば六角や管領を非難する声が、朝野に溢れましょう」
八柏道為が献策をしたが。
「それはない! 若殿に今上帝と朝廷に御不自由をおかけする選択はない、若殿! 我に甲賀襲撃を御命じ下さい。僧兵たちなら日頃より山岳修行をしておりました、もう少し雪解けが進めば、山を抜けて甲賀の里に奇襲を掛ける事ができます。先の伊那焼き討ちの報復もせねばなりません! どうが甲賀襲撃を御命じ下さい!」
狗賓善狼が強行策を提案して来た。
「甲賀襲撃は否定しないが、もう少し兵力が欲しいし、進退路を確保してからの方がよい。若殿が将兵に、不要な危険を押し付けるのを嫌われるのは、善狼殿も知っておろう。ここはまず安全に献上品を届ける策から話し合おう」
滝川一益が提案して来た。
「だが正式な献上御用を立てても、山賊に偽装した甲賀衆に襲われるのであろう? そもそも不可能ではないか?」
善狼が問いかえす。
「管領や六角が、偽装した甲賀衆を使えたとしても、襲う事を躊躇う者はおらぬか?」
一益が皆の考えを催すように問いかける。
「ふむ、管領や六角が対決をしたくない相手と言えば、三好か?」
俺が確認する。
「はい若殿、今回の献上品襲撃が露見すれば、管領と六角は今上帝と朝廷の心証を著しく悪くするでしょう。そうなれば、次期将軍擁立で対立する三好はよろこぶでしょう。管領と六角を討伐する、よい大義名分ができたとも思う事でしょう。ここで三好と組んで、管領と六角を挟撃するのも手ではございます。ですが若殿が、後々の事を御考えになり、一度でも三好と結ぶ事を善しとなされないのであれば、堺商人に献上品御用を任されてはどうでしょう?」
「俺の矜持など、もはやどうでもよい、2度同じ過ちは繰り返さん! 今川と婚を結んだ後で裏切り、駿河に攻め込めばよかったものを、裏切り者のを汚名を嫌って武田包囲網を作らせてしまった。後々の事などその時考えればよい、今は三好と組んで、今上帝と親王殿下に献上品を届けられるならそれでよい」
「ならば若殿、堺、諏訪、伊那、駿河、遠江の商人に、献上御用を依頼致しましょう。荷役を襲われた事は、証拠がありません。六角と管領に否定されれば、朝廷も表立って非難できません。しかし六角領内で献上御用の商人が襲われれば、もはや言い逃れはできません」
「商人たちに危険はないか?」
「命と利を天秤に掛けて、利があると思った者が引き受けましょう。商人自身の責でございます、若殿が御気にされる事ではございません。それに商人も馬鹿ではございません、若殿の背後を脅かす今川領内の商人などは、管領と六角が今川商人を襲う事を躊躇(ためら)うと、判断した者だけが参加しましょう」
「うむ、商人どもの自己責任か、それに各所の商人が合同で隊列を組めば襲撃し難いか?」
「はい、それに襲撃してくれれば、朝敵として三好と組んで討伐する大義名分が立ちます」
「うむ、1手はそれと決めよう。他の手と言っても海路は難しい、尾張の湊を無理して手に入れても、長島、北伊勢、紀伊が敵の手にある以上、海上で襲われては誰がやったか証(あかし)だてができんし、報復の軍を起こす事もできん。加賀に確保した湊から出るにしても、加賀の大半と若狭が敵の手にある。無理をして船を失う訳にはいかないから、もう少し越中の海賊衆が育ってからでない動けん」
「若殿、三好と交渉して挟撃の約束ができてから、献上御用の商隊を送る事で宜しゅうございますか?」
「他に策のある者はおるか? なければ三好との協調に決する!」
「将兵に疲れが見えるか?」
「はい、一向宗の執拗な嫌がらせに、厭戦(えんせん)気分が広がっています。皆望郷の念に囚われているようでございます」
「もう酒は切れてしまったのだな?」
「はい、戦傷者の消毒に使ったため、想定より早くなくなってしまいました。しかしお陰で戦傷で亡くなる者が、驚くほど減りました。こればかりは仕方なき事でございます」
「米や麦などの兵糧の買い入れと備蓄は、当初の想定以上なのだな?」
「それはもう、各城砦群に山の様に積み上げております」
「では将兵のために、あれを作るか。古参の近習衆は、俺と一緒に作った事があるだろう。もう農繁期に入る頃だから、一向宗も全力で攻めることはできまい。古参近習衆の指揮で、水飴を作って将兵を慰労してやれ」
第二次世界大戦時の慰問袋には、キャラメル・羊羹(ようかん)・大麻煙草・酒が主だったようだが、今の俺に与えてやれるのは水飴くらいしかない。
同じ釜の飯を食った戦友ではないが、各組の将兵が一緒に水飴作って食べれば、少しは気が紛れるかもしれない。
大麻煙草はこの時代では、普通に身近にあるのだが、どうも前世の影響か使う気がしない。将兵が使うのを禁止するほど野暮ではないが、積極的に与える気にはなれない。
3月酒人座:第3者視点
「それは真か!」
「はい、管領は鷹司卿が京に贈られる荷を襲い強奪する様に、六角様に依頼したようでございます」
「まさかそれを六角様が受けたと言うのか? いや受けたのだな、そして甲賀に命じた、だからお前がその事を知っているのだな?」
「はい、甲賀衆から密かに鷹司卿に知らせてくれと、内々に依頼がありました」
「甲賀衆の中にも、この依頼を嫌がっている者もいると言う事か?」
「はい、先の伊那焼き討ちを心から嫌悪している者もおりますので、それに続けて帝や朝廷に贈られる荷を襲うなど、畜生の所業と増悪しておりました」
「だが間に合うのか? すでに荷役は動き始めておるのではないか? いや、そんな悠長な事を言ってる場合ではないな。信頼できる者を厳選して、美濃の鷹司卿にこの事を伝えよう。他の座長にも伝えて、今後の対処を話し合う。よく伝えてくれた、内々でこの事を伝えてくれた甲賀衆の名も、鷹司卿に伝えてもよいのか?」
「いえ、それは長だけの胸に収めてください。儂が美濃から帰れなかった場合だけ、信頼できる者に教えて、鷹司卿の耳に入れて欲しいのです」
「分かった約束しよう、だがお前が直に美濃に行くのか?」
「これほどの大切な秘密を明かしてくれた者に対する礼儀です。次の小屋掛けに出れないかもしれませんが、お許しいただけましょうか?」
「許す! 気をつけて行って参れ」
「は!」
3月蒲生郡の保内商人:第3者視点
「しかしそれは本当の事なのか? いくらなんでも帝や朝廷への献上品を襲うなど、露見したら外聞が悪すぎて、利よりも損が多いのではないか? そこまで管領や六角様が愚かとは思えんがな」
「隊列を組んでの献上ではない、関を破る担ぎが少数で獣道を行くのだ。甲賀衆の手練れが秘かに襲えば、証拠など何も残らぬ。しかも運ばれている荷は、薬や焼酎に絹などの、目玉が飛び出るくらい高価な物だ。管領は鷹司卿からの支援が切れて、軍を維持できなくなってきている。背に腹はかえられぬのだろう」
「それが本当として、なぜ我らに知らせて来たのだ? 我らに鷹司卿に伝えろと言う事か? そのような危険を冒せるものか! 伝えたければ非人共が自分たちでやればよかろう」
「この情報は、内々に伝えられたものと、日吉大社を通じて伝えられたものがあるのだ」
「大社様からとは穏やかではないな、どういうことだ?」
「鷹司卿からの献上品が止まると、帝や朝廷が困窮為されると言う事だ! 鷹司卿の献上品で、帝や朝廷もやっと暮らし向きがよくなられたのは知っておろう。伊勢神宮の式年遷宮を執り行うことができたのも知っておろう、それが全て無に帰る事になり兼ねぬのじゃ!」
「そんな事を申しても、それが今のこの世ではないか。先の会合でも、六角様を欺(あざむ)いて商(あきな)いする事を決めたが、それ以上の危険を冒して何をさせようと言うのだ? そこまで命を懸ける義理など何もないぞ」
「命の危険を冒しての商いは、普段からの事ではないか。だがまあ何の益も無い事を話し合おうと言うのではない、鷹司卿が直接荷を運べないなら、我らが運ぼうと言う事だ」
「馬鹿なことを申すな、先の話でも命懸けの事だったのだぞ。今回はすでに襲撃が始まっている話だ、六角様に正面から敵対などできぬわ!」
「表向きは鷹司卿の荷を運ぶのではない、帝や朝廷の荷を運ぶのだ、管領も六角様も襲う訳には行くまい」
「お主は馬鹿か? そのような都合のよい話が通るはずがないではないか! 直接荷は襲われぬであろう、だが六角様の領内で暮らす我々は、皆殺しに会うのが落ちじゃ! その後に石塔、小幡、沓懸に取って代わられるだけじゃ!」
「彼らも巻き込むのじゃよ、そうすれば六角様も手出しできまい?」
「本当に御主は馬鹿だな! 彼らがこのような愚かな企てに加わる筈もなし、加わったとしても一緒に滅ぼされ、今度は五箇商人が六角様に重用されるだけじゃ」
「ならば五箇商人どもも仲間に加えてはどうじゃ?」
「話にならん、皆の衆帰ろうぞ、無駄な刻を使ってしまったわ!」
「まあ待て、待ってくれ! よく考えてくれ、皆で考えて抜け道を探し出せぬか? 今まで鷹司卿が運んでおった荷を、全て肩代わりできるのだぞ、その利益がどれほど莫大な物に成るかは分かっておろう? それをみすみす考えもせず捨てるのか? それでもそなたら保内商人か! 考えて考えて考え抜いた末で、何の手立てもないのか? 本当に手立てがないのか?」
「ふ~む、まあ集まってしまった後じゃ、皆で酒でも飲みながら四方山話しをするのも悪くはない。駄目元で話してもよいか、皆の衆?」
「久し振りで皆が集まったのじゃ、六角様を出し抜けるかどうか話すのも悪くはない、駄目で元々なのだからな」
「そうじゃそうじゃ、よい酒の肴に成るわ」
3月美濃稲葉山城:義信視点
漂泊者たちからの知らせを受けて、急遽伝書鳩を各所に飛ばして、荷役中止を伝えた。だが残雪を押して峠越えしていた荷役が襲われ、今上帝や朝廷のために用意した貴重な荷が奪われてしまった。
冬の間運べなかった、高価な薬・焼酎・絹などを、全て奪われてしまった。だが荷などどうでもいい、殺された荷役は生き返る事などないのだ。
幼き頃から俺を経済面から支えてくれた、大切な大切な荷役衆が惨殺された、絶対に許さない!
密かに知らせてくれた者の一族以外は、甲賀衆を根切りにする!
だがこれで、今後の戦略を練り直さねばならない。今上帝や親王殿下はもちろんだが、仲間たちを困窮させる訳にはいかない。今川・織田・一向宗は後回しにしてでも、京への道を確保せねばならない。
俺が見落としている戦術があるかもしれないから、少しでも多くのアイデアが欲しい。稲葉山城に戻れる将を全て集めて、緊急会議をせねばならん。
「重大な事が起こった! 今上帝や親王殿下に御贈りしていた荷が襲われ、荷役が殺された上で荷を全て奪われた。やったのは甲賀衆で、やらせたのは六角と細川管領だ、今後どうすべきと皆は思うか?」
「報復すべきと申し上げたい所ですが、今この状態で近江に攻め込めば、背後を織田、一向宗、今川に襲われます。ここは朝廷から直々の抗議して頂き、その上で正式な行列を仕立てて、献上品を送るのがよいと思われます」
飛影が正攻法を提案して来た。
「それが一番正しい手段とは思われますが、ここまで思い切った手を使ってきたのです、献上御用の行列を仕立てても、山賊を装い襲ってくると思われます。帝や朝廷は御不自由なされるでしょうが、六角を下すまでは献上を取り止められてはいかがでしょうか? そうすれば六角や管領を非難する声が、朝野に溢れましょう」
八柏道為が献策をしたが。
「それはない! 若殿に今上帝と朝廷に御不自由をおかけする選択はない、若殿! 我に甲賀襲撃を御命じ下さい。僧兵たちなら日頃より山岳修行をしておりました、もう少し雪解けが進めば、山を抜けて甲賀の里に奇襲を掛ける事ができます。先の伊那焼き討ちの報復もせねばなりません! どうが甲賀襲撃を御命じ下さい!」
狗賓善狼が強行策を提案して来た。
「甲賀襲撃は否定しないが、もう少し兵力が欲しいし、進退路を確保してからの方がよい。若殿が将兵に、不要な危険を押し付けるのを嫌われるのは、善狼殿も知っておろう。ここはまず安全に献上品を届ける策から話し合おう」
滝川一益が提案して来た。
「だが正式な献上御用を立てても、山賊に偽装した甲賀衆に襲われるのであろう? そもそも不可能ではないか?」
善狼が問いかえす。
「管領や六角が、偽装した甲賀衆を使えたとしても、襲う事を躊躇う者はおらぬか?」
一益が皆の考えを催すように問いかける。
「ふむ、管領や六角が対決をしたくない相手と言えば、三好か?」
俺が確認する。
「はい若殿、今回の献上品襲撃が露見すれば、管領と六角は今上帝と朝廷の心証を著しく悪くするでしょう。そうなれば、次期将軍擁立で対立する三好はよろこぶでしょう。管領と六角を討伐する、よい大義名分ができたとも思う事でしょう。ここで三好と組んで、管領と六角を挟撃するのも手ではございます。ですが若殿が、後々の事を御考えになり、一度でも三好と結ぶ事を善しとなされないのであれば、堺商人に献上品御用を任されてはどうでしょう?」
「俺の矜持など、もはやどうでもよい、2度同じ過ちは繰り返さん! 今川と婚を結んだ後で裏切り、駿河に攻め込めばよかったものを、裏切り者のを汚名を嫌って武田包囲網を作らせてしまった。後々の事などその時考えればよい、今は三好と組んで、今上帝と親王殿下に献上品を届けられるならそれでよい」
「ならば若殿、堺、諏訪、伊那、駿河、遠江の商人に、献上御用を依頼致しましょう。荷役を襲われた事は、証拠がありません。六角と管領に否定されれば、朝廷も表立って非難できません。しかし六角領内で献上御用の商人が襲われれば、もはや言い逃れはできません」
「商人たちに危険はないか?」
「命と利を天秤に掛けて、利があると思った者が引き受けましょう。商人自身の責でございます、若殿が御気にされる事ではございません。それに商人も馬鹿ではございません、若殿の背後を脅かす今川領内の商人などは、管領と六角が今川商人を襲う事を躊躇(ためら)うと、判断した者だけが参加しましょう」
「うむ、商人どもの自己責任か、それに各所の商人が合同で隊列を組めば襲撃し難いか?」
「はい、それに襲撃してくれれば、朝敵として三好と組んで討伐する大義名分が立ちます」
「うむ、1手はそれと決めよう。他の手と言っても海路は難しい、尾張の湊を無理して手に入れても、長島、北伊勢、紀伊が敵の手にある以上、海上で襲われては誰がやったか証(あかし)だてができんし、報復の軍を起こす事もできん。加賀に確保した湊から出るにしても、加賀の大半と若狭が敵の手にある。無理をして船を失う訳にはいかないから、もう少し越中の海賊衆が育ってからでない動けん」
「若殿、三好と交渉して挟撃の約束ができてから、献上御用の商隊を送る事で宜しゅうございますか?」
「他に策のある者はおるか? なければ三好との協調に決する!」
「転生武田義信」を読んでいる人はこの作品も読んでいます
-
-
2.1万
-
7万
-
-
6,645
-
2.9万
-
-
170
-
59
-
-
64
-
22
-
-
1.2万
-
4.8万
-
-
5,170
-
2.6万
-
-
5,030
-
1万
-
-
9,691
-
1.6万
-
-
8,170
-
5.5万
-
-
2,492
-
6,724
-
-
3,146
-
3,386
-
-
610
-
221
-
-
1.3万
-
2.2万
-
-
3,540
-
5,228
-
-
9,386
-
2.4万
-
-
6,176
-
2.6万
-
-
153
-
244
-
-
1,292
-
1,425
-
-
2,858
-
4,949
-
-
6,656
-
6,967
-
-
6,044
-
2.9万
-
-
1,289
-
8,764
-
-
3万
-
4.9万
-
-
341
-
841
-
-
6,207
-
3.1万
-
-
442
-
726
-
-
71
-
153
-
-
49
-
163
-
-
1,861
-
1,560
-
-
81
-
281
-
-
3,643
-
9,420
-
-
986
-
1,509
-
-
217
-
516
-
-
12
-
6
-
-
105
-
364
-
-
58
-
89
-
-
63
-
43
-
-
19
-
1
-
-
81
-
138
-
-
358
-
1,684
-
-
28
-
46
-
-
3
-
1
-
-
202
-
161
-
-
2,940
-
4,405
-
-
7,460
-
1.5万
-
-
2,621
-
7,283
-
-
194
-
926
-
-
23
-
2
-
-
9,166
-
2.3万
-
-
179
-
157
-
-
4,916
-
1.7万
-
-
1,640
-
2,764
-
-
37
-
52
-
-
59
-
87
-
-
98
-
15
-
-
86
-
30
-
-
401
-
439
-
-
33
-
83
-
-
3,202
-
1.5万
-
-
83
-
150
-
-
40
-
13
-
-
1,254
-
944
-
-
611
-
1,139
-
-
236
-
1,828
-
-
78
-
2,902
-
-
2,419
-
9,367
コメント