転生武田義信

克全

第78話美濃攻略中に内部改革

11月美濃関城:義信視点

関城が燃え上がっている、大竹矢の先に付けた肥松を燃やして、大弩砲で撃ち込んだのだ。大竹矢も燃えているのだろう、パンパンと竹が焼ける独特の音がする。

今回も長井一族は皆殺しにした。

確か此奴(こやつ)が史実で、義龍に弟殺しと父殺しを唆(そそのか)したはずだ。こんな奴は、生かして置いたら碌(ろく)な事にならないだろう。

だが降伏して来た長井家の将兵は、鷹司家の傘下に組み入れる事にした。だがその待遇は、実戦で実力を見た上で配置を決めると、上司予定の古参近衛兵に言わせた。早い話が陪臣待遇だ。

これからは厳しい戦いになるかもしれない、だとすれば、そろそろ指揮権継承順位を導入していかないといけない。

戦国末期の日本と、同時期のヨーロッパ諸国の軍を比べた本を読んだ事がある。

日本は鉄砲保有率が著しく高く、砲撃力と遠距離攻撃能力が圧倒的に強い。だが指揮権継承の考えがないのと、国衆単位の結束のため、国衆大将が戦死すると、部隊が潰走すると言う事だった。

だから近衛府で国家単位の軍とした上で、階級を設けて指揮権継承を普段から徹底し、大将が戦死しても継戦出来る体制を築いておく!

同時に諸兵科連携も考えておかないといけない。

戦国時代の日本軍最強説に対抗するのが、ヨーロッパは既に中世の騎士時代から近代に移行しており、鉄砲隊で戦を左右するのではないと言う説だ。

大砲兵・騎兵・鉄砲兵・歩兵を効率よく組み合わせる、諸兵科連携戦術に移行していたので、無暗に鉄砲を増やす必要がなかったと言う説だ。

確かにこの時代のヨーロッパは、大航海時代に突入しており、日本に南蛮船が来るくらいだった。鉄砲だってそもそも南蛮人が持ち込んだ物だ。

後30年程度で、スペインとイギリスで制海権を掛けた大海戦が行われるはずだ。史実ではイギリスが勝ったはずだが、俺のバタフライ効果はヨーロッパまで影響していないよな?

将来どうなるのかは分からないが、もう俺はすでに、戦国時代で使える軍事技術を全て出してしまっている。

後俺にできるのは、出し切った軍事技術の運用術で差を付ける事しかない。

史実を知る有利さで大戦略を考え、忍者を活用して情報を収集して戦略を決め、そして各部隊を上手く組み合わせる戦術を駆使する。そうしないと、どんな落とし穴に嵌(はま)るか分かったものじゃない。

「一益、御苦労であった」

「お褒めの言葉を賜り、恐悦至極(きょうえつしごく)にございます。若殿の策を真似させて頂けたので、簡単に諸城砦を攻略することが出来ました」

「いやいやよくやってくれたよ、どれほど策を授けても、勝手をして負ける愚か者もおる。他者のよき所を取り入れ、己が力とする事のできる者は多くない。一益は一軍の将としての才がある、これからも奢(おご)る事なく精進(しょうじん)いたせ、期待しておるぞ!」

「あ、有難き御言葉、感謝の言葉もございません!」

おいおい泣くんじゃないよ、一益の才能を史実で知っていたから特に目を掛けていただけで、俺に人物鑑定眼がある訳じゃない。知る限りの戦術や戦略を、軍略会議にかけて皆で討論して来ただけだ。

その知識も史実を知った上で、読んだことのあるシミュレーション小説の策を皆に提案して、この時代に合わせる様に練り直してもらえたからの成果だ。

「今後は展開によって、一益に別働部隊の大将を任せることもある、皆もその心算で居る様に」

「「「「「は!」」」」」

さて、これで飛騨川上流は完全に支配下に入った。

城砦にいた将兵の家族は、美濃でも雪の少ない平城に移動させて、人質兼守備兵とした。

雪の多い山城には、黒鍬輜重か信濃衆を入れた。

困った事に、また手元から信用できる兵が減る。仕方ない事だか少し不安になる。

俺が長良川を越えて跡部城に迫ると、城主の跡部将監頼利と一族は逃げ出した。

ここで長良川上流の城砦群の攻略に、狗賓善狼を別働部隊大将に抜擢する事にした。

もうこれ以上近衛兵を手元から失いたくない俺は、僧兵8000で部隊編成する事にした。

そうなると飛影などの修験道出身者が指揮官に適任だが、飛影はすでに別働部隊の総指揮官経験がある。

今後の事を考えると、方面軍司令官の育成は急務だ。だからこその、飯綱使い出身の狗賓善狼の抜擢だった。身辺警護に欠かせない犬狼部隊は俺自身で指揮できるし、犬狼を操れる近習衆も十分育っている。





11月常陸:神田将監視点

「情けなき事ながら致し方ございません」

「だがな将監、小笠原弓馬礼法宗家たる儂が、そのようなことをやる訳にはいかんのだ」

「殿! そのような事では、戦国の世を生きていけませんぞ。まして信濃を取り返すなど、夢物語となりますぞ。殿は新たな弓馬礼法術を創設する、小笠原家中興の祖と御成りに成るのです!」

「そうとしか思わねばこのような事やれぬわ!」

殿には申し訳ない所もあるが、義信の戦振りの戦果を見れば、その戦法を真似るしかない。

越中・信濃・出羽での、騎馬鉄砲隊の破壊力は絶大だった!

我が小笠原騎馬隊でも、鉄砲を取り入れなければならん。

取り入れることができなければ、小笠原家が滅んでしまうだけだ。

この戦国の世では、古きに囚(とら)われるは悪なのだ。

我が小笠原騎馬隊400騎と、佐竹から預かった600騎を鍛えに鍛える。

そうでなければ、苦労して集めた鉄砲が塵(ごみ)に成ってしまう。





11月尾張那古野城:第3者視点

「坊主どもの返事は?」

「は! 加賀の支援があるため、尾張への援軍は難しいとの事でございましたが、雑賀・根来・長嶋に話はつけるとの事でございました」

「国友から買い入れた1000の鉄砲と、雑賀・根来・長嶋から雇入れた鉄砲衆1000で、どれくらい対抗できるかだな」

「されど殿様、これでは勝手方が銭の遣り繰りに苦労いたしますぞ」

「政秀! 義信の戦振りは聞き及んでおろう、これからは鉄砲がなければ戦にならん。我の持つ1000だけでは苦しいが、2000となればどうにかなろう。銭は義信に勝って奪えばよい。美濃で湯水(ゆみず)の如(ごと)く使っておるのだ、本陣には唸(うな)るほどの銭を蓄えておろう。

「確かにそうでございますな、ならばそれはよいとして、信友様、信安様、信勝様はどうなさいますか?」

「愚かな奴らよ! 尾張が攻め取られようとする時に一族で争うとは、このままでは織田一門が滅んでしまう」

「されど信勝様は、我は鷹司様に認められた弾正忠家の正当な当主と、家中の者に触れ廻っておるとの事ですが?」

「奴が愚か者だから義信は支援しておるのだ、もし我の方が愚かであれば、義信は我を支援しておるわ! 全ては尾張を、いや織田一門を相争わせるためよ! 家中の者は、そんな簡単な事も分かっておらぬ。いや、成り上がるために、義信の意図を分かっていながら、煽(あお)っておる者もおるようだがな!」

「その事を、家中の者に話されれば宜(よろ)しいではありませぬか」

「愚か者には何を言っても無駄じゃ! 言いたければ政秀が言えばよかろう」

「承りました、政秀が命懸で家中一門を纏めてみせます」

「命は懸けずともよい、愚か者どもが理解せぬからと死んでおっては、命がいくらあっても足らぬわ!」

「有り難き御言葉、ならば命は懸けずに誠心誠意説得してまいります」

「ふん! その程度でよい、愚か者どもが義信に付いた場合でも、我が勝てる策を考えねばならん。政秀も考えておくのじゃ、死んだ者など役に立たん、生きて我の役に立つのじゃ」

「有り難き御言葉」





11月美濃大桑城:義信視点

俺が長良川を渡った時点で、大桑城を抑えていた兵どもは、逃げ散るか降伏して来た。

それによって我が軍に、大桑城を守っていた、信頼できる近衛槍足軽隊3000兵、近衛弓足軽隊1000兵と、馬場信春の寄騎子飼220騎1100兵が加わった。

「頼芸大叔父殿、御無事で何より出でございます。信龍叔父上も御無事で何よりです、信春もよく叔父上を助けて城を守り切ってくれた」

「鷹司卿の御助勢、感謝の言葉もござらぬ。お陰を持ちまして、土岐家を保つ事ができました」

「いえいえ、すでに鷹司家と土岐家は親類、何があっても御助勢いたしますぞ」

うちそろってやって来た、土岐家の譜代衆の表情に安堵感が見えるが、それは仕方ないだろうな。大軍に囲まれての籠城は、心身に堪えるだろう。まして何度も家臣に裏切られて、美濃から逃げ出した事もあったのだ。

後援者の織田信秀に見捨てられた後は、主従共に生きた心地がなかっただろう。そうでなければ土岐頼芸主従も、武田から嗣養子など迎えなかっただろう。

まあ鷹司の家名を得てなければ、上手くいかなかった可能性もある、矢張り体面は大切だな。

「若殿も壮健そうで何よりでございます、これでやっと一息つきました。守り切れると分かっていても、城から一歩も出れぬのは気が滅入りますな」

信龍叔父上も俺と同年だから、まだまだ元気があり余っているだろう、籠城戦では発散する所が限られるからな、

だが確か土岐一門から年頃の姫を頼芸の養女とした上で、正室に迎えていたはず。閨(ねや)で籠城の鬱屈(うっくつ)を発散してたとしたら、激しかっただろうな。

「左様でございますな、水も兵糧も豊かにあるとはいえ、兵どもの士気を保つのは骨が折れました」

そうだな、信春の言う通り、兵の士気は大切だ!

万が一俺が籠城する羽目になって、どこかの城に逃げ込むにしても、手持ちの兵力に合わせた公衆衛生と兵糧が整った城に逃げ込まねばならん。

そうでなければ士気が保てず、今まで使ってきた策を敵に使われ、味方だった兵に殺されるかもしれない。常にその事も考えながら、進軍経路と補給拠点を決めていこう。

まあ今なら、飯富虎昌と猿渡飛影には、安心して方面軍を預けられる。

徐々に滝川一益と狗賓善狼にも、実績を作らせていこう。そうすれば、危険な前線に俺が出張る機会も減るだろう。

いかんいかん、また悪い癖で思考の世界に入ってしまった、今は土岐家の人たちを労(ねぎら)わねばならん。

「美濃の河川で新鮮な魚を捕って持って来ておる、早速料理させよう」

「「「「「お~~」」」」」

土岐主従が喜色満面の表情を浮かべている、保存食は豊富にあっても、新鮮な食料に餓えていたのだろうな。

「若殿、焼酎は御座いませんか?」

信春が冗談めかして場を和ませながら、酒を催促(さいそく)して来る。さすがに籠城中は、酩酊できるほどは、酒も飲めなかったのだろう。

今回の遠征に当たり、極限まで濃縮した、アルコール80度以上の麦焼酎を持ち込んでいる。

少しでも嵩(かさ)を減らして、将兵が心待ちにしている、酒を輸送するためだった。現地で煮沸消毒した湯や、湯冷ましした水で割って飲むのだ。

俺は下戸なので、酒など不要なのだが、酒があると将兵の士気を保つのにとても役立つ。俺には全く理解できないが、その辺は現実に合わせるしかない。

「どびっきり強烈な酒を作って持って来ておる、湯で割って梅干を入れれば美味いそうだ。近隣の百姓から果物も買い入れおるから、それの汁を絞って入れても美味いそうだ」

「「「「「うぉ~!」」」」」

「城の守りは我らに任されよ、安心して酔われるがよかろう」

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