閉じる

転生武田義信

克全

第38話攻防3

林城(林大城)大広間:小笠原長時と神田将監

「御屋形様、先方は我にお任せを! 御屋形様は本陣にて戦況を見て攻守を決めてください」

「其方(そのうほう)は昨夜夜襲したばかりではないか、城で休んでおればよかろう」

「御屋形様、我らは武田に比べて兵力で劣ります。一戦の負けも許されません、最低でも五分の引き分けに持ち込まなければなりません。ここはどうか、攻守自在の戦術をお取りくださりますよう、お願い申し上げます」

「お主が先方で、我が本陣なればそれができると言うか?」

「御屋形様と我が、小笠原流弓馬術礼法で鍛え上げた馬廻り衆が居ります。彼らを使って武田を翻弄(ほんろう)して見せましょう。武田はそれを恐れて、一気に林城に攻め寄せて来たのです。小笠原馬廻り衆を恐れているからこそ、御屋形様を城から引きずり出し、一気に攻め滅ぼそうとしているのです。御屋形様が固く城を守り、我が夜襲を繰り返せば勝てます! どうか武田に踊(おど)らされる事なきように!」

「あいわかった! 武田に踊(おど)らされるなど恥辱(ちじょく)である。進退の見極めは誤(あやま)らん、安心いたせ!」





広沢寺の本陣:善信視点

「若殿、小笠原が動きました!」

小笠原長時が、林小城の救援に動くのを見逃さないように、多数動員していた見張りの1人が駆け込んできて報告する。

「林小城は?」

分かっているが、念のために軍師の鮎川善繁に確認する。

「左右の段郭は全て落としました。三之郭も先程落としたと伝令が参りました。後は本郭と二之郭だけでございます」

「小笠原長時が誘いに乗って林城を出て来よった。作戦通り小城には抑えの兵を残して、長時に備えるよう全将兵に伝えよ。長時は罠(わな)に嵌(は)まったぞ!」

側仕えの近習と、周りにいる将兵に聞かせる様に、大声で長時が罠(わな)に嵌(は)まった事を強調する。各武将に、城攻めの一時中止と小笠原長時迎撃を伝えるために伝令が駆けだす。同時に、長時に即時対応するために、広沢寺参道下の林城方面300mの道沿いに布陣させていた、足軽弓隊・槍隊にも伝令が駆けだす。





神田将監の騎馬隊300騎:神田将監視点

一分一秒でも早く、武田の迎撃態勢が整わない内に一撃を加えるため、まずは機動性のある騎馬だけで出陣したのだ!

騎射で陣を崩すか、陣を迂回するか、とにかく敵の強きを避けて弱きを突かねばならん。場合によっては、敵陣の中を駆けまわるだけでも、武田を大混乱に陥(おとしい)れる事ができるかもしれない。長時様の本陣が、武田本陣に切り込むためのすきを創りださねばならん。

「馬を疲れさすな、合戦時に踏ん張れぬぞ!」





田上善親(井伊直親)の足軽槍隊:第3者視点

足軽槍隊5隊と足軽弓隊5隊は、騎馬隊の機動力を少しでも阻害するため、濠擬(ごうもど)きを作り、その時に出た土を藁俵(わらだわら)に詰め土嚢(どのう)を作る。作った土嚢(どのう)は積み上げて、防壁擬きとする。さらに村井城(小屋館)から運んで来た馬防柵を、小笠原騎馬隊のじゃまになるよう、要所要所に配置した。

「来だぞ~!」

馬蹄(ばてい)の轟(とどろき)と共に、小笠原騎馬隊が駆けてくる!

300騎の騎馬隊の迫力は凄(すざ)まじい。俺は前世で、何度も競馬場に行ったことがあるが、阪神競馬場で障害レースを見るのが大好きだった。地下道を通るとコースを内側から間近で見る事ができるのだが、わずか十数頭なのに、迫りくる姿と馬蹄(ばてい)の轟(とどろき)は胸を圧する迫力がある!

それが刀槍を持ち、こちらを殺す気満々の鎧武者を乗せて、300騎で迫ってくるのだ。徳川家康じゃないが、脱糞(だっぷん)ものである。

「恐れるな! 槍隊構え! 弓隊構え!」

侍大将の於曾信安が全軍に指示を出す。





神田将監の騎馬隊300騎:神田将監視点

備えていたか!

さすが善信、小城を攻めながらも、御屋形様の出陣を考慮して陣を構えている。だが将兵は思い通り動くかな?

どこかに綻(ほころ)びがあるはず!

将兵の中には必ず愚か者や怠け者、卑怯者(ひきょうもの)が混じっておるもの、そこを探し出して突く!

「迂回!」

我が騎馬隊は武田弓隊の射程も考慮し、馬防柵を大きく迂回して広沢寺の参道を目指す。何も馬鹿正直に武田陣地攻め掛かる必要はない。陣を迂回して後方から攻め掛かるもよし、広沢寺参道下で武田軍を待ち構えるもよし。自由な戦術を採れるように、機動性のある騎馬隊だけで出陣したのだ。





田上善親(井伊直親)の足軽槍隊:田上善親視点

「小笠原騎馬隊が迂回しております」

うゎ!

拙(まず)い!

堀も壁も柵もない後方から騎馬隊に攻められる。ここが死に場所か?

俺は初陣で死ぬのか?

震えが止まらん!

爺が俺を連れて逃げてくれなければ、今頃父や叔父と同じ墓に入っていた。故郷に帰る事もできず、許婚(いいなずけ)の次郎姫(井伊直虎)に会う事もなく死ぬのか!

生き直すために武田に仕官した。そのせいで次郎姫に類が及ばないように、井伊家の通字「直」も捨てた。武名を上げたい、なのに震えが止まらん。

「善親殿、槍衾の命が出ますぞ」

爺が小さな声で教えてくれる。

「槍隊、後方に槍衾!」

侍大将の於曾信安殿の命が出る。

「敵の後方迂回には槍衾で十分対抗できます、なぁに、直ぐに慣れます」

そうなのか?

慣れるものなのか?

慣れればこの震えは止まるのか?

いや!

慣れねばならん、何としても武名を上げて一家をなすのじゃ。父上や叔父上の汚名を晴らさねばならん。そうだ、このまま武田で一家を成すなら、次郎姫との婚儀は不可能だろう。次郎姫が我に操を立ておられているようならお可哀想だ。善信様に願いでて、密かに文を送って頂こう。





神田将監の騎馬隊300騎:神田将監視点

ふぅ~ん、馬鹿が!

誰が騎馬突撃などするものか!

練達の騎射ができる強者(つわもの)を育てるのに、どれだけの時間と鍛錬が必要だと思っているんだ。足軽ごとき雑兵を100兵討ち取ったとしても、1騎の騎馬武者を失えば割に合わん。狙うは善信の首一つ!

「参道下を囲むぞ!」

「「「「「応ー!」」」」」

広沢寺(こうたくじ)の参道下に近づくと、武田の将兵が三々五々集まっていた。参道下で隊列を組もうとしているようだ、いい頃合いに着いた!

「進め!」

我が騎馬隊は一言で意味を悟り、徐々に密集隊形を整えつつ参道下に近づいてくれる。

「構え~、放て!」

短い号令だが、御屋形様と我が鍛え上げた騎馬隊は素早く弓を構えて、遠射で面制圧射撃を行う。バタバタと武田兵が矢の餌食(えじき)になり、地に這(は)う!

騎馬隊は並足で徐々に近づきながら、個別に狙いは定めずに次々と騎射をする。連続面制圧射撃だ、何の指示も受けずに一糸乱れぬ攻撃だ。武田兵は射倒(いたお)されて地に這うか、蜘蛛(くも)の子を散らすように逃げるかの2つに1つだ。わずかな時間で、参道下を我が騎馬隊が占拠する!





広沢寺の武田本陣:善信視点

「若殿、参道下に小笠原騎馬隊が現れました!」

しまった!

迎撃陣を迂回したのか?

小笠原長時は猪武者と聞いていたのだが、連続夜襲も行うし、評判と違って知勇兼備の将なのか?

それともよほど優秀な軍師が付いているのか?

「黒影、小笠原長時の軍師は誰だ?」

「恐らく神田将監でございましょう。小笠原流弓馬術礼法を修(おさ)めた、弓術と馬術の名手にして、知勇兼備の将と言われております」

「確認できるのなら、今回の参道下攻撃と夜襲の指揮を誰が行ったか調べてくれ」

「若殿! そのような悠長な話をしている間はありますまい、敵に如何(いか)に対応なさるお心算か?」

楠浦虎常が苦言を呈(てい)して来る。

「よくぞ申してくれた、だが問題ない。この速さで攻め寄せたのなら、騎馬隊だけであろう。騎馬隊ならば悪路の山道を攻め登るは苦手、参道を登って攻め寄せることはない。この境内で弓隊が隊列を組んでから、一気に攻め下れば済むことじゃ」

「愚かなことを申しました、お許しください」

楠浦虎常恥ずかしそうに謝ってくる。

「いやそれでよいのじゃ、我が見落とすことや見逃すこともある。諸将が常に苦言を呈(てい)してくれてこそ、誤りをなくすことができるのじゃ。皆の者も怖じる事なく直言してくれ!」

俺は周囲にいる全ての諸将に言い聞かせる様に話した。

さてどうする?

俺が天才なら参道下にも陣を構えて、小笠原軍を迎え討っていたのだろう。だがそこまで敵の手筋を読むことはできなかった。いや、油断と慢心だな!

互いの手筋を読むのを途中で止めてしまった事。小笠原を貶(おとし)め愚かな手を使うと決めつけていた事。自分が怠け者で能力不足なのは分かっていたはず、有利に戦えるのは、あくまでも前世の知識と言うアドバンテージがあるから。ならば大筋だけ決めて、細やかな戦術を考えてくれる軍師は必要不可欠!

鮎川善繁はなかなか使えるものの、今回の俺の見落としを指摘するだけの能力はなかった。いや反対意見を言う気概が足らなかったのか?

楠浦虎常・漆戸虎光・於曾信安は、相談役としては十分だが、軍師としては基本能力不足だし、狗賓善狼も成長途上だ。秋山虎繁を京から戻すわけにもいかん。ならば御屋形様の配下から頂くか?

ならば誰がよい?

真田幸隆は今どうしてるんだろう、御屋形様におねだりするか!





神田将監の騎馬隊300騎:神田将監視点

武田勢が攻め下って来たか!

槍隊を先頭に弓隊で我らに対抗する心算か?

我が騎馬隊は1騎たりとも無駄死にさせるわけにはいかん!

だが負けて逃げたと言われては、御屋形様の信濃守護としての鼎(かなえ)の軽重(けいちょう)に係わり、信濃衆の離反を招きかねない。ならば勝ちつつ撤退する!

「構え! 放て~!」

武田弓隊の射程外から、武田槍隊だけを狙って遠距離騎射させた。

「前列後退!」

一言の指示で、騎射した前列だけが馬首を巡らせて後退した。

「構え! 放て~!」

中列の指揮官の指示で遠距離騎射が射られた。これも武田弓隊の射程外から、先頭の武田槍隊だけを狙ったものだ。

「中列後退!」

中列指揮官の指示で、中列騎馬隊が馬首を巡らせて後退する。

「構え! 放て~!」

後列の指揮官の指示で遠距離騎射が射られた。

我が騎馬隊は3隊で徐々に後退しながら、武田弓隊の射程外から遠距離騎射を続ける。





広沢寺参道下の武田軍

加津野昌世は、小笠原騎馬隊の遠距離騎射に耐えに耐えていた。何としても参道下の広場を確保して、陣形を整える。扶持武士団の雑兵など幾らでも補充が利く、弓足軽は訓練が必要だから大切にせねばならん。

「槍隊前へ出よ! 参道下を確保するのじゃ!」

「転生武田義信」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「歴史」の人気作品

コメント

コメントを書く